基地局1つ当たりでカバーできる範囲が狭い5Gの電波。エリア全域で5Gを活用できる環境の実現を目指す「横浜みなとみらい21」は、5G電波伝搬シミュレーションを実施し、電波が届きにくい場所を“見える化”した。取り組みのねらいを聞く。
※下記はジチタイワークスVol.24(2023年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]アルテアエンジニアリング株式会社
5G通信網を、キャリアに頼らずエリア内に張り巡らせる。
次世代の通信インフラとして注目される5G。高速大容量の通信環境が整備されれば、生活や防災、ビジネス、社会サービスなどに、大きな変化が起きると期待されている。平成31年1月、産学官連携によるイノベーション創出を目指す「イノベーション都市・横浜」宣言を行った横浜市でも、5G通信環境の整備がイノベーション実現のための柱の一つになると捉えていたという。
「ただ、5G電波は直進性が強く、障害物に遮られやすいという性質があります。現在、国内のほとんどの地域では、5Gの敷設を大手通信キャリアに依存していますが、基地局から離れていたり、ビルが並んでいたりすると、電波は一気に弱くなる。そのため、キャリアだけに依存せずに独自で基地局を設置し、電波を増強する“ローカル5G”環境を構築しようと、検討を始めました」と語るのは、同市の外郭団体である横浜みなとみらい21(以下、YMM21)と、未来都市のモデル形成を目指す任意団体「横浜未来機構」の事務局を兼務する渡邉さんだ。両団体の協働事業として、“5Gプロジェクト”を進めている。
「基地局を新設する効率的な手法として、無線設備やセンサー、街灯などを併設できる“スマートポール”の設置が考えられます。しかし1基当たり数百万円かかる設備なので、無尽蔵に設置することはできません。見えない電波をどう見える化するかが課題でした」。そうした経緯から令和4年2月、YMM21は「アルテアエンジニアリング(以下、アルテア)」と協定を結び、横浜みなとみらい21エリア内で5G電波伝搬シミュレーションを実施することになった。
シミュレーションのベースに国交省3D都市モデルを活用。
アルテアは、「Altair Feko(アルテア フェコ)」を活用した、様々な電波伝搬の解析技術に強みをもつグローバルテクノロジー企業の日本法人。「数年前から同社と意見交換を始めました。折しも、国土交通省が3D都市モデル※のプロジェクトをスタートさせたことで、シミュレーションのベースとなる精細な都市データが入手できるようになったのです。
当初はシミュレーションツールを自前でつくる計画も出されていましたが、同社技術と3D都市モデルを活用した実証実験として、早期にスタートできました」。
様々な高さ・形状の建造物が複雑に並ぶ都市部では、電波の伝搬状態も予測しにくい。シミュレーションを行った後、令和4年11月にエリア内の一部で電波の実測調査を実施。その結果、建造物による影響をかなり正確に予測できていることが分かった。一方で、街路樹や信号機なども電波伝搬に影響を与えることが判明。その差異を埋めるための調整を行い、より高精度なシミュレーションが行えるようになったという。
※都市計画基礎調査などをもとに3Dマップを作成し、マップ上の建物・土地に属性情報を付随した都市データ。現在は56都市で整備され、2027年度までに約500都市まで拡大予定。
同プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」サイトでも事例紹介中
実証実験のフィールドとしてスタートアップ支援も目指す。
こうした準備を進めつつ、5G活用の勉強会やイベント、アイデアの募集を積極的に行っている両団体。そのねらいを聞くと、「私たちが取り組むローカル5G環境の整備は、都市イノベーションに向けた“実証実験の環境づくり”でもあります。今回のシミュレーションは、そのための基盤の一つ。並行して、5G活用ソリューションの開発について、大手企業のみならずスタートアップも支援していく予定です」と語ってくれた。
また、一連の取り組み経験を通して、今後のまちづくりには“ネットワーク環境ありき”の考え方が求められるだろうと渡邉さんは語る。「都市部のみならず地方の課題においても、新たなサービスやテクノロジーの活用には、ネットワーク環境が不可欠になるでしょう。当エリアでの取り組みもモデルケースとして横展開できるよう、発信し続けていきます」。
一般社団法人横浜みなとみらい21
企画調整部 企画調整課
兼 横浜未来機構事務局
渡邉 巧(わたなべ たくみ)さん
高速大容量通信による変化を見据え、便利な“まちの将来像”を模索する。
5Gが実現するまちのイノベーション例
十分な強度の電波がまちの隅々まで届く通信基盤が確立されれば、IoT機器の普及や自動運転技術の推進など、多くの次世代技術が実現に近づく。
シミュレーションで具体策を立てやすく
1.コストと期間を大幅に圧縮
電波を実測するには相応の機材と人員コストが必要となるが、コンピューター上のシミュレーションなので、スピード感のある対応ができる。
2.電波環境を高精度に予測
3D都市モデルを活用することで、5G電波の到達範囲やエリアごとの強弱、最適な基地局配置などを、実測と遜色ないレベルで予測する。
横浜みなとみらい21エリアにおける、電波の実測とシミュレーションの比較
5Gに限らず様々な電波のシミュレーションが可能
Altair Fekoをはじめとする高周波電磁界解析ツールの組み合わせにより、5G電波ばかりでなく様々な種類の電波・電磁波のシミュレーションが行える。
自治体ごとの異なるニーズに対応可能
5Gを活用して何を実現したいかは、自治体ごとに異なるはずです。アルテアは、各自治体のニーズに沿った最適なネットワーク構築プランを提案します。3D都市モデル未整備の自治体でも対応可能です。気軽にお問い合わせください。
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