事業規模の大小に関わらず、もはや“当然の取り組み課題”になりつつある業務DX。しかし、必要な業務を少ない社員数でこなしている中小企業の場合、DXに向けたリスキリングの機会を社員に提供することが難しいのが実情のようだ。
そこで島根県は、ベネッセコーポレーションが提供する「Udemy business」の受講料の一部を負担することで、県内企業のデジタル人材育成を支援する事業に着手した。事業概要と取り組みの詳細について、中小企業課の長井さんと桑原さんに聞いた。
[提供]株式会社ベネッセコーポレーション
Interview
島根県 商工労働部中小企業課
左:長井 達弥(ながい たつや)さん
右:桑原 茂之(くわばら しげゆき)さん
日常業務で多忙な企業社員、「受講時間の捻出」が壁
出雲大社や松江城、世界遺産の石見銀山などで知られる島根県。人口こそ、中・四国エリアの中でも特に少ないものの、建設や鉄鋼、情報通信機器などの産業が活発な自治体だ。それら地元企業の活力を高めるため、県商工労働部の7課がそれぞれ、担当業種の支援を実施している。
ただ、デジタル化や業務DXに関する支援は、“課ごと”に行えるものではない。「企業のデジタル化をサポートするには、業種の枠にとらわれない支援策が必要という意識が、庁内でも高まっていました」と語る長井さん。そんな折り、帝国データバンクによる全国調査で、同県では約9割の企業が「デジタル化が進んでいない」と回答したことが判明した。そこで令和4年4月、DX支援に各課合同で取り組む「デジタル推進チーム」を発足。参事を中心に各課から最低1名ずつが参加し、デジタル化対策を協議・検討する体制をつくった。
チーム発足以前から、それぞれの課が外部講師を招いて「中小企業のデジタル化普及セミナー」を開催するなど、IT教育やリスキリングのための講演・研修を実施していたが、ここで、東西方向に長い同県の地理環境が障壁となった。県主催のセミナー等は、どうしても県庁舎近隣など都心部での開催となるが、県西端から県庁周辺までの移動は、高速道路を使っても片道4時間ほどかかる。「中小企業がデジタル人材として育成したいと考える社員は、日常業務でも重要な役割を任されていることがほとんど。社内のキーマンを、数時間かけて往復させるような非効率なことはできないという意見が、複数企業から出されたのです」。
人的・予算的な余力が少ない中小企業でも、無理なく参加できるようなデジタル教育の手法はないものか…。同チームの面々が情報収集に力を入れる中、東京都内で行われたIT関連イベントで、ベネッセコーポレーションの提供するオンライン学習サービス「Udemy business」と出会う。「当県の課題を解決できそうなアイデアを提案してもらえないだろうか…と、こちら側から声をかけ、私たちチームの検討に対してベネッセコーポレーションからアドバイスをもらうことから始めました」。
仕事の合間に気軽に学べる点などが導入の決め手に
Udemy businessは、アメリカのユーデミー社が運営するオンライン学習コンテンツの中から、厳選された9500講座以上を定額制で学べる法人向け教育サービス。幅広い内容の講座が準備されており、PCはもちろんタブレットやスマホなど、各種端末で受講できる。
「複数のサービスを検討しましたが、仕事の合間や休憩時間などを使って気軽に学べる点、講座の種類・内容ともに豊富なので、非IT系を含む全業種の方々に見てもらえる点などが決め手となり、同年の9月議会で予算を上程。10月に導入予算が可決され、県内企業向けの案内を開始しました」と、桑原さんが導入決定までの流れを説明する。
「カリキュラム内のセクションが5分ほどに区切られているので、ちょっとした“すき間時間”を活用できること、多くの視聴者によるレビューを通じて高評価だった講座…つまり、役立つ・使える講座だけがアップされている点なども、導入に至ったポイントです」。
島根県独自の「提案型」講座パッケージを公開
講座の種類が多彩・豊富とは言え、専門的過ぎる講座ばかりでは「全業種を支援したい」という県側の希望に沿わない。一方で、表面的で簡単な内容ばかりでもリスキリングにはつながりにくい。
「導入にあたっては、学びへのモチベーションを高めつつ、バランスよく学べる当県独自の向けパッケージを検討したほか、デジタル人材育成に取り組むことの重要性を周知するため、『「デジタル人財」は今いる社員から育成できる!』と題したイベントを、リアル会場+オンライン配信で実施しました」。イベントの実施にあたっては、商工会などの協力を得たほか、チラシ配布や県ホームページへの掲載に加え、SNSを使った事前告知も実施。ライブ後のアーカイブ配信を含めると、のべ300人以上が参加したという。「ベネッセ側から告知に関する支援・アドバイスをもらえたこともあり、リアルのみで開催していたときと比べ、非常に多くの方に見ていただけたと思っています」。
オンライン講座の受講生募集は、令和5年10月半ばから開始。前述の“当県独自のパッケージ”という条件のもと、DXに関する共通言語などの全員共通必修講座、「業務効率化」「集客・売上げ向上」「新商品・新サービス開発」の選択必修講座、そして「情報セキュリティ」「DXを活用した経営戦略」などの自由選択講座という三層構造のラーニングパスを、受講希望者向けに公開した。
県内企業の“生き残り”をかけて支援を継続
多くの自治体に共通することだが、同県では高齢化と人口減少、若手人材の流出などがとりわけ深刻だ。県内企業の経営者の平均年齢は60歳を超えており、デジタル化の重要性が今ひとつ理解できていない経営者も少なくはない。「ただ、人口が少ない当県はマーケットの規模も小さいので、県産品の販路を、海外も含め全国的に拡大していくことが、生き残りのカギであり若手人材を県内にとどめる方策につながります」「これまでも、県や国の補助金でITツールを入れるなど、業務の一部をIT化する動きはありました。けれども部分的なIT化では全体フローの改善・効率化にはつながらず、DX化するメリットが可視化されにくかったのです」。
まずは、デジタル化とは何か、今、なぜ必要なのかという「基本部分」から、県内各社のITリテラシーを底上げしようという同県初の試み。「仕事のあり方を変えるようなアイデアを生み、それを周囲の社員にも広げていくためには、ベネッセコーポレーションが言うところの『自律型学習人材』を増やさなければなりません。そのためには、やはり行政の支援が重要だと思っています」。
現在、初回募集分の講座が実施されている最中だが、「受講者の1人からは、『普段の業務では触れることのない、デザイン思考などの知識を吸収することができた。デジタル化に向けての良いきっかけになった』などの意見をいただきました」。
同事業を継続するための令和5年度分予算は、まだ決定していない(※取材時)。しかし同チームは、今回の事業成果を可視化したり、将来的には成功事例集を作成したりするなどで、リスキリングを通じた県内企業の支援を継続する計画だ。「県内企業の生き残りをかけて、DXを通じた生産性アップや市場の拡大のための支援を今後も続けていければと考えています」。
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