ジチタイワークス

山口県下松市光市柳井市周南市阿武町

基幹業務系システムを共同利用することで、財政負担軽減に加え、災害対策も万全に。

事前の試算では、4市6町合計で約27億円経費削減できることが判明。

全国の自治体が、税務関連、社会保障関連など基幹業務をデジタル化し、行政事務の効率化と住民サービス向上に努めている。ただつぎはぎ的にシステム構築を進めてきた自治体も少なくなく、制度改正が実施されたり、新たな行政サービスを導入したりするたびに、複雑化・肥大化したシステムの更改に多額のコストがかかっていた。

また、基幹業務用のシステムとデータベースは、各自治体が個別に管理するのが一般的だったため、機器の維持・管理コストが財政を圧迫するだけでなく、ICT系の専門職員も自治体ごとに確保せねばならなかった。

※下記はジチタイワークス特別号May2020(2020年5月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供](株)日立ソリューションズ西日本

そうした問題を解消するため、今回取材した下松市と、隣接する周南市、光市は平成26年、基幹システムのクラウド化および共同利用の協議を開始。「当市もそうですが、他の2市も、システムの維持・管理コストをどうにかせねばならないと検討していました」と、下松市企画財政部情報統計課の藤井 亮英さん。

平成27年5月には現在の参加市町の柳井市、阿武町などが加わった「山口県4市6町情報システム共同利用検討会議」が発足され、RF(I※1)やクラウドパッケージのデモンストレーションの公募を実施することになった。その際、既存システムを継続利用する場合と、自治体クラウドに移行する場合の、10年間の総経費を試算したところ、4市6町合計の経費削減額は27億円を超え、既存システムを使い続けることが、大きな経費負担となることが改めて明らかになった。

クラウドシステムへの移行前に本当に必要な機能を再確認。

システム共同利用について協議を重ねた結果、平成28年3月、周南市・下松市・光市・柳井市・阿武町が合意書に調印。「山口県市町情報システム共同利用推進会議」を設置してプロポーザルを開始した。「この段階で当市も必要な機能・仕様の見直しを行い、要望を出しました。コンビニ端末での証明書発行など、住民サービスのための新しい機能も、この機会に追加しておくべきでしたからね」と、同課の高橋 善次郎さん。公平なベンダー審査基準を設けたほか、「本稼働から1年間、業務運用上の負担となる機能は追加費用なしで対応すること」、「稼働後、財政支援のない制度改正への対応は、通常の運用経費内で収めること」などを調達仕様書に盛り込み、追加費用の発生を抑えるよう工夫した。

審査の結果、経費削減だけでなくシステム導入後のサポートや耐災害性などの提案が優れていた日立ソリューションズ西日本を選定。その後は月1回のペースで会議を開催し、「住基部会」「税務部会」など4部会で各市町ごとに業務を割り振りながら、新システムの仕様を煮詰めたという。

コスト削減効果だけでなく業務効率アップや災害時対応も!

十分な協議を経て、平成30年1月、クラウドシステムの利用を先行開始したのは周南市。これに光市、柳井市が続き、下松市は平成31年1月から開始し、同年3月に阿武町が移行。「周南市の利用開始から1年の遅れがありましたが、端末接続不具合やサーバーに起因する不具合などの問題をシステム担当者会議でご教示いただき、日立さんに改善してもらいました」と藤井さん。

取材時は利用開始から1年少々が経過したタイミングだったが、「既存システムを使い続けた場合と比較して、35%ほどの経費削減が実現しました。システム改修費も共同利用による割り勘効果が大きい年もありますので、その場合はもっと削減できるでしょうね」と、コスト削減が実現化している手応えも。

また、共同利用するクラウドシステムのサーバーは、県外のデータセンターに設置されている。「庁舎内にサーバーがあるときは、ハードウェア管理や停電後のシステム復旧などに手間ひまをかけていましたが、それらの作業に神経をすり減らさなくてもよくなった分、情報部門の業務効率アップにもつながるはずです」と高橋さん。

さらに、4市1町が同じシステムを使う、つまり業務手順などが統一されたことで、もしどこかの庁舎が自然災害等で被災した場合でも、他市町の庁舎に行けば業務を継続できるというわけだ。取材時現在(令和2年3月)は、災害時の相互サポート体制に関する話し合いも進められており、実現すれば共同利用のメリットがより高まるといえるだろう。


下松市企画財政部 情報統計課
右:課長 藤井 亮英(ふじい あきひで)さん
左:係長 高橋 善次郎(たかはし よしじろう)さん

Solution■課題解決のヒント&アイデア

01.コスト削減効果を高める「マルチテナント方式」を採用。

複数自治体がクラウドシステムを共同構築する場合、自治体ごとに個別のサーバーを設置するシングルテナント方式と、1基のサーバーを共同利用するマルチテナント方式がある。後者は、サーバーを1基にすることで初期費用・維持管理費用ともに抑えられる方法であり、4市1町のクラウドシステムにもマルチテナント方式を採用した。

02.耐災害性を高めるデータセンターを利用。遠隔地にバックアップしてデータベースを守る!

サーバーが設置されたデータセンターは耐震性・耐火性が優秀。また4市1町の庁舎にも待機用の予備機(回線障害用サーバー)を備え、データセンターと各自治体とを接続する回線に何らかの通信障害が発生した場合も、業務を継続できる体制を整えた。さらに、遠隔地にデータバックアップを配置しているので、万が一、中国地方全域が被災するような大型災害が発生した場合も、自治体クラウドのシステムおよびデータベースは守られるようにしている。

03.将来的には、RPA活用で効率化を促進。

4市1町が利用するクラウドシステムは、日立自治体ソリューションADWORLD(アドワールド)(以下、ADWORLD※2)の基幹部分。日立は、ADWORLDを利用する自治体に向けてRPA(※3)サービスを提供しており、下松市でも、「将来的には定型入力の事務処理などを、RPA活用で効率化することを検討しています」と、今後の拡張性に期待している。

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