ジチタイワークス

長野県安曇野市,兵庫県加西市

滞納整理の一人担当が、壁を乗り越えるための“チーム理論”。

自治体には税金や保険料以外にも様々な債権が存在する。「滞納整理を一人で担当する人も多く、ほかの業務もこなしながら、心理的ハードルも高い債権回収にまで手がまわらないという相談をよく受けます」と話すのは、現役公務員ながら滞納整理の本を出版した寝屋川市の岡元さんだ。

滞納についての相談から交流が生まれ、生活保護不正受給返還金の回収に挑戦したという2人の担当者に岡元さんが話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.24(2023年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

大阪府寝屋川市
経営企画部 企画三課 広報編集長
(元 滞納債権整理回収室 係長)
岡元 譲史(おかもと じょうじ)さん

プロフィール

1983年生まれ。2006年に同市入庁後、12年間にわたり、様々な債権の滞納整理に従事し、市税滞納額70%(約25億円)削減に貢献。2022年より現職。“滞納整理に価値を見出して伝えることで、受講者の不安や葛藤を取り除く”という独自スタイルによる研修を全国で実施し、6年間で延べ3,700人が参加。

 


CASE1 兵庫県加西市
捜索によって175万円の全額返還に成功!

加西市
健康福祉部 地域福祉課 係長
神戸 克則(かんべ かつのり)さん

●捜索
国税徴収法142条にもとづく強制調査。滞納者の自宅などに立ち入り、財産が見つかった場合には差し押さえを行う。別の財産につながる情報(保険証券など)が見つかったり、欠損のための判断材料が手に入ったりなど、状況を進展させることができる。


岡元:捜索に踏み切った経緯について教えてください。

神戸:当市では平成29年に、生活保護費と障害年金の遡及受給で、175万円の不正受給案件がありました。預金照会を行い、返還を求めて滞納者宅に毎日訪問するも、らちが明かない状態が続いていました。捜索という手法を知ってはいましたが、当時は法改正の直後で、県・国に尋ねるも前例がなく……。

そんなときに寝屋川市の捜索事例をネットで見つけ、思い切って岡元さんに連絡をしてみたんです。すると快く相談に乗ってくださり、譲っていただいた資料には捜索の手順が詳細に書かれていて、大変参考になりました。準備を進め、いざ訪問。すると寝室の枕元にあった入れ物の中に150万円の現金を発見!その後残りの25万円も、車を差し押さえることで全額返還となりました。

岡元:それはすごい!ポイントは何だと思いますか?

神戸:この案件は2カ月ほどで準備し解決できましたが、滞納整理はスピード勝負だと思います。一緒に捜索してくれる上司やメンバーを集め、地元警察にも協力を依頼しました。現場に警察官がいるだけで心強く、客観性や公平性も担保できます。当日は先頭で大活躍してくださり、大変感謝をしています。

元生活保護受給者に対しての滞納整理は、生活状況を考慮した難しい対応が多いですが、公平性の観点も必要です。目標に向かって今できることを見つけて行動すると、思ってもみない出会いや新しい景色を見ることができ、とても良い経験になりました。私のような成功例もありますので、捜索を実施する価値はありますよ。チャレンジは楽しい!

CASE2 長野県安曇野市
不正受給に対し、県内初の民事訴訟を提起。

安曇野市
総務部 収納課 主査
有賀 利成(あるが としなり)さん

●裁判所の活用
非強制徴収債権に対する滞納整理手法で、支払督促や少額訴訟など、いくつかの種類がある。支払督促の申し立てに必要な費用は意外と少額で、数枚の書類を作成すれば郵送で手続きが可能。お願いだけでは動かない滞納者への効果的な一手。


岡元:裁判所を活用した背景について教えてください。

有賀:私が生活保護担当課にいた平成27年に、夫婦による約1,450万円の不正受給が発覚しました。そのうち約1, 230万円は自力執行権のない(自ら差し押さえできない)債権でしたが、あまりに高額で放置できないため、翌年夏に警察に告訴状を提出。議会の議決を得た後、裁判所を通じて金銭支払請求訴訟を提起したんです。

生活保護債権で民事訴訟に踏み切ったのは、長野県でも初めてのこと。研修で知り合った弁護士の方や、市町村アカデミーで出会った仲間などの協力もあり、進めていくことができました。裁判にて勝訴し、強制執行を実施。結果としては夫婦に支払い能力がなく債権放棄となりましたが、問題を放置せずに欠損処理を行うことができました。残りの220万円は現在も回収中です。

岡元:この経験は現在の業務に活かされていますか?

有賀:これを機に、少額訴訟や支払督促などの手法を活用するようになりました。生活保護の不良債権については、4年で約3,000万円の滞納額圧縮に成功。現在は徴収一元化され、収納課で滞納整理を行っています。

誰しも経験のないことにチャレンジするのは勇気が必要ですが、“勇気を出して人に頼る”ことで、自分の世界が広がったと実感しています。岡元さんも頼らせていただいた方の一人。相談をきっかけに、出会いが出会いを呼び、多くの仲間から刺激を受け、公務員人生がとても充実しています。一人担当は決して一人ではありません。ぜひチャレンジして、一歩踏み出してください。すてきな仲間が待っています。そして私もその一員になれればうれしいです。


一人担当こそ、全国に“滞納整理仲間”をつくろう!

一人担当の最大の悩みは、相談相手がいないということ。公務員は控えめな人が多く、人に聞くことを躊躇してしまうことも多いです。そんな人に伝えたいのは、あなたが相談することで、その相手はうれしくもあり、その人自身の学びの機会にもなるということ。私もたくさんの相談を受けてきましたが、そのたびに自分の考えが整理され、色々な事例を知ることができ、それが本を出版するきっかけにもなりました。

まずは隣の部署の人に聞いてみる、ダメなら別の人に聞いてみる。隣の自治体の人に電話をかけてもいい。そうすると“あの人なら分かるかも”とつながっていきます。全国1,788の自治体が同じ法律にもとづいて滞納整理業務を行っているわけですから、どこかに答えをもっている人がいるはずです。助けを求めて声を上げるとすてきな出会いにつながる、それが“チーム理論”です。同じ悩みを経験した人を見つけることは“心の回復薬”にもなりますよ。

そして、相談した相手には必ず結果のフィードバックをすることも大切です。自分が一生懸命取り組んできたことが、誰かの成果につながるってうれしいことですから。少しの勇気とともに、全国にいる仲間をどんどん増やしていきましょう!

 

岡元さん著書紹介

「現場のプロがやさしく書いた自治体の滞納整理術」(学陽書房)

窓口対応から捜索・差し押さえまで、基礎知識とコツをやさしく解説。業務マニュアルには書いていない“メンタルの守り方”も解説する、頼れる一冊。

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