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新人公務員が知っておきたい文書管理のポイントは?

「現場に配属されたが、研修で学んだこととは勝手が違う…」「実務と並行しているので、なかなかゆっくりは先輩に聞けない…」

本企画では、元自治体職員で、現在はオフィス業務効率化コンサルタントとしても活躍している長野ゆかさんに、「新採1年目が学ぶこと」について執筆いただいた。

最終回となる第3回目は、新採公務員が知っておきたい「文書管理」について。
「職場全体で文書管理の問題を抱えているとすれば、それは職員個人の意識のせいではなく仕組みがないことが問題」と長野さん。具体的にはどういうことなのだろうか?以下見ていこう。

新採職員の皆さん、入庁から3カ月がたちましたね。4月に比べれば、業務量・知識量も増え、自分一人で完結できる仕事が増えてきたことでしょう。そして仕事量に比例して書類量も増えてきたころではないでしょうか。

公務員の仕事は、文書に始まり文書に終わると言われております。仕事をすればするほど必然的に文書が増えていくものですが、机は配属された直後のような広い作業スペースを保つことができているでしょうか?

 

机の端に書類が積まれだしていませんか?

もし、今、書類が積まれていれば、3カ月後に倍となり、来年の3月には現在の4倍になっている可能性があります。

何もしないままでは、机の上は、これからどんどんひどくなると、考えていただいて間違いありません。そして書類が増えるほど探す時間が増え、業務上の非効率さも増していく。その状態は、住民から見たときに、信頼を得られるような状態ではありませんよね。

「個人情報を預けているのに心配。いつか紛失すると思う」
「こんな状態なら紛失のニュースを見ても驚かない」
「役所の窓側にモノが乱雑に山積みされていて不快」
「乱雑に積まれている段ボールが見苦しい、見えるところくらい、片づけたらどうか」
「書類を机に山積みにして、仕事をした気になっている。効率が悪いように見える」

これは職場環境に対する住民からの実際の声です。

 

職場環境も、身だしなみの1つと考える

マナーでいう見た目は、その人の仕事への姿勢をあらわすものです。机の状態や職場の状態も同じです。「この書類はここに置いておこう・捨てよう・いつかいる・今度片づけよう…」こうした自分自身の小さな判断と決断の結果、つまり整理の結果が今の机の状態。

文書管理という1つの業務に対するその人の意識や姿勢が周囲から見られていると考えましょう。

 

文書管理の正解

決して、文書管理をないがしろにしているわけではありませんよね。優先順位で見れば期限が迫るほかの業務が優先になることは、やむを得ないことです。ほかにも、収めるスペースがない、戻す場所が分からない、良い管理方法が分からないなど、実は個人の意識や姿勢以前に問題が多々あります。

そこで私が提案しているのが、ファイリングシステムという組織としての文書管理の手法です。発生から処分まで、一連の流れを管理する仕組みです。この中で1つ、最も簡単で自分だけでもすぐ実施できる収納方法・用具についてご紹介します。

 

個別フォルダを利用する

「年度末ファイリング作業ですっきり&新年度の業務書類・管理をスムーズに」

この記事の中でもご紹介しているので、ぜひご覧ください。

この個別フォルダ。公文書管理法の実務指針である行政文書管理ガイドラインでも標準的な管理方法として明記されていますので、導入されている自治体も多いと思います。まずは個別フォルダの準備してください。10冊あれば10cm=約1,000枚分の書類が収納できます。

 

簿冊は空っぽでも場所をとる

役職・部署問わず利用できる、基本の文書管理・収納技術です。新規職員のうちから利用していれば、これから先ずっと活用できます。分厚い背表紙の簿冊を先に何冊も準備する方法は今のうちからやめておきましょう。簿冊は空っぽでも、背表紙の分だけスペースを無駄に占有します。パンパンに太った状態だと金具をあけ、処分対象書類だけ取り出さなければいけないのが面倒で綴じたらそのまま。コレクションのようにずっとため続けることになります。

一方で個別フォルダは、書類の量だけしかスペースを使いません。不要になった書類も取り出しやすく、書類をため込みにくい。ほかにも多々メリットはありますが、これだけでも大きな差が出ます。今だけの解決ではなく、この先の書類管理をイメージしてみてください。

 

仕組みがあれば新人でも、管理ができる

今、職場全体で文書管理の問題を抱えているなら、それは各職員個人の意識のせいではなく、仕組みがないことが問題でしょう。

例えば「決裁後の書類は、ここに置く。2年経てば書庫へ移動してスペースを空ける。収納用品は個別フォルダを使う、簿冊は使わない」など、文書管理がきちんと行われている自治体ではこうした規程やルール・マニュアルがあり、新人研修や配属された部署で、このような内容で教えられます。もちろん書類を置くスペースがある。するとこれが当たり前になるため、新人であっても、現在も机の上の書類はゼロです。

 

手元から私物化を減らすコツ

上記のようなルールがなく、手元に書類があふれている方にアドバイスできるもう1つの方法は「原本を共有すること」です。原本がどこに保管されているのか分からない書類ほど、各自がコピーを持ってしまいます。

具体的には1つの業務が完結した際に、業務の流れ順や種類順など、引き継ぎを意識したタイトルにつけ直し、文書をまとめ配列を行います。完成したら、自分の机の周辺に抱え込まず、共有の棚に置く。

こうすることで自分が担当し、抱えていた書類は「所属の共有の情報資産」とし、個人持ちをゼロに。強引な例かもしれませんが、とにかく私物化せずにすむ、情報としていつでもだれでも活用できるように置くことで、自分も必要なときに取り出せ、かつ自分のスペースからは手放せるという状態が作れます。

こうした仕組みを、部分的に取り入れ、改善できるところから進めてみてください。

 

完璧な仕組みは存在する

上記の運用を組織的に全ての文書で行う、そして行政文書ファイル管理簿(=ファイル基準表)とともに管理をする。すると自分の担当書類は10秒以内、ほかの担当者の書類が30秒以内で取り出せる。あとは維持管理だけしっかりと行えば、何年たっても一切リバウンドしない。自分のスペースは確保されて、文書の情報共有が行われる。これが行政文書管理ガイドラインに沿って自治体で導入されているファイリングシステムです。

まずは、このような完璧といえる書類の管理の状態を実現する方法があり、維持管理している自治体があることを、新採の皆さんに知っていただきたいです。書類整理=解決方法がないととらえていると、そもそも解決用法を調べようと思いませんよね。こんな仕組みがあることだけでも知っていれば、個人としても学び、自分からだけでも実践することができます。

 

文書管理の責任

書類管理は、効率化をはじめとした業務改善スキルとしての認識が強く、民間はもちろん、国や自治体からの研修のご依頼のテーマも「時短、業務効率アップのための書類の片づけ」が多いです。

しかし、文書管理はそもそも責務であることが、公文書管理法でも解説されています。逆にいえば、文書管理を行うことがどれだけ面倒であっても、きちんと行わなければいけないのです。

 

私物ではなく公文書管理の意識を

以前「文書管理システムで管理しているのが公文書。棚に置いている。机のまわりや引き出しの中は各自の私物書類なので公文書ではない」という認識の自治体の管理職の方がいらっしゃり驚きました。この職場は簿冊の上に簿冊をつみあげ、ファイル用品で周囲の職員の顔が見えない状況でした。

皆さんが日々扱っている書類は公文書です。様々な解釈はありますが、ちょっとした自分だけのマニュアル、メモも組織として共用の可能性はゼロではないため、「全てが公文書」と考えていただく方が無難です。もし「私物だから許される」と考えているなら「全部公文書、住民からの情報資産を預かっている」ととらえてください。この意識が変わるだけでも、必ず業務上の優先順位が上がり、今より改善することでしょう。

 


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プロフィール

株式会社オフィスミカサ 代表取締役
長野 ゆか(ながの・ゆか)

大阪府生まれ、大阪府内中核市にて情報システム部門所属、15年勤続を経て独立。
現在は、文書(書類・データ)ファイリングを中心に、オフィスの環境改善・効率化などを指導。1か月で5.2トンの削減の実施。各社企業理念に沿った環境改善→業務改善(モノからコトへ)を促し、全体の業務効率アップを行う。
研修講師としては、オフィス向け(環境改善、接遇、ビジネスメール)から、家庭向け(ホームファイリング®・子育て・シニア片づけ講座)まで様々なテーマで登壇。大手企業、大学、弁護士会、自治体まで多数。述べ受講生は5,000名以上。プライベートでは、小学1年生から高校生までの3児の母。

保有資格
一般社団法人日本経営協会 情報資産管理指導者
一般社団法人ハウスキーピング協会認定  整理収納アドバイザー1・2・3級講師(全国24名) 他

著書

実践! オフィスの効率化ファイリング』(DOBOOKS / 同文舘出版)

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