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【セミナーレポート】令和5年度予算×DX/Day2

住民の「生活の質」と「満足度」の向上を目指し、いつ、どのようなサービスを、どういった形で取り入れるのかの判断が、各自治体に求められています。特に「DX」は、国をあげての重要課題として、急速な導入と環境整備が進められています。ただ、導入・活用に関するコスト面の課題、自治体の現況に応じたDX手法の選択に関する課題などで、導入を踏みとどまっている自治体も少なくはないようです。

そこで、先進自治体がどのような施策を経てDX導入を実行したのか、サービス提供企業をどのように選定し付き合っていくのかといった、令和5年度の予算要求と施策に役立つ情報を、2日間にわたってお伝えします。

概要

■令和5年度予算×DX(Day2)
■実施日:9月22日(木)
■参加対象:自治体職員
■申込者数:268人
■プログラム
Program1
三条市のDXへの取組
Program2
LINE公式アカウントの最新活用事例
Program3
現場と連携したDXの進め方
 


三条市のDXへの取組

<講師>

新潟県三条市 市長
滝沢 亮 氏

プロフィール

平成21年11月 司法試験合格
平成24年1月 東京の外資系法律事務所で弁護士登録
平成30年4月 三条市に「ひめさゆり法律事務所」開設
令和2年11月 三条市長就任


「三条市のDXは『目的』ではなく『手段』」と、同市長の滝沢氏は強調する。「市民と職員の楽ちん化」を目指して同市が取り組んだ、チャットツールの活用や契約、支払事務の電子化、ノーコードツールの活用など様々なDX政策について、滝沢氏が紹介する。

DXによる職員の「楽ちん化」

まず、市役所職員の「楽ちん化」についてお話しします。1つ目の取り組みは、チャットツールの活用です。本市では「LINE WORKS」を、全職員対象に導入しました。

日常のコミュニケーションはもちろん、災害対応や新型コロナウイルスのワクチン接種に関するやりとりにも活用。市内の医療機関にアカウントとタブレットを付与し、医師とのやりとりもチャットツール上で行うようにしたことで、電話やFAXによる連絡が迅速化・効率化されました。

2つ目は電子契約です。すでに導入済みの自治体もあると思いますが、本市では、昨年4月、GMOグローバルサインの電子契約を導入しました。自治体では初導入だと聞いています。

契約書の印刷や製本、押印による時間コストに加え、収入印紙代や封筒代、切手代のなどの費用が削減できることが導入理由です。電子契約利用件数は、昨年度120件、今年度は4~8月までの5カ月間で285件です。本市役所が締結する契約が年間約2000件ですから、昨年は5%、今年は今のところ10%を超えました。

3つ目は、見積書等の押印廃止と電子メール提出です。これまでは紙に押印し、郵送や持参していたものを、PDFデータでメール送信でも受け付けできるようにしました。

4つ目は福祉関係です。ノーコードツール活用で外部機関との連携強化を図りました。高齢者支援や障害者支援、生活困窮者支援は、市役所の色々な課が担当することになります。また、それに関係する民間プレーヤーには社会福祉協議会、地域包括支援センター、各障害者施設など多様です。

これまでは電話、FAX、メールなど一方通行でのやりとりでしたが、今年度からキントーンを導入。支援対象者ごとにアカウントをつくり、それぞれの担当者が支援対象者の情報にアクセスし、書き込みして状況をアップデート・共有できる取り組みを始めました。

これにより、市役所職員も含めプレーヤー全員が、常に最新のアップデートされた情報をリアルタイムに共有することができ、やり取りするために、各担当者へ相談・連絡しなければいけなかった時間的ロスを減らすことができました。もちろん、どこがアクセス権を持っているかもしっかり提言し、セキュリティ情報管理はしっかりやっています。

市民の「楽ちん化」について

市民の皆様を楽ちんにするための取り組みについて紹介します。まず、マイナンバーカードです。本市は比較的早い時期からマイナンバーカードによる独自サービスを開始しました。次の7項目です。

① 証明書コンビニ交付(手数料割引あり) 
② 窓口支援 
③ 図書の貸出し
④ 選挙の投票所入場受付
⑤ 避難所の入退受付
⑥ 職員の出退勤管理
⑦ 民間優遇サービス

今年7月、建築家の隈研吾氏設計による新しい図書館がオープンしたのにあわせ、電子図書館も導入しました。図書館が遠くて行けない、仕事が忙しく夜遅いので行けないなどの方もいらっしゃいます。そうした市民向けのサービスです。

クラウドサービスを活用した小・中学校の欠席連絡も始めました。GIGAスクール構想整備事業と新型コロナ禍で、朝の体温を計るのにあわせてGoogleフォームを使い、登校・欠席、体調チェック項目を学校に連絡するような仕組みを入れております。

また、今年12月あたりを目途に、キャッシュレス決済可能な公共施設予約システムも導入予定です。流れとしては下記図の通りで、従来のインターネット予約だけではなく、料金支払いも済ませられるようにする計画です。

今後の取り組み計画について

今後、次の3つの取り組みを予定しています。

① 情報系庁内LANの無線化・デュアルディスプレイ整備(令和4年度中) ※本庁舎、支所 消防本部、公立保育所
② 市と病院、福祉施設等のコミュニケーションツール導入
③ クラウドサービスの利用拡大(文書同時編集、ストレージなど)

①は9月議会で承認がもらえたら進める予定で、就任後に知ったことですが、市役所内にWi-Fiが飛んでいないことにショックを受けました。まず、情報系庁内LANの無線化と、職員用にデュアルディスプレイ整備をして、仕事の効率を高めていきたいと思います。

②は災害時等に備え、病院のほか福祉施設、介護施設とも、LINE WORKS等のコミュニケーションツールを導入していきたいと思っています。

③について、具体的な話は全然決まっていないのですが、Googleドキュメント、スプレッドシート、マイクロソフトのTeamsのように、文書を同時編集するストレージなどのクラウド導入で、仕事の効率化を進めていきたいと思います。

以上のように本市のDXは、あくまでも手段であり目的ではありません。目的は"市民と職員の楽ちん化"をすることです。職員は、業務フローの変化に一時的に苦労すると思いますが、それに慣れれば、その後に楽ちん化がありますので、みんなで進めていきましょう。

LINE公式アカウントの最新活用事例

<講師>

プレイネクストラボ株式会社
執行役員 GovTech事業部管掌 宮本 敬済 氏

プロフィール

2006年よりソニーネットワークコミュニケーションズにて、サービス企画、事業企画、経営企画等に従事。2020年より現職。


全国の自治体でLINE公式アカウントの導入が進んでいるが、一方的な情報発信に留まっている自治体が多いのも現状。正しく活用することで友だち登録も増え、人口シェア50%を超える自治体もあらわれているという。広報、子育て、防災、観光、シティセールスなど、多くの分野の住民接点で効果を発揮する「LINE SMART CITY GovTechプログラム」の最新活用事例について、宮本氏が紹介する。

国内800超の自治体がLINEを活用中

弊社は、自治体が運営するLINE公式アカウントの導入や、運用支援を行っています。プライベートでLINEを使っている方も多いと思いますが、自治体で提供するサービスで使う場合、一般への浸透度合いが重要なポイントになります。浸透度の高いLINEを窓口にすることで、住民にとっては利便性が、行政にとっては効率化が両立するのです。

高い利用率の背景には、ここ数年で自治体のLINE公式アカウントの導入が非常に進んだことがあると思います。弊社調査ではこの春の時点で、全国で800を超える自治体が公式アカウントを開設・運営していることが分かっています。

弊社は、全国の自治体アカウント利用状況を把握するため、活用度合いの指標として「友だち登録数」を追っています。友だち登録数を人口で割った相対的な比率を、便宜的に人口のカバー率として調査しています。下図の右側にある表をご覧下さい。これは全国の市町村のアカウント調査で、人口のカバー率が高い順に並べています。

福岡市の115%を筆頭に、住民リーチ率の高いアカウントが並びます。これは数年見られる現象で、「なぜ友だち数がこんなに伸びるのか」という質問をいただきます。1位の福岡市の場合、先進的な市民サービス開発に取り組むためにLINE社と協定を結んでいますが、これは特殊な例だと思いますので、ほかの自治体でも再現性のある事例を紹介したいと思います。

こちらは、福岡県春日市による新型コロナワクチン接種予約の活用事例です。同市の公式アカウント開設直後の人口カバー率は10%台でしたが、ワクチン接種予約をLINEで行える仕組みを導入したところ徐々に伸び、どんどん拡大したという経緯があります。

同市はワクチン接種予約と並行して、住民サービスの機能も拡充しましたので、自治体の窓口として住民に一気に認知された成功例です。

ワクチン接種枠自体は、ほとんどの自治体でオンライン予約を行ったと思いますが、あえてLINEを活用した場合の長所が分かる、北海道滝上町の事例を紹介します。ワクチン接種予約のキャンセルが発生した場合に、余剰ワクチンを出さないために、希望者に対して即時にメッセージを配信しました。実際に大きな効果を上げました。

紹介したようなワクチン接種予約の取り組みは、LINEの公式アカウントを機能拡張をしています。LINEの公式アカウントだけでできる機能もありますが、その場合、全体のメッセージ配信や簡易な応答チャットに限られています。機能活用の図解は、こちらを参照してください。

機能拡張による行政サービス事例

機能拡張を行うことで、どんな行政サービスが展開できるかについて紹介します。弊社のサービスをご利用いただいている岐阜県庁、京都府木津川市では、避難警報が発信された場合、LINEでも即座に警報を発信するという取り組みを行っております。

同じ防災でも、警報ではなく避難誘導の活用事例もあります。福岡県志免町では、今年の台風11号襲来時、LINEアカウントから「災害時モード」に切り替えて住民に避難所への経路を誘導する情報提供が行われました。これは緊急時用のメニューを用意しておくことができる機能を活用しました。詳細は下図をご覧ください。

山形市では、児童遊戯施設の密回避のためのLINE予約を導入しました。LINEを活用するため、初回のユーザー登録やログインといった手間のかかるプロセスが省略されます。若い母親世代のLINE利用率が100%近いという状況もあり、本当にスムーズに導入された良い事例だったと思います。

そのほか、鳥取市ではごみ収集日リマインドの活用で、ごみの出し忘れ防止やマナー向上にも役だっていると聞きます。北海道千歳市では、キャンペーンに活用しています。地元の事業者と連携したプレゼントキャンペーンや、チャットボットでクーポン配布を実施し、地域振興と友だち増に大きな成果を上げました。また、長崎県平戸市や佐賀県唐津市のように、LINEの公式アカウントを活用してデジタル版のガイドブックをつくる自治体も増えています。

LINEによる電子申請サービスも間もなくリリース

様々な活用事例を紹介しましたが、弊社ではLINEの公式アカウントを住民の窓口、住民の接点として、より効果的に活用いただくため、電子申請サービスを新たに用意しております。こちらは来年1月にリリース予定で準備を進めているものです。

政府が推進するマイナンバーカードを活用し、公的個人認証ができる機能を用意しています。これにより、マイナンバーカードを読み取るためだけにアプリのインストールをする必要がなくなります。本人確認が求められるような行政手続も含めて、LINEの公式アカウントで完結できるというメリットがあります。

今回、紹介しました事例は、弊社が持っているストックのほんの一部です。様々な活用を集めた事例集を用意していますので、ご希望いただければ提供します。「スマート公共ラボ」で、ぜひ検索ください。

現場と連携したDXの進め方

<講師>

茨城県つくば市 政策イノベーション部情報政策課 係長
総務省地域情報化アドバイザー
三輪 修平 氏

プロフィール

2007年入庁。課税部門と情報部門を行き来し、2022年より組織改編により現職。2017年度のRPAの共同研究を担当して以降、ICTを中心とした庁内の業務改善に携わるほか、170以上の国と自治体等の視察対応、40回以上の講演を通じて経験を伝えている。


「自治体DX全体手順書」通りにDX推進担当部門を設置し、全体方針を策定した上で研修等を行っていても、現場の機運醸成にはなかなか至らない…といった悩みを抱えている自治体が、少なくないのではないだろうか。総務省地域情報化アドバイザーも兼務するつくば市の三輪さんが、同市でのRPA導入を例に現場との関わり方について伝える。

DX推進部署と現場の役割

本市のRPA導入は、窓口・税務部門の実証実験からスタートし、今年は100部署中40部署がAI-OCRあるいはRPAを使うようになりました。ようやく広がってきた感じがしています。推進部署は情報政策課ですが、シナリオをつくる場所は現場の監督部署にしています。我々は初期導入支援や研修、予算獲得などを行い、初期段階および急を要するものなどをサポートする程度で、基本的には現場の職員につくってもらっています。

DX推進部署が、どのような役割を果たすべきかについて話をします。一般的なDXの推進体制は、“DX推進っぽい”部署にDX推進部署の役割を持たせるケースが多いようです。RPAにしろ何にしろ、きっかけは現場で、情報関連の部署が推進部署になってきます。しかしDXの主役は、推進部署ではなく現場の原課です。ただ、ここが市役所の辛いところで、情報部門はどうしても在籍が長くなりがちで、現場の知識が乏しい方が多いのが実情です。

その方たちも、ちゃんと学んではいるのですが、実際にやってる人たちには全く敵いません。したがって、現場のことをよく知っている、現場の方に任せるのが一番良いということが言えるわけです。そのため本市役所ではRPAの作成に関して、現場に任せています。

RPA導入を機にDX推進を図る

私は地域情報化アドバイザーということで、色々な市町村の方とお話をする機会があります。RPAを導入したものの「活用」が進んでいないケースが多いようです。現場の方に聞くと、1から10まで自動化しようとして、うまくいかないとのこと。一方で推進部門の方は、自分たちが介入した部署しか使ってもらえないと言います。推進部門の人材に問題があるという印象は受けないですし、むしろ導入にとても積極的なイメージがあります。では何故うまく活用できないのか。

1つは、推進部門が最後までリードしなければいけないという強い意識が問題です。BPRであれ何であれ、全庁的な導入を行うべきものを一部の職員だけで行うと、マンパワーが足りません。将来的に継続していかねばならないところを、情報部門だけが頑張るのは無理があるのです。

また、現場の職員に主体性を意識させないと、なかなか進みません。現場は、市民と1番触れ合っているので、どこが問題でどこが大変かを1番分かっているはずです。情報部門といえども専門職採用でなければ、たまたま異動しただけの行政職です。情報部門の行政職ができる程度のことは、ほかの行政職でもできるわけです。そういった観点で、現場で進めることが望ましい理由です。

RPA導入にあたって、まず、RPA対象業務の洗い出しが必要になります。忙しい部署ほど効果があるだろうと考え、推進部門が洗い出しのための照会文を現場に送るケースが多いですが、現場にとっては、ただでさえ忙しい中、余計な業務が増えます。時間外勤務までしたにも関わらず、労力に見合うほどの成果はなかったという経験から、不信感を持っている現場職員は多いと思います。

そのギャップを理解する必要があります。そのためには、情報部門が「良い営業」をしていくことが大切です。せめて、自治体界隈の困り事くらいは事前にリサーチし、どのような困り事にどう対応するのかを伝えてほしいです。これの嬉しい営業を、推進部門が現場に向けてやっていくってことが大事です。

“嬉しい営業”のための情報収集

“嬉しい営業”を行うための方法の1つとして、職員向けアンケートによるリサーチがあります。その際、「何か面倒な仕事はありませんか?」などと尋ねるべきです。RPAという言葉を使うと、「この仕事はRPAではできません」と言われます。RPAでできるかどうかは、現場職員ではなく推進部門が判断すべきで、その段階で推進部門が行うべき営業は、事例を出して伝えることです。

導入前後で職員の負担がどう減り、市民サービスがどう変わるのかを具体的に示してみたり、実際に体験してもらい、諦めていたことでも可能になるのではないかと感じさせてみたりすることです。また、推進部門が全部やってあげるのではなく、「これができるのなら、ほかもできそうじゃないですか」と、現場の主体的な発想に委ねるわけです。RPAやAI-OCRのような効果の分かりやすいものは、体験してもらって「自分たちでやりたい」と言ってもらうことが大切です。

新しい情報を得るには、繋がりが大切です。自治体職員の「困り事」は、民間企業にとってはとても価値があります。自治体側のリアルな困り事は、企業だけでは絶対に実証フィールドを作れません。そこは、我々自治体職員の有利な点ということを意識してください。その上で民間企業と仲良くなるのです。

もちろん、公平公正には留意しなければいけないですし、入札価格を教えるなど法に触れることは当然やってはいけません。しかし、お互いにWin-Winの関係を築くことが大切です。

 

お問い合わせ

株式会社ジチタイワークス

TEL:092-716-1480
E-mail:seminar@jichitai.works

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