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神奈川県川崎市

公開日:2023-02-28

日本の自治体初のオンブズマン制度で市民に開かれた市政を目指す。

企画・政策
読了まで:5分
日本の自治体初のオンブズマン制度で市民に開かれた市政を目指す。

自治体の業務やそれに関連する職員の行為について、住民からの苦情などを公平・中立な立場で調査し、場合により自治体への勧告なども行うオンブズマン制度。日本で初めてこの制度を導入したのが、川崎市だという。当時の導入背景や、オンブズマン制度が果たす役割、今後の課題について、代表市民オンブズマンと担当課長に話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.24(2023年2月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

公平な市政が求められる中、市民の声で制度導入を決定。

同市が日本の自治体で初めてとなるオンブズマン制度を導入したのは、平成2年のことだ。昭和61年に市民から市議会に対し、同制度の導入を求める陳情が提出されていた。当時、開かれた市政を求める市民の動きが活発になっており、その動きの最中である昭和63年、職員倫理に触れる同市での贈賄事件が発覚。それがきっかけとなり、制度の導入が具体的に議論され始めたという。市政に対し、第三者視点で公平な意見を言える機関として同制度への注目度は一気に高まり、平成元年の市長選挙においても制度導入が争点に。その後、制度導入を公約としていた候補者が当選したことで、本格的な導入検討の委員会が発足した。

「市民代表や学識経験者などで構成された委員会では審議が繰り返し行われたようです。制度実現に向けて開催された市民フォーラムには約350人もの市民や市職員などが参加したと聞いています」と代表市民オンブズマンの富田さんは話す。市民にとって制度への期待と関心は非常に高く、平成2年11月の制度施行は待ち望まれたものだったことがうかがえる。同市での導入を皮切りに、同制度は全国へと波及。現在では34の自治体で導入されている。

市への苦情を中立的に調査し、参加型の市政をサポートする。

自治体におけるオンブズマン制度は、市民からの苦情の解決を図る方法の一つとして導入されており、同市では市長が地方行政に関して優れた識見をもつ、職員以外の第三者を市民オンブズマンとして任命する。同市の場合は、代表市民オンブズマンと市民オンブズマン、2人の構成だ。

市政に対する苦情は郵送やメール、市民オンブズマン事務局への来訪など、様々な方法での申し立てが可能。申し立て後、まずはその内容が調査対象となるものなのかどうかが審査され、調査の可否が判断されることになる。「苦情の内容は様々ですが、内容にかかわらず審査は行い、調査に移るかどうかの判断をしています。調査を実施する場合は、市の対応が正当なものだったか、申し立て内容通りの不備があったかを担当部署へ調査。その結果を市民オンブズマンが申立人と市の担当部署双方に通知します。必要に応じて制度の改善を求める意見表明や、是正などの措置を行うよう勧告を公表する流れです」。

令和3年度の申し立てでは、職員対応、国民健康保険、市民活動に関する苦情が多く、新型コロナウイルスワクチンに関するものなどもあったという。「各部署で直接苦情対応をする場合、どうしても網羅的・論理的な判断が難しいケースが出てきます。市民オンブズマン制度は中立的な立場で法令などにもとづいて判断することができ、市にも申立人にも有用です」と市民オンブズマン事務局担当課長の石原さんは説明する。

認知度アップや申請の効率化でオンブズマン活用につなげたい。

同市がオンブズマン制度を導入して以降、市や職員が苦情対応に積極的に応じるようになるなど、同制度は市政の体質改善や職員の意識向上の一助となってきた。一方で、30年以上前の導入経緯を知る職員が少なくなったことで、開かれた市政を目指してきた制度に対する理解は十分とはいえない状況だという。

富田さんは「年間で100件程度の苦情を受け付けていますが、それでも人口からみると決して多い数とはいえません。当市には“市長への手紙”という市民が市長に直接意見を届ける制度もありますが、そちらには令和3年度の1年間で2,400通以上が届きました。そのことを考えると、改めて市民オンブズマン制度の認知度を向上させる必要性を感じています。市では業務の細分化が進み、単独の部署だけでは改善に至らない苦情対応も増えている中、部署にとらわれない横断的で中立な判断ができるオンブズマン制度は唯一無二の存在。開かれた市政にとって、有意義であることは間違いありません」と話す。

今後は申し立てやその内容確認を少しでも効率化し、判断までの時間短縮にもつなげたい考えだ。日本初の自治体オンブズマン制度としてさらなる認知度向上を目指しつつ、市民参加型のより良い市政に貢献していくことが期待される。

川崎市
市民オンブズマン事務局
左:代表市民オンブズマン
富田 善範(とみた よしのり)さん
右:担当課長
石原 貴之(いしはら たかゆき)さん

当市のオンブズマン制度は、法令違反に加えて、行政のあり方、その妥当性も含め、第三者的判断を行うほかにはないものです。市民と市政の双方にとって、意義ある制度だと思っています。

課題解決のヒント&アイデア

1.一つひとつの苦情を真摯に捉えて、誠実な対応を

苦情を申し立てる人がいるということは、声を上げないだけでその何倍も同じ思いをしている市民がいるということ。1つの苦情は氷山の一角にすぎないと考え、全ての申し立てに誠実な対応をする。

2.市民参加型の市政で目指す、協働したまちづくり

30年以上の運営で、苦情に対する職員の捉え方、市の体制にも変化が。苦情を積極的に受け付けるなど、より市民に開かれた市政になり、協働でのまちづくりを目指した取り組みも増えた。

3.市民におもねることなく、第三者視点で公平に判断

オンブズマンは、苦情が調査に値するかどうかの審査はもちろん、調査も第三者の立場で行う。調査の結果、必要な場合は意見表明や勧告を行い、内容を公表。市民と行政どちらの肩ももたない中立な存在に。

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