【相談】定年後、どのように働くのがいいかイメージが湧きません。どう備えればいいでしょうか?
異動や昇進、副業、転職…公務員を悩ませるキャリアの問題。
この連載では、キャリアコンサルタントの国家資格を持ち、公務員の仕事やキャリアに関する著作も多い小金井市の堤直規さんに、公務員のキャリアに関するお悩みに答えていただく。
最終回となる今回は、「公務員の定年後」に関するお悩みについて、執筆いただいた。
今回の相談者
「定年後、どのように働いていけばいいかイメージが湧きません。どう備えればよいでしょうか?」(50代男性)
現在50代後半で、あと数年で役職定年を迎え、定年退職も遠くはありません。社会人としてのすべてを公務員として過ごしてきたため、定年後に何をしていけばいいのかわかりません。今からできる準備などはあるのでしょうか。
こんにちは、本日はご相談ありがとうございます。
50代の半ばを越えて、そろそろ定年が見えてきた。定年延長の「役職定年」後、そして65歳以降は何をしていけばよいのか不安だ。どう備えたらよいかということですね。
最近は、私へも60歳前後の方からご相談があります。私自身も50歳となり、同じような心配をしています。「人生100年時代」には、多くの人が80代になっても働くといわれます。そうした中でどうしていったらよいか、一つひとつ考えていきましょう。
公務員の2つの「定年」
ご相談の中でもお話しされていたように、今後、公務員は2つの「定年」を迎えます。「役職定年」と「定年退職」です。
2022年現在、定年は60歳ですが、国家公務員に準じて定年を60歳から65歳に段階的に引き上げられる方向で、現在、各自治体は条例改正の準備を進めています。それに伴い、「管理監督職勤務年齢上限制」…いわゆる「役職定年」制が導入されます。自治体が条例で定めるとされていますが、国家公務員に準じて、管理職手当を支給されている役職者については60歳でその職を降りるようになる見通しです(「特例任用」という例外も設けられます)。
定年は段階的に引き上げられ、2032年度に65歳となります。このため、ご相談者(管理職・57歳)の場合には、60歳で「役職定年」となり、63歳で「定年退職」し、65歳までの2年間を再任用職員として働く。それ以後はほかの職業に就くということが考えられます。なお、短時間勤務の「定年前再任用短時間勤務制」を選ぶこともできます(もちろん、民間企業等で働く、特に職業には就かないという選択肢もあります)。
再任用職員の給与は、職層・勤務年数等によっては定年退職前の半分以下です。「定年延長」された後の給与は、それまでの「7割水準」とされます。
「役職延長」にせよ、再任用にせよ、給与水準は大きく変わります。一方、子どもが成人・就職する等、家計の状況も変わってくるかと思います。それらを含めた「お金」の備えを考えておくことは大事です。知人のファイナンシャルプランナーは、必要生活費を見直してできるだけ身軽になっておくことが大切だと言っています。
「定年延長」「再任用」に備える
「役職定年」にせよ、再任用にせよ、私へのご相談の中で一番多い訴えは、「今までより大きく下がった給与で」「かつての部下・後輩の下で」働くことへの不満・ストレスです。
一方、再任用職員への職場側の不満も小さくありません。よく見受けられるのは「自分の給料は大きく下がったのだから」と簡単な仕事しか引き受けない人への反発です。こうなると職場がギクシャクしてきて、再任用職員本人にとっても居心地が悪くなります。
つまり、職場での職層・役割が変わることに対して、自分の側としても自分の働くモチベーションを変化・成長させる必要があるということです。
野球でいえば、管理職は監督。職場のエースは、チームの勝利に大きく貢献する四番バッターやエースピッチャーですね。でも、「定年延長」後は、いちプレーヤー。自分は凡打でも打線をつないでチームが勝てばいいと思えるか。チームへの貢献そのものにやりがいを感じられるかが改めて問われることになる訳です。
管理職ではない方、自分は職場のエースではないと思っている方も、自分のモチベーションの源を考えてみてください。チームのためにどう貢献できるか、そこにやりがいを感じられるかが問われることは同じです。
こうした問題に備えるためには、改めて自分の職場を見渡してみるのがよいです。
一人ひとりのメンバーの働きを見守って感謝する。一人ひとりが、よりよく働けるように心を配り、自分ができることを惜しみなく行う。そうした心配りの積み重ねが、上から指導するのではなく「下から支える働き方」につながります。
下から一人ひとりを支えてくれる「円熟した働き手」は、職場にとって、とてもありがたい存在です。そうした深い働き方を身につけることが、役職・役割が変わっても職場から必要とされ、自分らしくいきいきと働けるためにも大事なことだと考えられます(私はまだまだ修行中ですが)。
「公務員卒業」に備える
次は「公務員卒業」にどう備えるかです。ご相談者の場合は、再任用満了後ですね。
まず、考えていただきたいのは、お勤めの自治体で思い残してしまうことがないかです。
異動等もありますから、もちろん望んだことの全てがかなうことはないでしょう。けれど、自分なりにやるべきことはやった、できていないこともあるけれど「全体としては自分としては満足だ/納得できる」という実感があるかが、とても大切です。
というのも、「あのとき、ああすればよかった」「本当はこうしたかった」という深い後悔を抱えながら、その感情に蓋をしている方が結構いらっしゃるからです。それでも現役のうちは、いろいろな機会があるので挽回もできるでしょう。しかし、いよいよ公務員としての残り時間はわずかになってきます。自分がやりたいことを心残りなく…たとえ実現できなくても精一杯やった、満足だという思いを持てるように考え、その一つひとつに取り組んでいくことが大事です(頭の中から一つずつ「片づけていく」感じです)。
エリクソンのライフサイクル論(アイデンティティの確立を青年期の課題としたことで有名)では、老年期の課題は「自我の統合」、心理社会的危機は「絶望」、人格的活力は「英知」とされます。簡単に言えば、やれたこともやらかしたことも全部含めて、丸ごとの自分として「自分なり」という納得感が得られるかが課題で、それが実現できないと「絶望」に陥り、それが実現すれば「英知」が手に入るということです。
65歳はまだまだ人生の終わりからは程遠いですが、公務員人生は終盤。ここで「自分なり」という納得感が得られていないと、次のステージに踏み出すことが難しくなります。手痛い失恋を引きずっていては、次の出会いを楽しめない、それと同じなのだと思っています。
もう一つ、「人を残す」ことを意識してみるとよいです。
どんなに順風満帆な公務員人生を送ってきたとしても、全てが100点満点などということはありえません。「やり残し」は必ず出ます。そのとき、後事を託せる人がいれば、救いになり、大きな希望となります。
後藤新平は「金を残すは下、業を残すは中、人を残すは上」と言ったそうです(この言葉は野村克也監督が好きだった言葉としても有名です)。自治体の仕事は続くのですし、いつかは自分がいたことすら、覚えている人はいなくなる。それでも、自治体・職場がよりよくなるように。公務員人生の最後に一番大切なことは、自分が何をやるかではなく、「人を残す」こと。晴れやかに働く先輩たちが、異口同音に語っていたのが印象に残ってます。
「本当にやりたいこと」を大事に
最後に、ご相談の核心である定年後に何をしていくか、そのためにどう備えるかについて考えていきましょう。
先に「答え」を言ってしまうと、「答え」は人それぞれで、決まった形はないということです。自治体の関係団体に勤める人・企業等に就職する人もいれば、特に職業には就かない人もいます。健康等の状態にも大きく左右され、状況も急に変わります。
このため、大事なことは、それが「本当にやりたいこと」かということと、それを自分なりに追求していくことです。長年にわたって働く中で培ってきた意欲・能力を存分に活かして、新たなステージで「本当にやりたいこと」をやっている。それが家族・友人等の幸せにもつながっている…そう感じられることが新たなステージで幸せに働き生きているという実感につながっているのだと、ご相談のお話を伺う中で強く感じています。
定年後も、地域のために働く方がいます。趣味のテニスを楽しみたいと、その範囲で働く人もいます。現役時代には家族と過ごす時間が短かったからと、夫婦・子ども・孫たちと過ごす時間を大事にしている方もいます。そうかと言えば、事業からの引退後に全日本の地図を作った伊能忠敬のような人もいる訳です。
ですので、定年後への「備え」の一番は、改めて人生で自分が「本当にやりたいこと」を見つけることです。もう既に持っている/わかっているとお考え方でも、改めて見つめ直してみると、新たな意味を再発見することが少なくありません。
次には、その「本当にやりたいこと」をやっていくために、自分が持っている知識・スキル等をどう役立てられるか考えていきましょう。新たに勉強・訓練する必要がある場合もありますが、若い頃のように全く新しいことに挑戦するというよりは、既に持っている能力をさらに高めたり広げたりして、役立つようにする方が無理なく効果的です。
業務に関することだけでなく、もっと幅広く仕事全体を。仕事だけでなく、家族・友人・趣味を。それらの中で「本当にやりたいこと」を、小さくても始めてみる。50代から始めれば、65歳までにまだまだ十分な時間があります。その後の新たな豊かさにつながり、それに向けた積み重ねを楽しめることが、自分への一番のご褒美になります。
ただ、中高年になると、この「始めてみる」というのが結構難しかったりします。ですので、小さく「始めてみる」経験を今から積み重ねることが、肝になると考えています。
ご参考になりましたでしょうか。
今回のご相談で、再就職や能力開発の方法のもっと具体的なアドバイスをと期待されていたかもしれません。ただ、中高年のキャリアは千差万別で、対応はとても個別的なものとなります。再就職等については、ご相談を重ねる中で取り組んでいくことになります。
いくつものご相談に接する中で強く感じるのは、公務員人生の終盤を自分なりに満喫する(後悔しない)、そして、その豊かな延長上に自分の未来を築いていくことの大切さでした。再就職等の定年後の「形」より前に、「どうしたいか」「どう感じるか」という自分の「内面」を耕していくことが、とても大事です。
ぜひ自分らしく自分なりのキャリアを。応援しています!
今回の処方箋
・「定年延長」後は、働くモチベーションの変化・成長が必須
・公務員として思い残しがないよう、やりたいことに取り組んでいく
・「本当にやりたいことは何か」、仕事を離れて自分を見つめ直す
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堤 直規(つつみ なおただ)さん
小金井市企画財政部企画政策課長、キャリアコンサルタント(国家資格)。
1971年生まれ。東京学芸大学教育学部卒業、同大学院社会教育専攻修了。2001年小金井市入所。前職はIT関係。情報システム係、国保税徴収担当、企画政策係長、納税課長、行政経営担当課長、新型コロナウイルス感染症対策担当課長を経て、2022年4月から現職。2018年にキャリアコンサルタントとして登録。
著書に『公務員1年目の教科書』(学陽書房 2016年)、『公務員ホンネの仕事術』(時事通信出版局)等5冊。2022年度は月刊『ガバナンス』に「キャリアを拓く!公務員人生七転び八起き」を連載。趣味は旅行と日本酒・ワイン。特にキャンピングカーでの気まま旅。