ジチタイワークス

茨城県つくば市

時間や場所に縛られず一人でも多くの人が投票できる社会を目指す。

インターネット投票の実現に向けた要素と技術の検証

参政意識はあっても、何らかの事情で投票所に行けない人が一定数いる。そうした人が、負担なく投票できる社会の実現に向け、インターネット投票を可能にする技術検証を進めているつくば市。その概要と現状を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.27(2023年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

インターネット投票の仕組みづくりの中で公職選挙への導入に手応えを得る。

国が提唱する「Society 5.0」※1の実現に向け、平成29年度から「つくばSociety 5.0社会実装トライアル支援事業」を実施している同市。学者や研究員などの有識者からなる審査会において、事業選定にあたって住民投票を実施してはどうかという意見が上がった。そこで将来的な可能性も見据え、インターネットとマイナンバーカード(以下、カード)、ブロックチェーン技術を組み合わせた電子投票に挑むことになったという。

「当初は投票手順確認のため来庁者に限定し、ICカードリーダーをつなげた庁舎内のパソコンで検証しました。その後、スマホやタブレットから投票する方法へと進化させました」と、中山さん。だが、カードのパスワードを忘れた人が予想外に多かったため、令和元年には顔認証※2による本人確認を導入するなど、さらに改良。令和3年には、市内の学校の生徒会選挙で、スマホ投票を実施。そして令和4年11月、一部の市民約1万4,000人を対象とした「スーパーシティ模擬住民投票」を実施し、検証を重ねていった。「対象市民にアンケート調査を実施したところ、85%ほどがインターネット投票導入には肯定的でした」と、反応を語る。

実証実験を繰り返すうちに、公職選挙にも使えそうだという手応えを得た同市。将来の市長・市議会議員選挙へのインターネット投票導入を目指して、実証実験を進めている。

※1 「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」と定義されている
※2 検証したのみで現在は除外

投票所に行けない人の立場から様々な課題を一つひとつ克服する。

身体上の理由などで投票所に行けない人のために、郵便投票制度がある。ただ対象は、自力での移動が困難な人に限られる。しかも、郵便投票証明書の交付申請や投票用紙の請求など、事前手続きが煩雑だ。「実際は、投票所までの交通手段がない、手が不自由で文字が書けない、育児で家を出られない、といった人の方が多いはずです。そんな人たちが、時間や場所に縛られずに投票できる仕組みを目指してきました」。

そのため、初年度は来庁制だった投票場所を、ICカードリーダーさえあれば、インターネット経由でどこからでも投票できる仕様にした。このほか、ブロックチェーン技術による情報暗号化の処理速度を高めたり、いったん導入した顔認証を公的な有効性の観点から除外したりと、着実に課題を克服してきたという。

令和4年の模擬住民投票での検証内容は、投票案内はがきに記載の二次元コードからの入力画面アクセス、メールによる投票人登録用コードの発行、署名用電子証明パスワードによるカード認証など、公職選挙を想定した実践的な手順で実施した。「取り組みへの市民の理解を得るため、事前に広報活動を行ったり、市内3カ所にサポート窓口を設けたりと、混乱を招かないよう配慮しました。100人前後の市民がサポート窓口を訪れたことから、公職選挙に導入されたとしても、ソフト面でのサポート体制は必須だと感じました」。

令和4年に実施したスーパーシティ模擬住民投票の投票画面。

“立会人不在”という問題を法的に乗り越えることに期待。

データを暗号化した上で、インターネット上に存在する複数のコンピューターで分散処理・記録するブロックチェーン技術は、情報漏えいやデータ改ざんのリスクが極めて低いといわれている。模擬住民投票の結果から、次は自治体アプリ内で投票まで完結できる構成にすることや、より分かりやすいUIを準備することなど、今後の課題も明確になった。「仕組みという観点では“これで行ける!”という手応えを十分に感じています。残る課題は、選挙制度上の不都合だけです」と強調する。

選挙には憲法で定められている基本原則があり、当然ながらそれらを無視することはできない。投票の秘密が守られる原則「秘密選挙」に関しては、投票データが暗号化されるインターネット投票の方が優位とされている。成人に選挙権が与えられる原則「普通選挙」に関しても、メールの投票人登録用コードとカードによる本人認証で、身元は明らかにできる。

1人1票の原則「平等選挙」についても、インターネット投票希望者を事前登録制にすれば、選挙人名簿から登録者を事前に除外できるため、投票用紙との二重投票を回避できると考えられる。「投票所での投票との違いは、立会人がいないことだけです。この部分を国がどう考え、どのように対策するのかが、インターネット選挙の実現に向けた大きな壁として立ちはだかっています」。

そのため、あいにく今すぐに公職選挙で運用できる状況ではない。しかし将来に向けて中山さんは「当市の取り組みに共感いただける自治体があれば、地方から国の制度が変わるよう、一緒に声を上げてほしいと思っています。多くの人が選挙に参加できる仕組みを協力してつくりましょう」と結んでくれた。

政策イノベーション部
スマートシティ戦略監
中山 秀之(なかやま ひでゆき)さん

このページをシェアする
  1. TOP
  2. 時間や場所に縛られず一人でも多くの人が投票できる社会を目指す。