ジチタイワークス

岡山県津山市

「FM専用基金」を有効活用し公共施設の長寿命化を図る。

近年問題になっている公共施設の老朽化。膨大な施設の管理はもちろん、修繕や改修工事にかかるコストに頭を悩ませる自治体は多い。この問題に対し、通常の予算とは別で施設保全の費用を確保する「FM専用基金」を運用しているという津山市。担当の川口さんに話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.25(2023年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

FMにかかる予算を基金で運用し、適切かつ妥当な施設保全を行う。

全国でも珍しいというFM専用基金。同市では平成27年から本格的にFMへの取り組みを開始したが、前年には総務省から「公共施設等総合管理計画」の策定要請があり、公共施設マネジメントの必要性が高まった時期でもあった。

入庁後長く建築部門にいた川口さんは、この年からFM部門に加入。「当時は毎年、施設を管轄するそれぞれの担当課から膨大な数の予算要求があるものの、予算を要求する方も、査定する方も施設の保全や補修については素人。正直なところ、適切な判断が難しい状況でした」と振り返る。「例えば500万円で済む改修工事が予算要求時には1,000万円になっていたとしても、当時の財政課では妥当かどうかの判断がつかないのです。もちろん、修繕の優先順位もつけづらい。適切な予算、順序を判断できる専門的な目が必要でした」。

このような背景からFM専用基金を創設する動きが始まる。平成28年4月にFM推進係が立ち上がると同時に、基金の運用を開始。その後、平成30年にFM活動を強化するため、FM部門に建築営繕係が統合され財産活用課が発足した。

知見をもつ人材と財政部門の連携が施設長寿命化のカギを握る。

この基金は将来に向けた“貯金や備え”ではなく、毎年度、保全に必要な費用を充てながら運用するものだ。原資は①市の遊休不動産の売却益②市民などからの寄附③前年度決算剰余金の一部など。特に①については、公共施設の跡地などを積極的に売却し、換金することで基金運用の柱となる。しかし、地方では不動産流動性も低く、毎年大きな利益が出る訳ではない。そのため、施設管理のコストを下げることや、“稼ぐ”公共施設をつくるなどの取り組みも必須だという。

基金の対象範囲は、小規模・大規模修繕、長寿命化改修、解体と多岐にわたる。「金額の大小ではなく、優先順位の高いものから充てているため(下図表参照)、公共施設の保全戦略を描きやすくなりました。解体も対象としているので、面積削減にもつながっています」。また基金と連動して、施設・部位ごとの劣化状況を診断した長寿命化カルテを作成し、数年先までの見通しを立てていることも大きなポイントだ。

「FM専用基金の創設など、公共施設の長寿命化を公平に押し進めるためには、FM部門と財政部門との連携が不可欠です。FMの知識をもった人材と財政部門の結びつき、もしくは財政部門側でFM事業の推進を担当するなどの仕組みづくりが求められます」。

新たな手法で財源を確保し、健全な自治体経営を目指す。

知見をもった人材配置を含め、体制づくりに成功している同市だが、「基金によって施設改修は進んでいますが、決して予算が足りているとはいえない状態です。実際のところ、緊急性の高いギリギリのものに対応しているのが現状。今後、基金をどう積み上げ、運用していくのかは私たちにとっても課題です」と川口さんは話す。

基金という仕組みをつくったとしても、原資をどう確保するかという問題は常に付きまとうのだ。「施設の保守点検費用や電気代など日々かかっている経費をいかに減らすかという従来型の減量型行革だけでは、持続的な公共施設マネジメントは難しいです。マイナスをプラスに転換する“活性型行革”をいかに並走させるかが重要だと感じています。遊休不動産を売却することも策の一つですし、官民連携で“稼ぐ”公共施設を生み出すなど、様々な策を考え続けることが必要です」。

基金の仕組み自体は難しいものではなく、“やろうと思えばどの自治体でもできるもの”だという。この取り組みが持続可能なものとなり、自治体が抱える公共施設の問題を解決する糸口になることを期待したい。

津山市
総務部
財産活用課
川口 義洋(かわぐち よしひろ)さん

FM専用基金が実現したのは、色々な点が結ばれて線になったからだと思います。課題を抱えていても、一人で悩まず仲間を見つけて互いに連携し、取り組むことが解決につながるはずです。

課題解決のヒントとアイデア

1.予算とは別でFM専用基金の仕組みをつくる

毎年の予算からその都度、施設改修費用を捻出するのではなく、専用基金を設置することで、中長期的な計画性をもった施設保全が可能になる。計画性が生まれることで、費用の妥当性も判断しやすくなる。

2.客観的な基準によって優先順位を判断する

築年数や規模に関係なく、劣化度や重要度に応じた基準を設け、優先順位を点数化することで客観的に評価できる仕組みを構築している。明確な判断基準をもつことで、属人化しない運用となっている。

3.FM部門と財政部門が関係を築き連携する

公共施設の管轄部署は多岐にわたるが、予算の要求は財政部門に集約される。FMを推進するためには財政部門との連携が必要不可欠。施設改修や建築への知見をもった人材をどちらかに配置し、正しい判断ができる仕組みにする。

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