ジチタイワークス

石川県小松市,大分県日田市

罹災証明書の交付を迅速にする防災DX。

豪雨災害が頻発する近年。国は被災後の支援に必要な罹災証明書交付まで、1カ月程度を目安としているが、災害規模によっては大きく遅れることもあるのが実態のようだ。迅速化に向けた取り組みを進めている2自治体に話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.25(2023年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]富士フイルムシステムサービス株式会社

“準備にかける時間がもったいない”その葛藤をシステムの力で解決する。

ここ10年間で、3度の豪雨災害を経験した日田市。罹災証明書交付に関わる諸作業を、限られた職員数でこなす厳しさを痛感したことから、令和3年より、「富士フイルムシステムサービス」と協働で罹災証明迅速化の共同研究を行っている。

大分県日田市
人口/61,881人 世帯数/27,496世帯( 令和5年2月28日時点)

日田市 総務部
防災・危機管理課
左:課長 長谷部 忠(はせべ ただし)さん
税務課
中央:主事 菅原 誠悟(すがわら せいご)さん
右:主任 原田 陽広(はらだ たかひろ)さん

減災への対策は進むものの効率化が難しかった調査業務。

市域の大半を中山間地が占める同市。これまでの豪雨災害時には「道路が寸断され、罹災証明書交付に必要な現地調査に行けない場所もありました」と、原田さん。調査には多くの書類を携行するが、「帰庁後、翌日の準備のため深夜まで作業に追われる日が続きました。資料の準備は手作業が中心で、非効率でもとにかく用意していくしかなかったのです」と、菅原さんも当時を語る。度重なる被災経験からの学びで、令和2年の豪雨時はかなり短縮できたが、残業は免れなかったそう。そうした中、富士フイルムシステムサービスが「罹災証明迅速化ソリューション」を提案。令和3年、共同研究が始まった。

県内2位の面積を有する同市は、調査要員も広域に分散せざるを得ない。原田さんは、「限られた人数だったので、業務の省力化・効率化を切望していました」と話す。同時に、システムによる“ノウハウの継承”にも期待したそう。「仮に、今後10年くらい災害がなかったとすると、異動や定年などで職員の知識は散失します。紙の資料では、詳細が分からないことも多い。ノウハウをもつ職員がいなくても、何をすべきか、どう動くかを教えてくれるシステムが実現するのであれば、喜んで共同研究に参加したいと思いました」と、菅原さん。

発災を想定した効果検証で効率化に向けた確信を得る。

罹災証明の工程は、右図のように主な項目だけでも7工程あり、多大な労力と時間を要する。シミュレーションでは、調査班を自動編成したり、申請が増えても調査計画を自動で組み替えたりと、効率化を確認できたという。

これまで手作業で行っていたときと比べると、迅速化と効率化の効果は大きく、原田さんは「シンプルにあらわすと“実際の現場を支援するシステム”ですね。現場の声が反映されているので、今、何を、どうすべきかが即分かり、作業もシステムで完結します。端末を持ち運べるので、現場で撮影や入力ができますし、迷ってもヘルプボタンを押せばヒントが出るので、誰でも一定精度で判定できます」と評する。今後は、「罹災証明書をコンビニで受け取れるようにするなど、住民も利便性を実感できるとさらにいいですね」と願う。

同市の意見や学びがふんだんに活かされ、令和5年度中に本格リリース予定だという本ソリューション。同市のリアルな被災経験があったからこそ、実践的なものに仕上がっているのだという。
 

市長が考える

被災者の声を聞く時間を確保するためにも罹災証明書交付業務のデジタル化は必須。

日田市 市長 原田 啓介(はらだ けいすけ)さん

人員が足りない現実はデジタルでカバーする。

市長に就任した平成24年から、激甚災害が当市で相次ぎました。罹災証明書の交付のためには、限られた人員で広範な市域を速やかに調査する必要があるため、災害対応のDXによる効率化・迅速化は、早急に進めるべき課題であると感じていました。浸水被害の調査では床上か床下かを判断するために、職員が現地に行くことになります。当時の担当職員からも、マンパワーが足りないとの声が届いており、調査業務に要する時間の短縮につながるこの共同研究には、是が非でも参画すべきだと直感しました。

災害時はスピード感が重要です。平成28年の熊本地震のように、被災家屋が数万件ともなると、従来の手法では追いつきません。デジタル技術の活用で、これらを前倒しできるはずです。同時に、被災地に派遣する職員のリスクにも配慮しなければなりません。富士フイルムシステムサービスには、それらを含めて、当市の経験をシステムに反映してもらいました。シミュレーションでは、高い精度で情報が処理されるため、従来の5割ほどに時間が短縮できそうだ、との報告を受けています。

被災時こそデジタルの力で“失われた時間”を取り戻す。

自然災害は、どこで発生しても不思議ではありません。国が災害時の対応策を整備するためにも、被災自治体だからこその経験と意見を発信し続けねばならないと考えています。

共同研究を通じて、同社は多くの現場の声をシステム化しています。将来、経験したことのないレベルの大規模災害が発生した場合であっても、職員が速やかに対応できるよう、継続的なアップデートにも期待しています。

被災時には、現地調査に出向く職員も災害対応に従事するほかの職員も混乱していて、被災した市民の悲痛な声に耳を傾ける時間を確保することも困難になるでしょう。だからこそ、DXによって作業にかかる時間を短縮し“失われた時間”を取り戻すことで、住民の心の痛みに寄り添うことができるようになるのだと考えています。当市ではこの先も、住民のためのデジタル化を積極的に進めてまいります。

罹災証明書交付までの業務をシステムがサポート

システム構築に活かされた日田市の取り組み

調査前後の業務が省力化され、従来に比べて工数・期間ともに50%以上※の削減が見込めるという。

※令和5年3月時点、同社調べ

トライアル申し込みの数日後に被災、急なシステム活用でも迅速にスタート。

令和4年8月豪雨で、初めて罹災証明迅速化ソリューションを実際の災害で活用した小松市。以前から判定精度を高める研修や、判定基準の統一に向けた近隣市町間連携など、罹災証明書交付の迅速化を目指していたという。実際に活用した感想を聞いた。

石川県小松市
人口/106,333人 世帯数/45,045世帯( 令和5年2月1日時点)

小松市 行政管理部 税務課
左:原 良恵(はら よしえ)さん
中央:渡邉 圭太(わたなべ けいた)さん
右:林 久雄(はやし ひさお)さん

被害判定を平準化する必要性を強く認識する。

大規模災害では、調査判定方法の違いから、近隣自治体間で判定結果に差異が生じがちだという。中には、多くの被災住民から再調査を求められ、証明書の交付が遅れた末、被災者の生活再建が遅延するといった事例もあるようだ。こうした教訓から、平成28年の熊本地震を機に、同市では罹災証明書交付の迅速化に向けた取り組みを開始。システム導入の検討や、高い精度で被害判定ができる職員の育成研修、さらには広域災害時において、近隣自治体間で判定結果を等しく出せるように近隣市町との連携を進めていたという。

ただ、令和2年に「災害に係る住家の被害認定基準運用指針」が改定。これに伴い、被害区分がそれまでの「一部損壊・半壊・大規模半壊・全壊」の4段階から、準半壊と中規模半壊が追加されて6段階へと細分化。「4段階だった改定前は判定範囲に多少の幅がありましたが、6段階だとわずかな差が結果を大きく左右します。高い精度で判定できる仕組みが必要だと感じました」と語る林さん。そんな中、令和4年8月豪雨に見舞われた。

“100年に1度”の災害に備えるため河川改修工事を進めていた中、未着手だった上流域が決壊。

システム提供の提案からわずか3日で稼働が始まる。

実は、豪雨に襲われたタイミングは、本ソリューションのセミナーに参加し、導入を見据え無償版トライアルに申し込んですぐだったという。8月4日の発災を受け、翌日には同社からソリューション提供の提案があった。「詳細を伺ってからの展開は早く、まず申請時に庁内で使う“被害調査統合システム”が稼働し、その3日後には“家屋被害判定アプリ”も使い始められました」と話すのは、罹災証明書交付業務の陣頭指揮を執った林さん。被災経験が少ない同市の中で、現地調査に精通した希少な人材だ。主に庁内作業を担当した原さんは、「システムの操作方法は、画面を触りながら教えてもらえたので、1時間ほどの講習で、戸惑うことなく覚えられました」。現地調査の班長だった渡邉さんも、「現地調査用のタブレット端末は、約1時間の操作説明だけで、使えそうだという手応えをすぐ感じました」と、システムの使いやすさを語る。

現地調査でも庁内作業でも効率化と時間短縮を実感。

渡邉さんは、「現地で順番通りに被害程度を入力するだけで、判定結果まで自動計算。画面遷移が分かりやすく、大変便利でした。写真も撮った時点で対象家屋とひも付くので、帰庁後の写真整理が不要となり、かなり時間を短縮できます」と、効率化を実感。原さんも、「申請受付から調査予約まで、住基台帳との連携により1件当たり2分前後で完了。手入力管理のExcel表と比べ、時間は半分以下に短縮できました」と語る。林さんは、「このシステムには、我々が理想とする仕事の進め方が、そのまま落とし込まれています。行政業務を熟知し、幅広い分野の自治体業務に携わってきた企業だからこそ開発できたシステムであることが、今回の活用を通じて理解できました。本当に使い勝手が良く“一度触れば誰でも使える”、そんなシステムではないでしょうか」。

ただ、現地調査では紙の図面への記載を省略しきれない部分があり、タブレット端末だけで現地調査を完結させることは難しいという課題も見えたそう。そうした同市の“生の声”をもとに、より完成度の高いシステムへと磨き上げられることを期待しているそうだ。

市長が考える

民間や住民と連携して“備え”を進め自然災害に強いまちを目指す。

小松市 市長 宮橋 勝栄(みやはし しょうえい)さん

災害に強いまちに向けた取り組みのさなかに被災。

今や全国各所で、“100年に1度”といわれる自然災害が頻発しています。こうした近年の状況を鑑みて、令和4年度に市長直轄の部局として「危機管理課」を新設。1級河川の護岸工事の進捗を図るため国交省から技監を招き、今後の河川対策について協議を進めていたさなかの豪雨災害でした。民家に土砂が流れ込み、道路一面が泥で覆われ通行できない状況に様変わりしたまちを見て、私は言葉を失いました。

当日はかなり早い段階から、一部地区の浸水高が2m近くまで達したとの情報が入りました。人命を一番に考え、正午に緊急安全確保を発令したことが、被害を最小限に抑えられた一因だと考えています。ただ、行政だけではできること・手がまわるところは限られるため、市民・事業者と連携して、災害に備えていくことも大事だと感じています。

情報やノウハウの共有で災害に備えることが大切。

当市はかねてより、被災者の早期生活再建ができる体制の整備に向けて、罹災証明書の交付迅速化に取り組んできました。令和元年度には、当市と南加賀地域の近隣3市1町にて「南加賀広域圏罹災証明連携推進ネットワーク」を設立し、研修会を毎年行っています。今回、応援調査職員とスムーズに連携できたのは、研修の成果です。また、令和4年4月「こまつ公民連携デスク」を設置し、損保会社と「損害調査結果の提供及び利用に関する協定書」を締結。損保会社からの調査情報提供を全国で初めて実際に受け、証明書の早期交付につながりました。

突然やってくる自然災害だからこそ、災害時対応の知見は、広域で共有すべきだと考えています。このようなシステムも、近隣の市町村、さらには県全体で共有することで、“災害に強いまち”が広がるのだと思います。

あらゆることに対して、市民と歩調を合わせて備えることも重要です。当市の災害にあたっては、消防団などの自主防災組織が献身的に活動してくれたおかげで、人的被害を最小限に抑えることができました。そうした関係づくりを事前に進めておくことも、大切な取り組みの一つではないでしょうか。

実災害時の活用で実感したシステムのメリット

申請の受付

導入前
紙資料と照合しながらExcelに1件ずつ手打ち入力していた

導入後
半分以下に時間短縮!
住基台帳などとの連携で自動入力

 

現地での調査

導入前
多くの資料が必要な上、経験や感覚により判定がバラつきやすかった

導入後
判断に迷う必要なし!
順番に操作すればシステムが自動判定

 

帰庁後の作業

導入前
入力や写真の処理など、帰庁後のデータ整理に膨大な時間を要した

導入後
帰庁後のデータ整理不要!
現地で追加したデータは即クラウドへ

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