ジチタイワークス

奈良県奈良市

「コンマ1秒の短縮」を目指し、票の点検回数を2回から1回へ。

県内最多の30万人の有権者を抱える中、令和4年7月の参議院議員選挙にて、「コンマ1秒の短縮」というキャッチフレーズを掲げ、開票作業の迅速化に取り組んだ奈良市。その決断に至るまでの経緯や成果、今後の展望などを取材した。

Q.今回、票の点検回数を2回から1回にした経緯を教えてください。

平成4年に行われた参議院議員選挙の開票時、点検済みの候補者ごと・政党ごとの有効投票の束の中に、ほかの候補者・政党の有効投票が混在していたことから、すべての投票の再点検により、開票終了時刻が比例代表選挙で翌日10時を過ぎるという事態が発生しました。

そのミスを受けた改善策として、それまで「1回点検」としていた点検係の作業を「2回点検」とする、点検済みの有効投票を含めた全ての票束を開票立会人に回付するなど、「正確性」を最重視した開票作業を行うようになりました。

しかし近年、本市では、開票作業の終了時刻が遅く、早朝にまで及ぶこともあり、開票迅速化が大きなテーマとなっていました。

開票に従事する職員を増やせば時間短縮は図れますが、投票事務にも多くの職員を投入する必要があります。

そこで、令和3年10月の衆議院議員選挙・奈良県議会議員補欠選挙の後、開票迅速化の方策の1つとして、2回点検を1回点検にすることを奈良市選挙管理委員会として決定しました。

Q.点検回数を減らすのは難しくありませんでしたか?

正確性と迅速性の両立を目指す中で、1回点検への回帰は正確性を担保できるものなのか、公益の代表者である開票立会人の理解を得られるのかが最も大きな懸念でした。

ただ、実際には、手作業あるいは自動読取分類機による分類を経て点検係が点検するため、実質2回点検となっていること、また、開票立会人にも点検の正確性について丁寧に説明し、理解を得ることができました。

Q.点検回数を減らすにあたり、特に気をつけたことを教えてください。

開票迅速化のためには、点検スピードの向上が必要となる一方、正確性も担保しなければならないという、いわば二律背反のものをいかに両立させるかが課題だと考えています。

今年7月の参議院議員選挙で1回点検に戻すにあたって、開票事務従事者説明会では、開票迅速化に取り組む必要性と趣旨、点検係の担う業務の重要性について説明することに主眼を置きました。

Q.そのほかに実施したことはありましたか?

今回の選挙では「コンマ1秒の短縮」をキャッチフレーズとして掲げました。

これは、1票ごとの小さな時間短縮が、十数万票で積み上がれば結果として大きな成果につながるという意識を、選挙管理委員会事務局職員も含め、開票事務従事者全員に共有してもらうためのもので、併せて開票開始時刻から5分刻みで各係の目標処理票数をタイムテーブルとして示し、目標の「見える化」を図りました

また、全員体制で開票事務に取り組んでもらえるよう、「できる人が、できることを、できる限りやる」という選挙管理委員会事務局長からのメッセージを、従事者受付場所に掲示しました。

Q.作業時間の削減への取り組み以外に成果があれば教えてください。

今回の選挙では、残念ながらテーマとして最も大きく掲げていた「開票終了目標時刻」には遠く及ばない結果となりましたが、開票事務従事者の動きは、選挙管理委員会からの投げかけをしっかり受け止めてくれたものでした。

目的、目標だけでなく、選挙管理委員会としての熱意も、言葉と姿勢で明確に「見える化」することで、従事者も一丸となって取り組んでくれる環境が生まれる、ということを再確認できたことは、貴重な成果だと考えています。

小さな波から起きる大きな波、「バタフライエフェクト」を改めて実感した選挙でした

Q.今後、予定している取り組みや展望があれば教えてください。

本市における次の選挙は、来年4月の知事選挙・県議会議員選挙となります。今回の参議院議員選挙で課題となった事象に対応できる策を講じるのは当然のことです。

ただ、令和7年には参議院議員選挙があり、本市では市長選挙・市議会議員選挙も同日に行われる可能性があります。その場合、選挙の規模は極めて大きくなり、特に開票作業は大量かつ複雑になります。

また、社会全体が少子化・超高齢化し、財政状況も厳しい中、職員数の適正化は必至です。

そのため、非常に多くの職員を投・開票事務に投入している現状からの脱却も視野に入れ、中・長期的な視点で、スキームの再構築に取り組みたいと考えています。

Q.他自治体へのアドバイス等があれば、ぜひ教えてください。

選挙後、課題や解決策について、庁内からも多くの建設的な意見が寄せられました。

これは、今回、開票事務従事者全員が「コンマ1秒の短縮」を常に意識しながら開票事務に従事してくれた、何よりの証だと思っています。

選挙管理委員会としての想いを「見える化」し、選挙を市全体として取り組む「一大事業」として捉えられる風土づくりが重要だと改めて感じました。

また、近年は照会がメールで行われることが主流となり、他自治体に赴いて現状を知る「出張視察」がほとんどない状態ではありますが、開票については資料、文字だけでは分からない部分も多く、参議院議員選挙後に県外自治体のご厚意で開票を見せていただき、大変参考になりました。

こういった情報収集についても、実際の開票と同様、「アナログ」と「デジタル」、それぞれの強みを活かして進めていく必要があると考えています。

 

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