【セミナーレポート】テレワーク・ワーケーションで創る!新たな人の流れと仕事が生まれるまちづくり
人々の働き方が、新型コロナ禍の影響で急速に様変わりし、働く人々のライフスタイルも大きく変化しています。最近では、「リモートワーク」「ワーケーション」などの言葉を日常的に耳にするようになり、地域の魅力に触れながら仕事も快適にこなしたい…と、考える人が増加しているようです。
そこで今回のセミナーでは、国、自治体、企業から特別ゲストをお招きし、それぞれの観点から『現代の働き方に合わせた環境構築やまちづくり』や、『ワーケーションなどによって得られた関係人口の創出が地域活性化につながった実例』について紹介してもらいます。
概要
■タイトル:テレワーク・ワーケーションで創る!新たな人の流れと仕事が生まれるまちづくり
■実施日:2022年12月21日(水)
■参加対象:自治体職員
■申込者数:65人
■プログラム
Program1
デジタル田園都市国家構想における地方創生テレワークの推進
~国の交付金制度と自治体先進事例のご紹介~
Program2
企業が考えるワーケーションの取組
Program3
地域課題解決に向けたテレワーク推進の仕組みづくり
デジタル田園都市国家構想における地方創生テレワークの推進
~国の交付金制度と自治体先進事例のご紹介~
<講師>
内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局
内閣府地方創生推進室
主査 仁昌寺 弘貴 氏
政府は『デジタル田園都市国家構想』にもとづく取り組みの一環として、テレワーク活用により、地方における新たな人の流れを生み出す『地方創生テレワーク』を推進中だ。内閣府地方創生推進室の仁昌寺氏が、自治体向け交付金制度や交付金活用事例を活用した地方創生テレワーク推進のポイントを紹介する。
テレワーク拡大で『転職なき移住の推進』を実現
デジタル田園都市国家構想の理念のもと、政府が進めている地方創生の重点課題は次の通りです。
①地方に仕事をつくる
②人の流れをつくる
③結婚・出産・子育ての希望をかなえる
④魅力的な地域をつくる
このうち、②の“人の流れをつくる”には、転職なき移住の推進という取り組みがあり、地方創生テレワークの取り組みも、この中に入っています。具体的には、下記のような内容です。
●企業版ふるさと納税や、デジタル田園都市国家構想交付金等の活用によるサテライトオフィス等の整備
●地方創生テレワークに取り組もうとする企業への相談対応や優良事例の表彰
従来から地方創生に関する取り組みを支援していた『地方創生推進交付金』、『地方創生拠点整備交付金』に加え、昨年、デジタル田園都市国家構想が立ち上がり、新たに措置された『デジタル田園都市国家構想推進交付金』の3つが『デジタル田園都市国家構想交付金』となり、自治体の取り組みを支援しています。
デジタル実装を支援するデジタル実装タイプ、中長期的な計画にもとづき先導的な取組や施設整備等を支援する地方創生推進タイプ、地方創生拠点整備タイプを設け、それぞれの特性を活かしながらデジタル田園都市国家構想を推進します。令和4年度の補正予算により、全体で400億円が措置されています。昨年度は200億円だったので倍増したわけです。
『デジタル実装タイプ・地方創生テレワーク型』の全体概要
『地方創生テレワーク型』の支援制度は、転職なき移住を実現し、地方への新たなひとの流れを創出するため、サテライトオフィスの整備・利用促進等に取り組む地方自治体が対象です。
交付金の特徴として、補助率3/4(高水準タイプ)と補助率1/2(標準タイプ)を用意しており、KPIの数値の高さで補助率が決まります。高い目標を掲げていただき、有識者審査で承認されれば、高い方の補助率で活用できるということです。施設整備についても自治体所有施設だけでなく、民間施設への補助も可能ですし、進出企業に対する民間支援も行っています。
地方創生テレワーク型には、下記の5つの支援メニューがあります。
地域交流スペースやカフェ、居住・滞在スペースなど、利用促進につながる附帯施設・設備の整備については、従来は施設整備の2割以内としていました。しかし、一括整備を希望する自治体からの声が多かったため、施設整備の5割まで要件緩和しています。
もう少し具体的な事業イメージを紹介します。
『サテライトオフィス等整備事業(自治体運営施設整備等)』の場合、建物は新築・改築いずれでも良く、建物の改修だけでなく設備導入、クロスや天井などの修繕も対象になります。電気設備や給湯設備、テレワークに必要な什器・機器の導入、もちろん通信環境整備にも交付金を充てることができます。詳細は下記をご確認ください。
多くの自治体がマイナンバーカード普及で加点を獲得
政府は、マイナンバーカードの普及促進に力を入れています。地方創生テレワーク型に限らず、デジタル田園都市国家構想交付金の審査で、自治体におけるマイナンバーカード普及状況が審査に加味されます。各自治体が頑張ってることで、多くの自治体が加点を得られる状況です。実例をいくつか紹介しましょう。
<滋賀県彦根市>産官学金連携による企業誘致
滋賀大学にある、日本初のデータサイエンス学部と連携し、共同研究、学部生の採用に関心を寄せる企業をターゲットとして、誘致活動しています。推進の体制としては、自治体だけでなく大学や商工会議所、金融機関とで『近江テック・アカデミー』というコンソーシアムをつくり、事業を推進しています。
<宮崎県日向市>サーフィンワーケーションを切り口とした企業誘致
日向市は、全国有数のサーフスポットを活かし、"海の見えるテレワーク施設"として整備。宿泊事業者、飲食事業者には『日向市ワーケーション協力施設登録制度』でモニターツアー参加者を地域全体で受け入れる体制を整え、地域の意識醸成を図り、企業進出にもつながったようです。
<埼玉県皆野町>ロスを出さない特産品開発の実現
桑(クワ)栽培が盛んな皆野町は、使われなくなった桑の葉や実を活用した特産品開発を行うことで、地域の知名度や農産物の付加価値向上を目指しました。ロスを出さない真空乾燥技術を持つ企業の進出によって、地域資源を活用したお茶や化粧品などの特産品開発と、持続可能な6次産業モデルの構築につながりました。
以上、交付金の制度概要説明と事例紹介をいたしました。現在、次回の募集を受け付けているところで、締め切りは1月25日ですが、関心がある自治体は、連絡いただければいつでも相談を承っています。
企業が考えるワーケーションの取組
<講師>
東日本電信電話株式会社 総務人事部
サスティナビリティ推進室
担当部長 北川 義和 氏
プロフィール
NTT東日本入社後、人事・労務業務の経験を積み、2020年から現職。全社的なサスティナビリティ推進の企画業務に従事しており、「社会貢献×ワーケーション」など、新たなワークスタイルについて企画検討中。
NTTグループが実践中の『自宅を職場に』という取り組みから、企業が考えるべきテレワークの推進と、地域との連携・共創に向けた『ワーケーション×社会貢献』の取り組みについて、NTT東日本の北川氏が紹介する。
リモートワークの取り組み~リモートスタンダード
NTTグループ全体が、リモートワークを先進的に進めてきました。本社組織では、リモートワーク率が75%ほどになっています。リモートワークが可能なオフィスワーカーの場合は、70%を超える状況です。一方、コールセンターや現場で作業をするエッセンシャルワーカーの場合、リモートでは作業ができません。そういった点も踏まえ、どういったセキュアなシステムをつくっていくか、ボトルネックを解消することによりリモートワーク率を上げていけるか、取り組んでいるところです。
コロナ禍で社会的要請も含め、リモートワークに対応し、働き方やライフスタイル、ワークスタイルの全てが変わってきたと思います。そんな中、リモートワークの手当やスーパーフレックス、サテライトオフィス拡充も行いました。ただ、リモートワークの率が高ければ良いということではないと思っています。
制度としては『リモートスタンダード』ということで、NTT社員は自宅が勤務場所ということで、元のオフィスに出社するのは出張扱いになります。これまでは2時間程度の通勤圏内に住むことがベースになっていましたが、私の部下には、現在新潟の湯沢町に居住している者もいます。リモートでは毎日会っていますが、転勤や単身赴任を伴わない働き方を拡充しています。以下が、リモートワーク制度の見直しについてまとめたものです。
リモートワークにおける課題とメリット
リモートワーク推進において、ITツールや環境面、コミュニケーションなどが大きな課題になっています。弊社はMicrosoftのOffice365を使ってクラウドワークを実施しており、現在は円滑なコミュニケーションが図れていると思っています。
職場にいると、「○○君、ちょっといいかい?」と、上司が部下の時間を奪うことが簡単にできていましたが、リモートワークの場合、電話のように時間の同期を取らなければいけないコミュニケーションと、チャットやメールのような非同期のコミュニケーションツールを組み合わせることができます。そのため、上司の都合だけで相手の時間を奪うことが無くなります。あらかじめ、自分の状況が周囲に分かるようにしておけば、相互のコミュニケーションが円滑になるでしょう。ワークルールという形で、しっかりと認識して定着させることがベースになります。
また、『メンタルヘルス不調』が若干増えている状況が見えます。3年前ぐらいに入社した社員から、集合研修的なものは全て無くなり、『リモートワークネイティブ』のような状況です。先輩・後輩・同期との横のつながりがない中で、リモートネイティブの世代に関しては、メンタルの部分でのフォローがかなり必要と考えています。
一方で、オフィス賃料や通勤費のコストがかなり浮いた点が、会社側のメリットです。社員側のメリットも大きく、例えば私の場合、朝は約1時間かかっていた通勤時間をジョギングする時間に変え、入社当時の体重に戻りました。生活の中で、時間の使い方をかなり変えられるという点が最大のメリットでしょう。時間を有効活用して資格を取得したり、社外副業を行ったりする者も増えています。ワークスタイル自体、かなり自由度が上がっていると思います。当然ながら、単身赴任者も減りました。
Work From Anywhere (リモートワーク+αの働き方)について
現在、リモートワークを前提に『Work From Anywhere』や『リモートワーク+α』を、どのように志向していくべきか検討しているところです。これは自治体、地元企業やNPO、そしてNTTが、地域の未来を支えるソーシャルイノベーションという形で考えたときに、その地域においてヒト・モノ・カネをどういう仕組みで循環させていくかがテーマになります。
その地域の魅力を活かし、そのエリアで働くだけでなく、そこで働く時間+αというものをつくることで、コミュニケーションも含めたメンタルヘルスやQOLを上げ、新しいワークスタイルも可能になるはずです。その地域に入り込んでいくこと、現地に行って体験・体感することを、どういった機会を通じて実現するかが大きなポイントになるでしょう。
従来の"課題解決"は、弊社と自治体というふうに1対1の関係が大部分を占めていました。そこに地元企業やNPOに入ってもらい、都市圏をはじめ他地域在住の人々に、地域の魅力をどう伝えていくのかが、今後の大きなテーマになってくると思っています。
企業側として取り組みをどう進めていくか。これまではバケーション主体に捉えられてきたワーケーションを『ブレジャー』『ワークティビティー』のように、業務主体でワーケーションをできないか。業務の一環としての研修みたいなもの、それから、地域課題の解決や社会貢献活動などを業務として扱い、ワーケーションを通じて、地域に根ざした活動を実現しようと検討しています。以下の図が、お話ししたことの概要ですので、参照ください。
地域課題解決に向けたテレワーク推進の仕組みづくり
<講師>
日光市役所 企画総務部
部長 小林 岳英 氏
プロフィール
1990年今市市役所に入庁し、2006年市町村合併により日光市職員となる。入庁以来、広報6年、法務10年、行政改革および公共施設マネジメント6年、人事7年、政策2年と企画、総務部門の仕事を担当し、現在、32年目。2021年、総合政策課長としてワーケーションやテレワークの推進を所管し、2022年から現職。
日光市は、様々な地域課題の解決や地域活性化に向け、ワーケーションやテレワークなどを推進するための組織『スマートワークライフ#NIKKO』を発足させた。現在、同組織が中心となって、地域・企業・行政が共創した取り組みを推進中だという。組織発足までの経緯や組織体制、今後の取り組み計画などについて、同市の小林さんが紹介する。
公民連携の取り組みについて
観光メインで成り立っている日光市は、人口減少や少子高齢化など、多くの課題を抱えています。人が減っているので財政的にも厳しく、土地の広さはメリットでありデメリットでもあります。住民福祉の向上、地域行政の自主的・自立的経営を進めるため、民間企業や大学、市民などの協力者と一体となり、積極的な公民連携に取り組むことが効果的だと考えています。
ポイントとしては、"自治体間競争を勝ち抜くため"、"よりよい市民サービスを提供するため"というポジティブな発想で、一体的に取り組むことです。ネガティブな方向で取り組んでも、うまくいかないでしょう。民間企業の方々と楽しく仕事をやりたいというのが、本市のスタンスです。現在、民間企業13社、大学3校と包括連携協定を締結しており、NTT東日本やあいおいニッセイ同和損保、宇都宮ヤクルトなどと共に、新しい働き方やワーケーションに取り組んでいる状況です。
複数の自治体が同様の取り組みを進めているようですが、本市も下記のような『民間提案制度』を積極的に進めています。
AI-OCRやRPAを導入している自治体は多いと思いますが、本市も"日光市を実証実験のフィールドに"と呼びかけ、令和4年度は実証実験に取り組んだり、公共施設でも随意契約保障型の民間提案制度に積極的に取り組んだりしているところです。
日光市の『テレワーク等定着促進事業』について
本市は令和2年8月より、『テレワーク等定着促進事業』を開始しました。市内の活性化や移住・定住、二地域居住につなげるため、市内におけるサテライトオフィスの活用やワーケーションを促進する事業です。市内でワーケーションを実施した企業に対し、上限1泊5,000円、宿泊費用の2分の1の補助を実施しています。また、令和3年12月、『日光の新しい働き方推進協議会成立設立準備会』を民間企業と共に立ち上げ、翌年8月に『スマートワークライフ#NIKKO』を設立しました。
日光テレワーク拠点施設としては、NTT東日本と連携し、テレワークと定着促進事業に取り組んでいます。地方創生交付金を活用し、NTT日光ビルの一部を通信環境や個室等を備えたコワーキング施設として整備しました。
また、『サテライトオフィス等誘致戦略』については、令和4年6月に策定しました。地域の現状課題、リモートワークに対する調査結果等を踏まえ、企業進出や新たなビジネス創出の地域経済の活性化や移住・定住ということを目的としています。
『スマートワークライフ#NIKKO』について
本市は令和4年8月、『スマートワークライフ#NIKKO』を設立しました。新型コロナの影響でリモートワークが定着しつつあることをチャンスと捉え、地域一体となって企業やリモートワーカーの誘致・誘客、ビジネス創出の機運醸成などを実現するための取り組みです。
『A3』と書いてエーキューブと読みますが、"A3からはじまる新しい日光体験 〜準備不要・手ぶらで楽しめる日常と非日常をA3から〜"がキャッチフレーズで、概念図は以下の通りです。
『Anytime, Anywhere, Anyone』は、いつでもどこでも誰でも手軽に楽しめるよう地域の資源を活用し、色々な企業と連携しながら日光市を盛り上げていきましょう…という意味です。
スマートワークライフ#NIKKOが提供する価値について、次の図をご覧ください。
まだ始まったばかりですが、企業同士のビジネスマッチングや新しい事業の創出が少しずつ出てきています。現在32社が会員として参加しています。ビジネスマッチングや地域活性化、移住・定住が本丸だと思っています。ワーケーションは、その入口に過ぎません。
「スマートワークライフ#NIKKO」のキックオフイベントにおいては、市内の宿泊施設にあるコワーキングスペースと中継したり、ワーケーションプレイスを紹介したりするデモンストレーションを行い、基調講演、トークセッションなどを行いました。詳細は、YouTubeでも視聴できるようにしています。
また、ワーケーションのモニターツアーを実施。企業研修型、地場産業体験型、福利厚生型という3つのカテゴリーのうち、先ごろ企業研修型と福利厚生型を実施しました。世界遺産の輪王寺での写経体験や、足尾銅山で有名な足尾エリアで植樹体験などを取り入れました。
今後の課題は、企業と行政の需給ギャップが非常に大きい点です。先ほどNTTの北川さんの講演で社会貢献の話が出ましたが、企業側は社員のウェルビーイングに対するニーズが高い一方で、自治体は観光需要の創出、関係人口の増加や、地域の活性化、雇用創出に対する点のニーズが高い。ここのギャップをどう埋めていくのか。そこを企業とも相談しながら今後は取り組んでいきたいと思っています。
お問い合わせ
ジチタイワークス セミナー運営事務局
TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works