ジチタイワークス

東京都狛江市

意思決定のプロセス!誰もが分かる主権者教育とは

現在、18歳以上に与えられている選挙権。しかし、知的・発達障害がある人にとっては、選挙公報の用語を理解したり、投票用紙に立候補者名を記入したりすることが困難な場合もある。そうした人への選挙参加に向けて、狛江市は「わかりやすい主権者教育の手引き」を制作。その内側について、政策室の猪野さんと高齢障がい課の平田さんに話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.23(2022年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

主権者教育の教材や教え方が確立されていないという現実。

平成25年に公職選挙法が改正され、成年被後見人の選挙権が回復した。同市ではその直後から、成年被後見人、知的・発達障害者などへの投票支援の取り組みを開始。「政府は主権者教育の推進を求めていますが、教育現場、特に特別支援学校では、その教育を行う環境が整っていませんでした」と猪野さんは振り返る。

そして、平成30年に全国初の「狛江市総合的な主権者教育計画」を策定し、主権者教育を意欲的に推進してた。誰もが使える教材や教え方を確立しなければならないと考え、それまでの取り組みをまとめた冊子「わかりやすい主権者教育の手引き」が令和2年に完成。発達段階や障害の特性に応じた社会的意思決定を学ぶ材料として、全国の特別支援学校などに配布した。

「小さい市なので、制作の中心となった市民団体との距離感も近く、職員同士の連携が取りやすかったです。スムーズに事が進んだのは、これらが影響しているのかもしれません」。

投票が主体の方法論ではなく、意思決定の力を養う教育のため。

手引きの製作委員会のメンバーとして、同市からは、かつて福祉保健部長や教育部長などを歴任してきた副市長や教育委員会指導室長を含む4人と、特別支援学校の教員、福祉事業所の職員、そして当事者の保護者などが参加。原稿作成と並行して、模擬投票や手引きの検証授業を行い、高齢障がい課は事務局として手引きの取りまとめを行った。

手引きは当初、学校などの教育現場で使われることを想定していた。しかし進めていく中で、保護者の意識や家庭での取り組み、地域での認識も変えていく必要があるとの気づきがあったという。そこで学校だけでなく、福祉作業所などの様々な場所でも使え、意思決定を学ぶきっかけとしても使ってもらいたい、そのような思いを込めて、タイトルは“教材”でなく“手引き”とあらわした。様々な立場の声が詰まった冊子は、主権者教育の考え方や授業の効果的な進め方、保護者の声やQ&Aなど、写真や具体例がふんだんに織り交ぜられた内容に仕上がった。

「子どもも大人も障害の有無にかかわらず、みんなが主権者です。主権者教育とは、選挙教育ではなく意思決定を学ぶもの。自分の考えをもち、自分なりの方法で発信する力を身に付けるためのものだと考えています」と平田さん。制作する上で、いかに平易な言葉で分かりやすく伝えることができるかを大事にしたという。「当事者だけでなく、うちの子は選挙に行けない、無理だという家族の方もいます。この手引きがそうした意識を根底から覆し、選挙へ行くきっかけになってほしいです」と猪野さんも力を込める。

投票へ誰でも当たり前に行ける日が来るように。

「全国のスタンダードになるようにつくったつもりですが、あくまでベースだと思っています。これをもとにそれぞれの自治体のカラーを加えて、ブラッシュアップしながら使ってもらえるとうれしいです」。手引きには、市民団体が制作した選挙の流れや代理投票の手法が分かりやすく収録されたDVDの紹介のほか、ユニバーサルデザインを心がけた選挙公報の制作例も掲載している。

また、「投票所にお子さんと一緒に来ることで、子どもの頃から選挙を身近に感じてもらい、その子が選挙権を得たときに自然と投票所へ足を運ぶようになるといいなと思っています」と平田さん。障害の有無や年齢などにかかわらず、地域全体の選挙に対するハードルを下げ、身近なものにする取り組みに積極的な同市。権利を平等に守り、誰一人取り残さない行政のあり方として、参考にすべきポイントは多そうだ。

狛江市
左:企画財政部 政策室
猪野 裕介(いの ゆうすけ)さん
右:福祉保健部 高齢障がい課
平田 奈保美(ひらた なおみ)さん

主権者教育とは、自分で考え、選び、行動に移す力を育む教育のことだと考えています。この手引きが全国に広がり、地域みんなの考えが変わるきっかけになるとうれしいです。

課題解決のヒントとアイデア

1.自分で決めて行動する、意思決定の力を養う

主権者教育とは選挙教育ではなく、本人の意思決定する力を養うための教育と捉える。特別支援学校だけでなく、小・中学校や高校、福祉事業所など、様々な場所のスタンダードになるように使える手引きとして制作。

2.主権者教育に対して異なる立場の声を集める

制作メンバーそれぞれが得意分野の原稿を担当。保護者の意識や地域での認識も変えていく必要があるため、大学の教授、福祉事業所のスタッフ、保護者などそれぞれの立場からの意見や現場の声を集めることになった。

3.総務省の事業採択を受け、製本・送付へ

総務省の「主権者教育」優良事例普及推進事業の採択を受け、手引きの印刷・製本を行い、全国へ送付した。製作委員会のメンバーは無償で参加。熱い思いをもった協力者を集めることも重要だ。

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