シティプロモーションは、特定の部署や職員個人の努力で推進できるものではなく、庁内の連携と地域の協力が必要だ。中井町では庁内全部署に加え町民も巻き込みつつ、そこに独自の“アクションプラン”という仕組みを重ねることで、地元愛の強化とまちのブランド力向上に努めているという。
※下記はジチタイワークスVol.21(2022年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
人口減少からの脱却を目指し庁内の意識統一から始める。
国内の人口減少が加速しているが、その傾向が特に強いのは地方の市町村だろう。同町も例外ではなく、平成7年の1万398人をピークに人口カーブは下降線をたどりはじめ、令和4年6月1日時点では約9,100人となっている。そうした背景もあり、平成27年から本格的な人口減少対策に着手。その施策の柱としたのが、まちの認知獲得と愛着心を醸成させるシティプロモーションだった。
まずは庁内の理解を深めるべく、有識者を招き“シティプロモーションとは何か”を学ぶ講演を開催。その後、各課から募った有志のグループで議論を重ねたという。その目的について黒田さんは「留意したのは、取り組みが一部の部署に限定されたものにならないよう、全庁で認識を統一することでした」と話す。
グループを中心に、職員アンケートやワークショップを実施し、“まちの魅力”を洗い出していく中、シティプロモーションの目指す方向性も一致。職員の参画意識も高まったという。それを見極めた上で、次のステップへと駒を進めた。
試行錯誤の末に見出した手法の“アクションプラン”とは?
同町のシティプロモーションは、町民主体が前提。そこで平成28年から町民向けのワークショップを開催し、参加者の意見を取り入れた、まちオリジナルのテーマソングや横断幕・懸垂幕などを制作した。また、同町を象徴する言葉として「里都(さと)まち」を商標登録。「自然が豊かで、都心へのアクセスも良好。田舎と都会の良さが調和したイメージをこの言葉に込めました」。
横断幕と懸垂幕は町内外9カ所に10枚掲出されている。
取り組みを進めていく中、令和元年度に誕生したのが“アクションプラン”だった。これは各課の新規・既存事業に、シティプロモーションにつながる要素を加え再構成する計画。
例えば、産業振興課がこれまで実施していた「里都まちブランド推進事業」では、従来の販売戦略に加え、ブランド認証商品を食べた感想をはがき・SNSで投稿した人に対して、抽選で“ブランド認証商品詰め合わせ”をプレゼント。本プランでは、同品の売り上げ増と、さらなる認知拡大を図るねらいがある。これらの進捗管理は企画課が務め、実績整理も行っているという。
さらに、活動の前後に町民アンケートを実施し、まちの魅力の推奨意欲を中井町版「NPS®(ネット・プロモーター・スコア)※」で測定。効果の可視化により、実効性の高い運用にしているという。「進捗状況は各課と年間の要所で確認し、知恵を出し合いながら形にしています。そうして改善したものを、翌年度の目標に組み込んでいるのです」。
この流れのもと、令和3年度には同町を好きな町民による「なかいファンミーティング」も開催。そこで出たアイデアから、原動機付自転車の“オリジナルナンバープレート”を制作。さらに、車に子どもが乗っていることを示す「CHILD IN CAR マグネット」の配布なども行った。「つけて走ってもらうことで、自然とまちのプロモーションにつながっています」。
※町民のまちに対する誇りや愛着、推奨意欲などを測る指標NPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です
活動の前後で効果を見える化する
町民アンケートなどで、まちへの愛着度・信頼度を測る指標「NPS®」を採用。スコアの計算方法は、推奨意欲の高い(8~10 )割合から推奨意欲の低い(1~4)割合を差し引くことで計算される。
効果の検証事例
子育て世代のまちへの愛着心向上などを目的に、小学生までの子どもがいる世帯へ車に貼るマグネットを配布。その際、まちの推奨意欲などを測定するアンケートを実施した。
※令和3年10月~令和4年3月の期間で64世帯に配布
内外からの評価をエネルギーにまちに“誇り”と“愛着”をもつ。
アクションプランの活用も2年目に入ると、原課が自主的にシティプロモーションを進める風潮も生まれてきた。また、町内外からは“まちの良さを改めて感じた” “横断幕がユニークでいい”といった声も届いているそう。こうした効果に加え、同町の戦略が評価され、「シティプロモーションアワード2021」の金賞を受賞。黒田さんは「これまでの取り組みが間違っていなかったことを実感できました」と目を細める。
同町はこの受賞を糧にして、新しい取り組みにも挑戦を続けている。その一例が、サンリオの人気キャラクター「シナモロール」とのコラボだ。「令和4年度より『なかい応援大使』に就任いただきました。今後はイベントへの参加や、オリジナルグッズの活用などで広くPRしていきたいと考えています」。
また、新たな知見の吸収も忘れない。「他自治体には先進的なシティプロモーションを行っているところがあります。それらの手法を学びつつ、まちの魅力にさらに磨きをかけたいと思います」。
平成27年度に始まり、8年目を迎えた同町の取り組み。まちへの“誇り”と“愛着”を育みながら、どんな“里都まち”がつくられていくのか、今後も注目していきたい。
中井町 企画課 主任主事
黒田 知希(くろだ ともき)さん
今後力を入れたい部分は、自発的にプロモーションを行う主体や機会を増やしていくことです。実はまちが好きでその良さを広めたい人がもつ、思いやスキルを発揮できる場などをつくっていきます。
課題解決のヒント&アイデア
1.効果の“数値化・見える化”による意識向上
取り組みにおける効果を数値化し、前後の比較から根拠づけを行うことで成果を見える化。その結果として、庁内や町民の理解と納得を得ることができ、自発的な行動へつながるきっかけに。
2.町民が主体となるための舞台ときっかけづくり
シティプロモーションは町民の協力も必要。ワークショップやファンミーティングなど参画できる環境をつくり、そこに集まった“思い”を形にすることで、次のアイデアが誘発されていく。
3.既存事業に+αでシティプロモーションにつなげる
全庁で取り組むとはいえ、全ての部署が新しい施策に着手するのは難しい。だからこそ、既存事業に新たな視点からシティプロモーションに役立つ工夫を施すだけでも、まちの魅力は発信できる。