ジチタイワークス

地方創生を目指し、自治体の中から実現できなかったことを民間で実現したい。

自治体職員の中には「公務員として今後のキャリアが見えない…」「新しいことに挑戦したいけれど最初の一歩が踏み出せない…」といった悩みをかかえている職員も少なくないかもしれない。

そこで今回は、自治体職員から新しい道へ挑戦する寺本英仁さんのキャリアに着目。
島根県邑南町の「A級グルメ」の仕掛け人で、2022年3月に28年間務めた役場を退職し、株式会社ローカルガバナンスを立ち上げ、地方創生にまい進する寺本さんに、食による地域おこしの観点から「今だからこそ語れる“現役公務員”に伝えたいこと」を伺った。
 

(1) まちづくりを広げるために自治体から外へ、“邑南町A級グルメ”仕掛け人の決意。
(2) 地方創生を目指し、自治体の中から実現できなかったことを民間で実現したい。 ←今回はココ
(3) 地方公務員の活性化と「にっぽんの田舎が元気になる」ために必要なこと。

組織の中からではなく“外から地域を救う”と決意

邑南町が「A級グルメ構想」を本年度から見直すという方針を出してから、たくさんの方と話をしました。「A級グルメ構想」は結局、邑南町にこの12年間で何をもたらしたのか、そして僕が、この経験をどのように活かしていくかが、自分自身にとって大切なことだと思っています。

なぜ、1年前に役場を退職したのか、もう一度、自分の心の中を整理してみると、これ以上、この組織にいても「A級グルメ構想」を継続できないと思ったからです。これは、もちろん自分のやり方についても大きな問題がありましたし、それを組織の中で僕自身が修復できないと判断しての決意でした。外からならば、変えることができるかもしれないと。

僕の役場職員時代は産業振興畑が長く、人口減少が進む中、過疎が進んでいるまちこそ産業振興は自治体がリードしていくしかないと考えていました。邑南町の観光施設は、宿泊施設や温泉、道の駅、全て公設民営で行われてきて多くの成果もありました。しかし、このコロナ禍、正直このやり方では乗り切れない部分も出てきました。温泉施設はいまだ閉鎖している状態であるし、邑南町の観光が復興していくには時間と知恵が必要になってきます。今こそ、民間の元気が必要だと思います。

先般、A級グルメの継続を民間事業者で発表をしました。邑南町の一般社団法人地域商社ビレッジプライド邑南と、里山イタリアンAJIKURAなど町内外でA級グルメの飲食店を運営するローカルフードラボ株式会社、そして東京都千代田区で千代田区と地方の連携促進を目指しているプラットフォームサービス株式会社の3者で行いました。

この連携により、行政では不可能であった取り組みも多く生まれると思います。エリア外の食材を使うことも可能になりますし、人材育成を共有して行うことも可能になってきます。

僕は、「A級グルメ」というワードにこだわりをもっています。周囲から見れば、過去のことだから次のステップに進めばよいではないかという意見もありますが、この取り組み自体が自分の人生そのものでもありますし、この取り組みを行ったからこそ一緒に働いている仲間もでき、多くの出会いもありました。

だからこそ、これからも僕はこの「A級グルメ」の理念が地方を救うと思いますし、推進していきたいです。

ただ、「A級グルメ」という言葉を使うか使わないかは個人の判断で、僕はそこで使い続けるという判断をしているだけで、他人に押しつける必要もないと考えています。個人個人それぞれにとっての「A級(永久)」をもっていてもよいと思います。名前のごとく、高級食材や高級レストランがA級だと思う人がいてもよいし、はたまた、地方の伝統的な食材や郷土料理といってもいいし、「A級(永久)グルメ」という言葉を使いたくない人がいれば、もちろん使わなくてよい。本当に価値あることは、自分自身に誇り(プライド)を持てる生き方ができていて、他人のその生き方も応援できる環境が大切なのではないかと思います。

しかし、これも僕個人の主観であるので、決して押しつけるものではないですが、僕自身にとっては大事なことだと捉えています。

“業務効率化”と“職員の人材育成”が地方創生のカギ

まちづくりの話に戻りますが、今、コロナ禍で地方は本当に混乱しています。コロナ前より経済が復活しないまちもたくさん存在します。そんな中で、どのように自治体は取り組んで行けばよいのでしょうか。

まちが活性化する一番の方法は「地域産業の活性化」です。しかし、先ほども述べたように、コロナ前のようにまちが先陣をきって、産業振興をやるべきなのでしょうか。過疎のまちこそ、民間企業が少ない分、行政がやるという僕のような考え方をしていては、このロジックから抜け出せないように思えるようになりました。状況をもっと分析して、効果的な戦略が必要なのではないかと考えます。

歯止めが利かない人口減少の中、自治体の職員数も平成の大合併以降大きく人員が減っています。そして、業務はすさまじいほど増えています。これは、行政改革による職員の人員削減計画と、国・県からのたくさんの権限移譲が自治体に行われ、少ない人員で、以前より大量の業務が増えた状況が、地方自治体には生まれているからです。

これを解決していく上では、業務の効率化が最優先されると思います。業務の効率化を行うには、役所内で重複している事業をあぶり出し、スリム化すること。そして、役場が本来やるべき仕事と、民間に任せた方が効率よくできる事業をいかに民間にアウトソーシングしていくかがカギになってきます。

それを目的に指定管理者制度ができ、公的施設を民間が運営するという制度が確立しましたが、この制度もコロナ禍でたくさんの問題点がでてきました。採算のとれている施設は自治体の負担はないですが、多くの施設は指定管理を運営するにあたり、事業者に委託料を支払わないと運営できない施設も多くあります。

財政状況が厳しくなった今、民間への施設の譲渡および廃止なども本気で検討していかなければ、自治体の財政が保たれなくなってきます。自治体が公共施設を建設することは、国の補助金や有利な起債を活用すれば、民間に比べて容易に建設が可能になります。しかし、この施設の維持費を毎年負担することは、自治体のお金を使わないといけないことが多く、新たな公共施設の建設は、これからは慎重にしていかなければなりません。

まちはむしろ、産業振興の観点から逆転の発想で、まちに若者がどうしたら住みたくなるかを考えればよいと思います。社会人口が増加すれば、自然に優秀な人材や企業はまちに生まれてくると思います。行政はダイナミックなフレームを考える組織に変わっていかないといけないと思います。

そこで大事なことは、やはり職員の人材育成です。特に、入庁歴の浅い若手職員の育成は大切だと感じます。彼らが、自治体として取り組むべきことを目利きができる人材になることが、地方創生のカギだと考えます。

 


寺本 英仁(てらもと えいじ)
株式会社Local Governance 代表取締役

1971年 島根県生まれ。
1994年 東京農業大学 農学部卒業。
1994年4月、島根県石見町役場(現在:邑南町役場)入庁。
邑南町が目指す【A級グルメ】の仕掛け人として、町主導の特産品のネットショップ、イタリアンレストラン、食の学校、耕すシェフの研修制度を手掛ける。
2009年に小泉内閣時に発足した『地域産業おこしに燃える人』第3期メンバーに選出。2012年に総務省地域力創造アドバイザーに就任。
2016年にNHK『プロフェショナル仕事の流儀』で、スーパー公務員として紹介される。
2018年に咢堂ブックオブザイヤー2018地方部門大賞、第3回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門大賞のW受賞をする。
2020年に『地方公務員が本当にすごいと思う地方公務員アワード2020』、『電通CP塾賞』をW受賞する。
2022年3月 邑南町役場を退職。
2022年4月 プラットフォームサービス株式会社(東京都) 取締役 地方連携特命官、東亜大学客員准教授に就任。
現在は今までの経験を活かし、地方創生アドバイザーとして活動中。

著書

ビレッジプライド 『0円起業』の町をつくった公務員の物語」ブックマン社(2018年11月9日)
東京脱出論」ブックマン社(2020年11月23日)
A級グルメが日本の田舎を元気にする~スーパー公務員が役場をやめた理由~」時事通信社(2022年9月25日)
 

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