ジチタイワークス

東京都東大和市

約1億円の市税徴収増を達成した、民間委託とICTの活用のポイント。

人口減少に伴う労働力不足を見越し、抜本的な業務変革の必要性を感じていた東大和市。そこで、一部業務の民間委託とICT活用に踏み切った。結果、1年で市税収入額は約1億円増を達成し、業務も効率化しているという。

同市の取り組みについて、納税課の二子石さんに話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.24(2023年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

労働力不足を見据えた業務改革で民間委託とICTの同時導入を推進。

都内26市の中でも市税収納率が低迷し、今後の労働力不足の局面において、滞納整理業務の継続がより難しくなると考えた同市。そのため、民間委託によるマンパワーの確保とICTの積極活用によって業務改革を進めようと、平成29年度から動き始めたという。

「すでに民間委託を実践している自治体の研究・視察を開始し、導入についての提案をまとめ、ボトムアップで市長査定を要求しました。当初、議会からは個人情報保護などの観点で反対の声がありましたが、守秘義務について市の求める水準を満たすよう事業者に依頼することで理解を得ました」。ようやく本格導入に向け委託先の検討を開始したが、業務委託とICT導入は別々ではなく、併せて対応可能な事業者を求めたという。

「一緒に導入することで、滞納整理の一連の業務を1社で完結でき、業務効率化はもちろん、パートナーとして円滑な連携も期待できると考えました」。こうして平成30年度から、まずは納税課での導入がスタートした。

PDCAサイクルを効率良くまわし約1億円の市税収入増を達成!

委託業務の範囲は、納付歓奨や滞納整理補助など、いわゆる“公権力を行使しない”業務全般で、主に少額の滞納や、初回滞納の案件を依頼する。これにより、市職員は差押えや公売など、公権力の行使業務に専念できるという。納付勧奨業務では、委託従事者が電話催告システムを使い、過去の交渉記録のもと滞納者につながりやすい番号や時間帯をねらって架電。「民間委託とシステム活用により、従来は年間1,000件ほどしか架電できなかったところ、わずか1カ月で約1,000件と効果的な架電を実現できています」。また、併せてSMS送信システムも使って、滞納者との接触機会を図っているという。「委託従事者のナレッジが徐々に蓄積され、事業開始2~3カ月後には軌道に乗りました。現在まで架電件数は上昇し続けています」。

また、事業者と一緒に月1回の戦略会議も実施。「月単位で今後の進行管理や収納率向上に向けた施策が練られることで、組織力の強化を実感できています」。これまで現年の市税収納率は、平成29年度までの99.1%が限界といわれていたものの、平成30年度が99.2%、平成31年度には99.3%と上昇。総計では、導入から1年で約1億円の増収につながったという。

「事業者を“下請け”でなく“イノベーションのためのパートナー”と捉えています。同等の立場で、互いの領分を分けて動けていることが結果につながっていると思います」。こうして令和2年度からは、課税課、保険年金課、市民課にも業務委託の範囲が広がった。

庁内で多数の好循環を創出し、さらなる収納率向上を目指す。

市職員と委託従事者との連携体制にも工夫を行っている。例えば、市職員の徴収体制は、これまでの地区担当制から金額担当制に変更。少額案件を担当する市職員の数を絞ることで、同じく少額案件に対応する委託従事者との情報共有がスムーズになり、互いの業務効率化を図れているという。

「これまでは長期滞納繰り越し案件の整理に時間がかかり、年度内に現年課税分の整理まで手がまわらない状態でした。民間委託により早期対応が可能になったことで、年明けから現年課税分の整理に着手でき、滞納繰り越し件数が年々減っていくという好循環が生まれています」。

持続可能な業務運営を目指して模索を続ける同市。二子石さんは、「一連の取り組みを通して、われわれ市職員の業務変革に対する意識も変わったと感じています。民間委託がどの自治体においても必ず適合するとは限りませんが、全国の様々な取り組みを参考に、ともに頑張りましょう」と力強く語ってくれた。

東大和市
市民環境部 納税課
二子石 彰(ふたごいし あきら)さん

これまで前例のなかった民間委託に対し、皆で考え話し合い、失敗も経験しながら実現できたことが自信につながりました。取り組み当初は想定しておらず、うれしい副産物となりましたね。

課題解決のヒントとアイデア

1.求めたのは、改革をともに進めるパートナー

サービスの向上と人員確保のため、専門的な知識とノウハウをもち、ICTを活用できる民間事業者に一部業務を委託。対等な立場のパートナーシップで、持続可能な自治体経営を可能とする行財政運営の実現を目指した。

2.民間事業者と領分を分け、効果的な体制へ

市職員は公権力を行使するコア業務に従事。それ以外を民間委託することで、業務を効率化させる。徴収体制を地区担当制から金額担当制に移行するなど、市職員と委託従事者とで適切な連携が図れる環境も整備した。

3.職員の成長、意識の変化が副産物に

全庁を通して前例のなかった民間委託に対して、プロポーザルの実施要項作成などは若手職員に一任。新たに仕様書をつくる作業自体がこれまでの業務の振り返りに直結し、職員の業務変革に対する意識も変化した。

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