人口3,400人ほどの小さなまち、磐梯町が“本気でDXに取り組んでいる”と全国の自治体から注目を集めている。外部人材の登用、デジタル変革戦略室の立ち上げ、しかもそれを3年間という期間を区切って、スピード感をもって推進しているという。外部人材と内部職員との連携のコツや、DXの進め方について、室長の小野さんを取材した。
※下記はジチタイワークスVol.20(2022年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
外部から専門家を迎え、職員とともにDX戦略室を立ち上げ。
人口減少、集落の維持、経済の停滞など、小さな地方自治体が抱える課題に直面している同町。令和元年に町長に就任した佐藤さんの指揮のもと、魅力あるまちづくりの手段としてデジタル変革の取り組みが始まった。まず外部の有識者をCDO(最高デジタル責任者)として登用し、令和2年には3年間の期間限定で、デジタル変革戦略室(以下、戦略室)を立ち上げた。
小野さんは「磐梯町ではDXを、デジタル技術“も”活用して住民本位の行政、地域、社会を実現するプロセスと定義しています。そのために、外部人材と連携し、地道な取り組みを積み上げています」と話す。「現場での最初の1歩は全職員に向けた研修会でした。ほとんどの職員がきょとんとした状況でしたが、今後は自治体業務のあり方が変わっていくんだ、という認識をもてたと思います。各課が最低限の知識をもてて、デジタル技術を使いこなせる環境づくりをするのが戦略室の役割です。3年間でそれを達成し、元々あった組織図に戻す予定です」。
■デジタル変革戦略室の組織図
町長、CDO、室長で政策決定したのち、戦略室メンバーと各課で政策を実行している。2023年6月には戦略室は解散となり、課ごとにDXを推進していくことになる。
大がかりなシステムは入れず、できることから始めてみる。
日々、試行錯誤しながら進めているという同町のDX。小野さんによると「システムの導入はお金さえあればできますが、一部が便利になるだけで意識や組織風土は変わりません。それを変えるのは大変です。庁内では手始めに、誰もが等しく使えるものとして無料のグループウェアを導入し、全職員で一斉に使い始めました。ファイルを共有したり、テレビ会議をしたり、便利さを実感することで、もっと使ってみたくなります。無理のない方法で全職員に浸透するような、雰囲気の醸成が大事です」。現在はペーパーレス化試行開始、BPR※1、視察のオンライン化など、いずれも大きなお金をかけずにスモールスタートで進めているという。
また、取り組みを推進する手法にも従来とは異なるやり方を取り入れている。「PDCAでは遅いので、“OODAループ※2”を実践しています。やってみてダメだったら次、次、と迅速に方向転換が必要です。最初の計画にこだわって立ち止まっていては何も進みません」。
※1 BPR =Business Process Re-engineering(業務プロセスの見直しや再設計)
※2 Observe(観察)・Orient(状況判断)・Decide(意思決定)・Act( 実行)による意思決定と行動
専門家の力を借りながら、職員が自ら変わる、動く雰囲気づくりを。
DXの考え方について、小野さんは「重要なのはD=デジタル化ではなく、X=人と組織の変革です。ただ業者に丸投げのデジタル化が進むだけでは意味がありません。自分たちで考えて意見が出せる、サービスを向上させられる、そんな人や組織風土に変えていくことがDXの最大のカギだと思っています」と力を込める。
また、自治体職員だけで進めるのではなく、外部人材を積極的に登用するべきだという。「職員は行政のプロですが、デジタルについてはアマチュアです。想像力も破壊力もある外部人材がいる方がいい。そしてスムーズな連携のために、その人たちに行政現場を理解してもらうことも、担当職員の重要な仕事です」。実際、行政の常識と外部人材の考え方にズレがあることも多く、小野さんは間に立って調整し、現場に落とし込む役割を担っている。
これまでの成果と今後については「具体的な数値ではあらわせませんが、オンライン会議やペーパーレス化など、全庁的にデジタル活用が当たり前の雰囲気はできあがってきました。今後は町民が利便性を実感できるデジタルサービスを充実させていきたいです」と語る。庁内の変化が町民へも広がっていくことを期待したい。
磐梯町
デジタル変革戦略室
室長 小野 広暁(おの ひろあき)さん
元々は“デジタルは人を分断する”と考える反デジタル派の1人でした。しかし、行政のDXは人と人とのつながりを生み出し、職員、住民、関係者をつなぐことができるものだと気づき、今は本腰を入れてDXに取り組んでいます。
課題解決のヒント&アイデア
1.デジタル化より人と組織の変革、育成がDXのカギ
メリットを説明した上で、全職員が利用できる、コストのかからないシステムを導入してみる。職員が便利さを実感すれば、自然と次の使い方を考えるようになり一丸となって取り組む雰囲気に。
2.自治体職員に限らず、専門知識のある外部人材を登用
一定期間で確実に結果を出すスピード感も重要。システムにお金をかけるのではなく、財政措置のある制度を利用して、デジタルの知識が豊富で、職員の意識や組織を変える動きができる外部人材の力を借りる。
3.外部と自治体とのギャップを調整するパイプ役を設置する
2者が仕事の進め方において異なるルールで動いていることが多いため、内部で調整する役まわりは非常に重要。パイプ役が存在することで、作業がスムーズに進む。この人選もDX推進のカギとなる。