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自治体クラウドとは?導入するメリットや取り組みの手順を詳しく解説

自治体クラウドとは、庁舎外に設置したデータセンターで情報を共同管理・運営し、複数の自治体がインターネットを経由して共同利用できるようにする仕組みのことだ。経費の削減やセキュリティ強化の実現などの効果が期待される。

一方で自治体クラウドは複数自治体の協力のもとで推進していく必要があるため、その仕組みを正しく知り、適切な方法で導入していくことが必要だ。

そこで今回は、自治体クラウドとは何か、導入のメリットや手順、活用事例について紹介する。
 

【目次】
• 自治体クラウドとは
• 自治体クラウドを導入するメリット
• 自治体クラウドを導入する具体的な手順
• 自治体クラウドの導入事例

自治体クラウドとは

自治体クラウドとは、セキュリティレベルの高い外部のデータセンターで、住民基本台帳や福祉、税務など行政に関するデータ情報を保有し、複数の自治体が共同で管理や運営をする仕組みのことだ。一方、自治体クラウドに対して、「単独クラウド」と呼ばれる自治体が単独でクラウドを導入する形態もあり、政令指定都市など大規模自治体において導入されるケースが多い。

従来は各自治体が庁舎内にサーバーを設置し、個別に構築されたシステムを職員が管理・運用する「オンプレミス型」または「所有型」と呼ばれる仕組みが一般的だった。しかし運用コストがかさんだり、自治体ごとにセキュリティ対策の水準にばらつきが出たりといった問題点が指摘され、クラウドを採用する自治体は増えている

また、2019年の「世界最先端デジタル国家創造宣言」において国は「2023年度末までにクラウド導入団体を約1,600団体、自治体クラウド導入団体を約1,100団体にする」と目標を設定したことからも自治体クラウドの導入加速は進んでいる。

自治体クラウドを導入するメリット

自治体クラウドを導入することで、どのようなメリットが得られるのだろうか。具体的に見ていこう。

費用の削減を図れる

自治体クラウドは複数の自治体で導入や運用を行うため、イニシャルコストとランニングコストの両方を抑えられる。2016年に総務省が行った、自治体クラウド導入を実施したグループに対して費用削減効果または見込みを調査した結果によると、全体の約6割以上のグループにおいて3割以上の費用削減効果がある、または見込まれるとしている。
 

セキュリティを強化できる

自治体クラウドでは情報をデータセンターで管理することで、セキュリティ水準が向上する。従来のオンプレミス型とは異なり、専門事業者が管理しているためシステム挙動の24時間365日有人監視や厳格な入退室管理などが可能なためだ。高度なセキュリティソフトの導入もスムーズで、OSやウイルスの定義も常に最新の情報へ更新される。

さらに、データセンターそのものが一般的に耐震構造や非常用電源、火災感知システムなどを備えているという点でも高いセキュリティ水準を確保している。
 

災害時の業務継続性を向上できる

データセンターは庁舎外にあることから、災害によって庁舎が被災した場合でも情報が守られ、業務が継続可能となる。東日本大震災を契機とした災害対策として、行政にまつわる情報はデータセンターでの管理が有効だと考えられるようになってきたという背景もある。また、自治体クラウドグループ間において災害時の相互支援協定を締結しているケースも多い。
 

システムの管理・運用の手間を削減できる

自治体クラウドの採用によってデータセンター側の専門技術者に一括してシステムの管理・運用を委託できることから、業務効率化が可能となる。職員による機器の保守や更新時期の管理、バックアップ、セキュリティ対策などの業務が不要となり、これまでかかっていたそれらの手間や時間を大幅に削減できる。職員の業務効率化も実現し、住民サービスの質の向上にもつながる。

自治体クラウドを導入する具体的な手順

自治体クラウドを導入する際に参考になるのが、総務省が公表している「自治体クラウドの現状分析とその導入にあたっての手順とポイント」 だ。次項より、各手順の要点や課題点を押さえて解説する。

1.事前検討

自治体クラウドの本格的な検討を行う前に、基本的な情報の入手や大まかな方向性を検討する。具体的には事例調査や参加自治体の構成、推進体制の構築、導入スケジュール、クラウド化する業務の範囲、費用削減効果の把握方法などの検討を行う。
 

2.計画立案

事前検討において具体的な大枠が決まったら、具体的な計画を立てていく。ここで柱となるのが「推進体制の立ち上げ」、「現行システムの概要調査」、「導入計画の策定」の3つだ。

1つ目の推進体制の立ち上げでは、参加自治体間での費用負担の割合や業務・システム機能に関する具体的な調整方法が課題となる。その際、現場での業務やシステムに関する知識が不可欠となるため、必要に応じて現場に詳しい職員や専門コンサルタントの力を借りている事例もある。

2つ目の現行システムの概要調査は、費用削減効果の試算の把握を目的に行う。同時にシステム間連携のあり方や利用者数などの情報を把握しておくことで、自治体クラウドの仕様を検討する際にも役立つ。

3つ目の導入計画の策定では、具体的な業務範囲やスケジュール、実施体制、想定される費用削減効果などを取りまとめ、次の段階へつないでいく。
 

3.仕様検討・システム選定

導入までのロードマップができたら、システムの中身を具体的に検討していく。費用コスト削減の視点から、原則として自治体クラウドではノンカスタマイズでパッケージシステムを導入することになるため、その点に留意しながら進めていく必要がある。

まずは現行の業務やシステムを十分に整理、把握したのち、パッケージシステムに合わせた業務標準化の検討を行う。なお、自治体クラウドを導入するにあたっては条例や規則等を見直す必要が生じる場合もあるため、その点も確認しておく。その後、要件を整理し、既存のシステムとのデータ連携などに影響がないか確認したうえで調達仕様書を取りまとめ、ベンダーを選定する。
 

4.導入・移行

体制が整ったら、実際の導入やデータの移行を行う。まずは採用したパッケージシステムの機能を整理し、設定について一つずつ確認していく。全ての自治体において必要となるカスタマイズ要望が出てきた場合はカスタマイズ事項として取り入れたり、パッケージシステムの標準機能に含めるようベンダーと交渉したりといった対応を行う。

その後のデータ移行の段階は作業業者でしか対応ができないため、費用算出の根拠が不明確になりやすい点に注意したい。全体の経費に大きな影響を与える場合もあるため、意識してベンダーと交渉する必要がある。最終段階としてテストや研修を行い、課題点を解決したうえで運用に向けた準備をしていく。
 

5.運用

実際に自治体クラウドの運用を開始する。定期的にサービスレベル評価を行い、あらかじめベンダーと定めたサービスレベルに達しているかどうか確認し、達していない場合は改善を求める。

また、自治体クラウドはサービス利用型であり、事業者がサービスを停止したり、破綻や撤退したりするおそれもあるため、そういった事態に備えた対策を講じることも必要だ。

自治体クラウドの導入事例

すでに自治体クラウドを導入している自治体は2021年4月現在で713団体 にのぼる。ここからは実際の導入事例を紹介する。

【愛知県豊橋市・岡崎市】
中核市における情報システムの共同化

 全国初の人口30万人以上の中核都市における共同利用となった事例。度重なる法改正対応の改修によりシステムが複雑化し、職員による開発・運用が困難となっていたことや運用・保守の委託費用の高騰、災害時の業務継続性の確保などを背景に実施された。2021年から順次国民健康保険・国民年金・税総合のシステムを共同化している。

実施スタートから5年間のトータルコストは国民健康保険・国民年金システムにおいて46%ダウン、税総合システムにおいて45%ダウンを実現した。
 

【熊本県錦町・宮崎県えびの市・高原町・都農町・川南町・木城町】
県域またぎの自治体クラウド共同化

 熊本県と宮崎県の県域をまたぎ、2012年から順次自治体クラウドを導入した事例。業務標準化によるシステム改修費やハードウェア費などの維持費削減、電算担当者の運用負荷軽減などを目的に実施された。基幹系システム全般と内部情報系システムを共同化している。

まずは4町が先行して取り組み、木城町、えびの市は約2年後に追随した。6市町村で24%のコスト削減が見込まれている。
 

【大阪府高石市・忠岡町・田尻町】
中心市主導型の情報システム共同化

2014年に高石市が忠岡町と連携し、災害に強いまちづくりの一環として基幹系業務システムを共同で導入した。翌年システム更新時期を迎えた田尻町が参加。基幹系業務、内部情報系業務の40業務を共同化の対象としている。データセンターのメインを関東に、サブを西日本に配置し、災害リスクを分散していることも特徴だ。3市町全体で導入後5年間のトータルで約35%のコストダウンが見込まれている。
 

そのほか「自治体クラウド」の事例記事

■高知県|自治体クラウドは当たり前、小規模自治体における情報システム統合での行政効率化・BCP対策。

■下松市・光市・柳井市・周南市・阿武町|基幹業務系システムを共同利用することで、財政負担軽減に加え、災害対策も万全に。

自治体クラウドで経費削減・業務効率化を実現し、住民サービスの向上を

セキュリティレベルの高い外部のデータセンターに情報システムをおいて、複数の自治体で共同管理・運用し、ネットワークを経由して利用する自治体クラウド。経費の削減やセキュリティの強化などが期待でき、業務効率化による住民サービスの向上も見込まれる。

自治体クラウドの導入には自治体間の綿密な連携が欠かせない。あらかじめその仕組みや取り組みの手順に理解を深め、スムーズな導入を目指したい。

 

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