ジチタイワークス

福岡県嘉麻市

バス利用者数が約1.7倍に!ハイブリッド運行で交通空白地をゼロへ。

平成18年に1市3町が合併して誕生した嘉麻市。かつては採炭地として発展した地域だが、現在は少子高齢化などの様々な理由から交通課題に直面しているという。

そんな中、過疎地域で採用実績の多いデマンド運行とは一線を画した“ハイブリッド型デマンド運行バス”の導入で、市内の交通空白地域の解消を目指している。

※下記はジチタイワークスVol.22(2022年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

交通課題の解決に重要なのは地道な対話と利用者分析。

同市では合併以降、主な交通手段である市バスが旧市町の運行形態を踏襲したまま運行していた。そのため、運行路線やダイヤが住民ニーズに即さず、公共交通人口カバー率は全体の74%にとどまっていたという。

柴田さんは「市バスの全体的な見直しが急務でした。以前より、交通空白地域の解消に向けて、交通事業に市が携わることは議論されていました。しかし、当時は地元のバス会社やタクシー会社などからの反発も強かった時代。再編を進めるには根気強く対話をする必要がありました」と話す。

こうして平成26年から互いに共存していくことを前提に協議し、徐々に理解を獲得。平成29年に「嘉麻市地域公共交通網形成計画」を策定。翌30年には、路線構築において幹線と枝線の役割を明確にして、予約制で走るデマンド運行の導入も視野に入れた運行計画を立てた。

“デマンド運行バス”の導入に向けては、旧態のバス乗降者数を分析した結果、午前と午後で利用者数に隔たりがあることが判明。「朝から昼にかけては利用者が多く、一方で午後は利用者がいない時間帯もありました。デマンド運行の場合、利用者が重なると希望のある場所へあちこち移動しなければなりません。まとまった利用が想定される時間帯は定時運行でなければ非効率だと感じていました」。

そこで、定時定路線運行とデマンド運行を同一車両で時間帯によって切り替える“ハイブリッド型デマンド運行”を検討したという。

ルール変更の不安を払しょくし利便性と利用者数を向上!

令和2年度からの本格始動にあたり、まずは市の中央に「嘉麻市総合バスステーション」を整備。ここを乗り継ぎ拠点として、民間バス路線と市バス幹線路線が相互に乗り入れて各地へ移動できるように、路線が田の字を描く形で構築した。それでも残る交通空白地域は、枝線路線とデマンド運行とでカバーしている。

デマンド運行バスは、電話またはスマホアプリから乗車予約が可能で、旧市町単位の区域内であれば、自宅付近から病院やスーパーなど、利用者の希望する場所へどこでも移動ができる。料金については、タクシーの初乗り運賃を基準に半額程度で設定した。ただ、滑り出しは順調ではなく、住民の理解を得るまでには障壁もあったという。

「従来の運行形態でなくなることに対し、複数回の説明会や出前講座を実施しました。しかし、いざ運用が始まると“予約方法が分からない” “バスの行き先が分からない”といった、問い合わせや苦情の電話が鳴りやまない状態でした。生活に密着し、習慣化された公共交通ルールが変化することに戸惑いが大きかったようです」と村上さん。

その後も広報紙やSNSなどを用いて、周知活動を手厚く実施。こうしてデマンド運行の利用者数は、令和2年度の5,952人から翌年度には1万114人にまで増加。「ようやく新形態への理解が浸透したようです」。

想定外の利用方法も生まれ、誰もが使いやすい公共交通へ。

市町をまたぐ移動には、バスステーション以外に多数の乗り継ぎポイントを設置(上図参照)。利便性を考え、デマンド運行バスから定時定路線バスへの乗り継ぎも可能としている。さらに、元は旧態のバス利用者層を踏まえ高齢者の利用を想定していたが、思いがけないニーズも発見したという。

「当初は考えつかなかった子育て世帯の利用が見られるようになりました。学童クラブや習い事などへの送迎に親和性が高いようです。デマンド運行バスであれば、保護者が予約して児童が単独で乗車するという方法で、便利かつ安全に移動できます。多くの住民にとって利用しやすいシステムになったと感じます」と松岡さん。

令和3年度に実施した利用者アンケートでは、約7割の人が“便利”と回答するなど、交通空白地域の解消という課題に対し、一定の成果が見え始めた。一方で、運転手の高齢化や担い手不足、人口減少による利用者減は免れず、このままでは維持が困難になる未来は想像に難くない。「今後は、さらなる利用促進はもちろん、自動運転やMaaSによる運行の効率化も検討する必要があるでしょう。持続可能な公共交通のために整備を続けます」。

嘉麻市 地域活性推進課
左:参事 柴田 英樹(しばた ひでき)さん
中央:課長補佐 松岡 守之(まつおか もりゆき)さん
右:主任 村上 一馬(むらかみ かずま)さん

利用状況の変化によって臨機応変に対応できる点も、ハイブリッド運行のメリット。今後は利用状況に応じて定時定路線とデマンド運行の配分を変えるなど、利便性を高める取り組みを続けていきます。

課題解決のヒント&アイデア

1.民間事業者の利益を守り、密な対話で納得と理解を得る

事業者にとって市の参入は死活問題となるが、地域のためには協働が不可欠。合同会議による情報共有と、デマンド運行範囲を合併前の旧市町単位にして事業者との共存を図ることで、より円滑な導入につなげた。

2.利用実態の把握と分析で住民ニーズに即した計画を立案

デマンド運行バスの導入検討段階で、運用の効率化を図るための利用者調査や、他自治体からの情報収集を実施。午前と午後でニーズに差があることを突き止め、これまでの定時定路線運行も活かした。

3.説明会や出前講座に加えて公式LINEやTwitterも駆使

住民理解を得るため、説明会や出前講座を実施。高齢者などの想定利用者層に対しては対面での説明を徹底した。一方、公式LINEやTwitterでの情報発信も行ったことから、子育て世代への認知も進んだ。

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