ジチタイワークス

公務員が押さえておきたい「仕事への向き合い方」とは?

「仕事にやりがいを感じられない」「これからのキャリアが思い描けない」......。
自治体で働く中で、誰もが一度は“キャリアデザイン”で悩んだことがあるだろう。

本企画では、静岡県庁職員や藤枝市副市長などのキャリアを積み、現在は藤枝市理事兼人財育成センター長を務める山梨秀樹さんに、「公務員のキャリアデザイン」について執筆していただく。
これまでジチタイワークスWEBでも、様々な自治体職員の方に仕事観や経験について語っていただいたが、本企画ではキャリアデザインについての全体像を俯瞰して考えていく。

第4回目のテーマは「仕事への向き合い方」。
山梨さんは「仕事に常時、全力で向き合い、没入するだけではいけない」と述べている。それでは早速、公務員としての仕事への向き合い方を考えていこう。

仕事を冷静に見つめ、遠くを眺める

仕事に常時、全力で向き合い、没入することが公務員の心掛けだと考えている人は多いでしょう。

でも私は、それだけではいけないと思っています。

平時でも緊急時でも、自分の仕事をいったん突き放して眺める姿勢は必要です。これを若い担当者のころから会得しておくべきだと思います。

仕事に没頭しても、埋没はしない。全身どっぷりと仕事に漬かり、溺れてしまわないことです。

自分とその仕事を時折、客観的に見つめる。仕事に没頭する自分と、ふと立ち止まり、高い場所から仕事と自分を見つめるもう1人の自分。この「2つの自分」を持ちましょう。

この仕事が具体的に人々にどう役立っているのか、目的と社会的な意味は何なのかを、自分の背後や頭上から冷静に見渡すのです。

すると、今の進め方が仕事の本来目的や意味と合致しているか、枝葉末節にとらわれていないかなど、仕事の進め方の良し悪しが見えてきます。これが「俯瞰力」です。

ここから、今の仕事だけでなく、行政全体を眺望する姿勢も生まれます。これは、あなたの公務員としての立ち姿と、それに向けたキャリアを形成する上で大切な要素です。

 

 

仕事に向き合う「自我」を持つ

私は仕事の中軸に「自我」、つまり具体的な自分の「思い」を強く置くようにしています。

仕事の仕方も中身も、最後は自分が決める。その信念を持っていると、今の仕事でやるべきことと予測される効果が、くっきりと見えてきます。仕事に溺れて流されることなく、仕事の筋道が浮かんできます。

追い詰められ、行き詰まった時こそ自分を信用し、仕事の中に自我を持つことで、自分の感性が磨かれ、思考が整理されて、仕事がぶれなくなります。

それで、作業の優先順位も決められます。するとストレスが減り、仕事の効率が上がってくるのです。

その結果、思い込みや判断ミスもなく実績が出せるようになります。

職務経験を通じて進める「自我」の形成は、効率的で斬新な仕事の遂行に役立ちます。

それは、年とともに磨きがかかってきます。上司と相談しながら、仲間と共に少しずつ、誰も考えつかない新たな戦略が打ち出せるようになります。それが自分のほのかな自信とやりがい、プライドにもつながるのです。

 

 

自我を失わない働き方とは?

例えば、次のようなことです。

 

◇思っていることを周囲に語ってみよう

先輩や上司の考えに押されて主張がしにくいと感じても、たまには自らの考えや腑に落ちない点などは、はっきりと言ってみることです。いつも我慢して、酒や娯楽で紛らわせる必要はありません。

公務員としてこれをしたい、あれをやってみたいという思いを募らせ、語ることは、あなたのキャリア形成に向けて非常に大切です。

相手や周囲の人々の顔色を窺うだけでなく、自分の仕事のスタイルや考え方を打ち出す機会を逃さないことです。

ただし、主張だけで実績が伴わないと信用されませんから、日々の業務を怠らずに進めながら、その機会を待ちます。

 

◇共感しても、流されない

様々なことに共感しても、それに流されないことです。その瞬間から、あなた自身の行政判断が狂い始めるからです。

例えば生活保護の仕事でケースワーカーをしていると、人々の家庭環境の悪化や暮らしの窮状を、毎日目の当たりにして困惑します。

非常に厳しい状況も見聞きするわけですが、その事象だけにとらわれ、流されてはいけません。

行政サービスには全て一定の基準や条件があり、役所ができることと、人々にまず自分で試みていただくことがあります。

どんなケースも冷静に受け止め、相手とともに解決の可能性を探る。それで今後の段取りと具体的な手続きが見えてきます。

仕事で公金を投じる以上、投じる理由を担当者として的確に見極めるのも、大切な公務といえます。

 

 

追い詰められたら、止まって小休止!

仕事に行き詰まり、あるいは追い詰められたとき、あなたはどうしていますか?

仕事に向けた自我を持つことは、自分自身に冷静に向き合うことでもあります。追い込まれ、こなしきれないなと感じたら、いったん動きを止めて小休止することも大事です。

補助金の申請期限が近い、今日中に予算調書を財政課に出さなければならない、イベント開催に向けて関係団体と調整ができていない、新たな事業企画の議論が進まず骨組みができていない、などなど、追い込まれたときこそ深呼吸し、ちょっと歩みを止めてみましょう

いったん全ての思考を停止し、あなたの仕事全体を静かに見渡してください。

今日できなくてもいい仕事があるはずです。相手に連絡を取り、期限の猶予が本当にないかを確認したり、素案の形で相手に提出し資料は後日にしたり、という調整ができないか。そしてあとは明日に。仕切り直しをすればいいのです。

あなたは最近、空を眺めていますか?家族や友人と話していますか?あごが出て背が曲がり、前のめりになった自分の姿に気づきませんか?

そんなときこそ、脳内をいったん白紙にする「停止の段取り」です。

ごちゃごちゃした頭の中を空っぽにする一時的な「忘却」は逃避ではなく、自分を取り戻すための創造的な整理です。戦略的に立ち止まり、次のアクションに向けて仕切り直します。

少し落ち着いたら、冷静に優先順位をつけます。どうしても今日中にしなければならない仕事を1つだけ選び、そこに集中します。

あなたの生産性を落とすストレスの大半は、自らつくり出しているものであることを知りましょう。

また、追い詰められ、このままでは精神的にまずいな、という限界の感触も、自分で覚えて知っておく必要があります。経験的に会得する自分の「限界値」です。

私は性根が不真面目なせいか、この感覚を若い頃から会得しています。実際、何度か追い詰められた経験があるからです。

仕事に没頭しても、身体で覚えた限界値に達する前に、歩みを止めてみる。倒れるまで自分を追い詰めない。

仕切り直しをした方が、仕事のスピードが保たれ、効率もいいのです。
 

 

追い詰められない働き方とは?

追い詰められないためには、一定の心掛けや工夫も必要です。例えば、次のようなことです。

 

◇自分のハードルを、高くし過ぎない

使命感、責任感が強くて真面目な人ほど、自らの理想をもとに仕事のハードルを上げ、自分自身を追い込んでしまいます。

自分を追い詰めるのは上司でも周囲でもなく、実はあなた自身なのです。

そしてそれは、あなたが無為に苦しむ分だけ、あなたの仕事の効率や生産性を下げていきます。だから自分の理想だけでハードルを上げないことです

誰からも要求されていないのに、1人で目標をかさ上げして抱え込み、馬車をがむしゃらに走らせ続けると、道端の小石にさえ、あっさりつまずいて転ぶことがあります。

それではあなたの努力も時間ももったいないでしょう。

 

◇自分自身の時間と睡眠をしっかり取る!

高い集中力で仕事を進めるコツは、何といっても毎日よく眠ることです。

毎日長時間勤務が続き、寝不足が重なれば、どんなに優秀な人でも午前中は大して仕事になりません。

私の経験でも、長期間延々と続く超過勤務の業務効率の悪さはかなりのものです。発想力が低下し、明るい思考もできなくなり、生産性が大きく下がります。

多忙な中でも早く帰宅して夕食を楽しみ、ぐっすりと眠る習慣を、極力つくりましょう。せめて1週間に1日でも、夜たっぷり眠る日を平日のどこかにつくります。忙しくても、意識して趣味などのリラックスする時間や睡眠を確保すべきです

これは職場経営の面では管理職のタイムマネジメントの基本でもあります

 

以上をまとめると、次のようになります。

 


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【連載】「公務員のキャリアデザイン」を学ぶ

「仕事にやりがいを感じられない」「これからのキャリアが思い描けない」......。自治体で働く中で、誰もが一度は“キャリアデザイン”で悩んだことがあるだろう。本企画では、静岡県庁職員や藤枝市副市長などのキャリアを積み、現在は藤枝市理事兼人財育成センター長を務める山梨秀樹さんに、「公務員のキャリアデザイン」について執筆していただく。


プロフィール

山梨 秀樹(やまなし ひでき)さん

昭和33年11月生まれ。昭和58年3月京都大学経済学部を卒業し、同年4月、静岡県庁に入庁。総務部市町村課、旧総理府(現内閣府)地方分権推進委員会事務局、静岡県総務部合併支援室などを経て、平成20年10月藤枝市行財政改革担当理事、平成24年8月同市副市長、平成28年4月静岡県知事公室長、平成29年1月静岡県理事。平成31年3月に同県を定年退職し、同年4月から藤枝市理事。令和2年4月から同市人財育成センター長を兼ね、現在に至る。

著書に「伝えたいことが相手に届く!公務員の言葉力」(ぎょうせい)。ほかに寄稿、論文、大学ほかでの講義、講演など。

著書

伝えたいことが相手に届く!公務員の言葉力』(ぎょうせい)

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