ジチタイワークス

地方公務員の活性化と「にっぽんの田舎が元気になる」ために必要なこと。

自治体職員の中には「公務員として今後のキャリアが見えない…」「新しいことに挑戦したいけれど最初の一歩が踏み出せない…」といった悩みをかかえている職員も少なくないかもしれない。

そこで今回は、自治体職員から新しい道へ挑戦する寺本英仁さんのキャリアに着目。
島根県邑南町の「A級グルメ」の仕掛け人で、2022年3月に28年間務めた役場を退職し、株式会社ローカルガバナンスを立ち上げ、地方創生にまい進する寺本さんに、食による地域おこしの観点から「今だからこそ語れる“現役公務員”に伝えたいこと」を伺った。
 

(1) まちづくりを広げるために自治体から外へ、“邑南町A級グルメ”仕掛け人の決意。
(2) 地方創生を目指し、自治体の中から実現できなかったことを民間で実現したい。
(3) 地方公務員の活性化と「にっぽんの田舎が元気になる」ために必要なこと。 ←今回はココ

ピンチをチャンスに、若手公務員の力で「にっぽんを元気にする」。

1年前、邑南町役場を退職して「にっぽんの田舎を元気にする」をコンセプトに起業しました。まず、「にっぽんの田舎が元気になる」ために一番必要なこと。それは、地方公務員が元気になることが大切だと僕は考えました。

新型コロナウイルス感染症が世界にまん延し、誰も経験したことのないことを全世界の人が体験しました。3年が経過した今、やっと沈着ムードになってきていますが、感染が拡大し始めたころは、各国の政府も企業もこの問題をどのように解決してよいか分からなくなっていました。特に地方自治体においては、国の指示を待つケースが多かったです。

しかし、国も未知の状況の中、明確な指示が出せるわけではありませんでした。感染を抑える対策か、経済を動かすことを優先するのか、誰も決めることなくこの3年が経過しました。

そして今思うと、一番被害が大きくなっているのは、社会的弱者なのではないかと思います。国は賃金の10%引き上げを掲げていますが、それができるのは大企業のみで、多くの中小企業は賃金を上げることができず、物価は上昇し、消費の低下を国全体で招いています。特に地方に行くとその状況は明らかです。

退職してから日本中を駆け巡る中で、僕が一番強く感じたことは、東京や北海道、沖縄などもともと観光資源の豊富な地域は、コロナ前の勢いを取り戻しつつあるが、僕が住む邑南町のような過疎化が進むまちでは、コロナ前よりもっと観光客が減っているように感じます。地域格差が、このコロナ禍でさらに広がったように感じています。地方の自治体、特に中山間地や離島地域など高齢化率が40%を超える自治体は、大ピンチを迎えることになります。

そこで、このピンチをチャンスに変えることができるのは、若手公務員の存在が非常に大きいと感じています。

 

コロナ禍でさらに浮き彫りになった住民との距離感。

現在、公務員という職業は大学生にとって「安定が魅力」という理由で人気の一つになっています。しかし、それは東京都や政令指定都市など大都市の公務員のことで、地方では職員の募集をしても定員に達していないケースも多いです。

実際、邑南町役場では今年3月に10名以上の退職者がいました、新規採用はその半分もいませんでした。これは、役場でいうと一つ課が存在しなくなったと同じような状況になり得ます。

この状況は、邑南町だけが特別ではなく、地方の公務員リクルートにとっては大変な状況になっています。なぜ地方公務員が不人気なのか考察してみると、人員不足による1人当たりの業務量がかなり増えているからです。

この原因として、平成の大合併以降の行政改革という名のもとの人員削減が大きな理由として挙げられます。邑南町は、合併時に300人以上いた職員が、今では200人程度に削減されています。また、国や県から権限移譲という名のもとに、市町村に約300程度の事務事業が移管されたことももう一つの理由です。

要するに、職員は減って仕事が増えています。この状況だと1人当たりの業務量はどうしても増え、肉体的にも精神的にも健康を損ねてしまい、業務へのモチベーションの低下や早期退職を招くキッカケになります。

僕が役場に入庁した29年前、地元では役場職員はまさしく「花形職場」として住民から羨望のまなざしで見られていました。もちろん、社会保障の安定も大きな魅力の一つですが、それ以上に職員自身にも「役場職員は地域のリーダーである」という気持ちがありましたし、まちの人も困ったことがあれば、近所の役場職員に相談しに来ていました。

確かに役場には多くの情報があり、その情報をいかに住民に伝えるかが、当時は大切だと考えられていました。それが合併後、広域行政になった影響もあり、職員と住民の距離が遠くなったことを感じます。そしてコロナ禍になり、感染対策のためできる限り人との接触を避けた3年間が、劇的に公務員と住民の距離を広げていきました。

僕は本来、地方公務員は住民と近い存在でなければならないと思っています。このコロナ禍で常に感じていることが、前例主義と横並主義は通用しなくなったということです。コロナ対策に前例はないし、各自治体で感染状況が異なる中、横並びに政策をつくってもまちの状況に適応しないということが明らかになりました。

仕事の答えは“地域”に。風通しのよい場所にこそ住民も職員も集まる。

僕は、これから「にっぽんの田舎を元気にする」真のリーダーは地方公務員だと思っています。しかし、今の体制のままではムリです。僕は昔に返り、現場主義の地方公務員を増やしていくことが大切なのではと考えます。なぜなら、「公務員の仕事の答えは地域にある」からです。

しかし、現状でも人員削減と業務量の増加で仕事がまわらない状況の中で、今まで同じスタイルで仕事をしていては現場に出ることは不可能です。では、どのようにそれを解決していくか……。それが、今、僕が取り組んでいる若手公務員の人材育成です。現在、北海道鹿部町、広島県北広島町、長野県高森町の3つの自治体でモデルケースをつくろうとしています。

この研修では、若手職員が徹底的にまちの課題を抽出して、解決策を議論していきます。そこには、必ず地域の声が必要になってきます。地域の人の課題を真剣に受け止め、それを一緒に解決していくことは、ある意味、大きな魅力につながります。

それをやるためには、今、政府が進めているDXを推進したり、組織内の業務のダブりをあぶり出したりすることも必要になります。もっと大胆な意見を言うと、民間に任せられる部分は、どんどんアウトソーシングしていけばよいと思います。

特に産業振興の部分は、民間に任せる方が成果は出やすいです。過疎地域では、行政が産業振興を中心になって進めるまちが多いですが、まちに地域商社をつくり、産業振興の本丸は地域商社に任せることも一つの手段です。

今、言ったことは一つの具体的提案であり、このような議論ができるような風通しのよいまちこそ、これからの地方公務員は目指していくべきです。風通しのよい役所やまちには、職員も住民も集まること忘れていけません。

 


寺本 英仁(てらもと えいじ)
株式会社Local Governance 代表取締役

1971年 島根県生まれ。
1994年 東京農業大学 農学部卒業。
1994年4月、島根県石見町役場(現在:邑南町役場)入庁。
邑南町が目指す【A級グルメ】の仕掛け人として、町主導の特産品のネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。
2009年に小泉内閣時に発足した『地域産業おこしに燃える人』第3期メンバーに選出。2012年に総務省地域力創造アドバイザーに就任。
2016年にNHK『プロフェショナル仕事の流儀』で、スーパー公務員として紹介される。
2018年に咢堂ブックオブザイヤー2018地方部門大賞、第3回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門大賞のW受賞をする。
2020年に『地方公務員が本当にすごいと思う地方公務員アワード2020』、『電通CP塾賞』をW受賞する。
2022年3月 邑南町役場を退職。
2022年4月 プラットフォームサービス株式会社(東京都) 取締役 地方連携特命官、東亜大学客員准教授に就任。
現在は今までの経験を活かし、地方創生アドバイザーとして活動中。

著書

ビレッジプライド 『0円起業』の町をつくった公務員の物語」ブックマン社(2018年11月9日)
東京脱出論」ブックマン社(2020年11月23日)
A級グルメが日本の田舎を元気にする~スーパー公務員が役場をやめた理由~」時事通信社(2022年9月25日)
 

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