ジチタイワークス

徳島県鳴門市

フェーズフリー×学校教育で、平常時の防災意識を底上げする。

鳴門市が唱えるフェーズフリー教育は、“平常時に役立つものやアイデアを非常時にも使えるようにする”という概念を学校教育に取り込むことだ。学習内容に防災を絡めることで、生徒たちは日々の学習や活動に、より一層主体的に取り組むようになるという。さらに、日常から防災意識を高めることもでき、一石二鳥の教育方法といえそうだ。

※下記はジチタイワークスVol.19(2022年4月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

災害時の甚大な被害を見据え、フェーズフリーの取り組みへ。

南海トラフ地震などの自然災害を想定する同市では、平成23年に「鳴門市地震津波対策推進計画」を策定、防災対策・防災教育を進めてきた。しかし、平成24年に徳島県が発表した同地震の津波の浸水深、浸水域はこれまでの想定をはるかに上まわる非常に深刻なものだった。そこで、防災への取り組みを一層強化するとともに、翌年には「鳴門市学校・幼稚園防災計画」を策定。子どもたちの命を守る取り組みにも力を注ぐようになったという。

「ちょうどその頃、泉 理彦市長が一般社団法人フェーズフリー協会の佐藤 唯行代表理事に会う機会がありました。当時、市長はどうすれば災害から市民の命を守ることができるのか悩んでいたこともあり、佐藤さんの話に大変感銘を受けたというわけです」と学校教育課の佐古さんは振り返る。「フェーズフリー」とは、平常時と非常時を分けることなく、特別な準備なしにいつでも活用できるものや施設などを、防災に活かす考え方だ。

「その後、市長の後押しもあって、地域開放型のスポーツ施設『ウズパーク』が“丸ごとフェーズリー”な施設として、本市第1号となる協会の認証を取得。また今後、新庁舎や道の駅にも、フェーズフリーを取り入れる予定です」。これらの事業を進めていく中で、「学校教育の現場にもこの概念を取り入れることはできないか」と考え、新しい防災教育の取り組みを始めたという。

市内全ての幼稚園、小・中学校で研修を行い、ガイドブックを作成。

取り組みの初年度(令和2年)には、フェーズフリーの認知度が低かったこともあり、教職員にその概念を伝えることからスタート。市内全ての幼稚園、小・中学校に学校教育課の職員が出向き、全教職員を対象にした研修会を開いたという。また、各学校に配置されている防災担当者へ向けた研修会も開催。「授業へ取り入れる際の参考になればと、ガイドブック『いつもともしもがつながる学校のフェーズフリー』を作成し、市内の全教職員に配布しました。作成にあたっては、全幼稚園・小・中学校教職員から取り組みのアイデアを募集。また、防災教育や防災行政に詳しい大学の先生にも協力していただきました」。

このガイドブックには、“人の話や放送を静かに聞く(警報を聞き逃さない)”“上靴をきちんと履く(割れたガラスやがれきの上で安全に避難できる)”といった、平常時にも非常時にも役立つ習慣を身につける内容が記載されている。小・中学生向けには、県の地図を広げて地形から起こりうる自然災害を考えたり(社会・理科)、津波の速さや到達までの時間を計算する問題を盛り込んだり(算数・数学)……。また、災害時のデマに惑わされないよう心理状態を想像する(国語)など、学習内容を自分事として捉えられる上に、自然と防災意識も高められる効果的な学習方法を生み出したという。

全国から注目が集まる一方で、現場への浸透が今後の課題に。

同市の取り組みは「フェーズフリーアワード2021」でゴールド賞を受賞し、他自治体からの問い合わせが増加。注目を集める一方で、見据えている課題もあるそうだ。「現在は取り組みから3年に満たない段階で、まだ目に見える成果には至っていないのが実状です。市内全幼稚園、小・中学校で少しずつ実践を積み重ねており、着実に広まりを感じてはいますが、どう持続するかが課題ですね」。

今後の目標は、誰もが知る“エコ”や“バリアフリー”のように、市内の教育現場にフェーズフリーを浸透させること。「これからも積極的に授業に取り入れてもらい、その中で生まれたアイデアをどんどん共有してもらいたい」。そうして集まった情報を活用し、ガイドブックをブラッシュアップしていく予定だという。

また、この取り組みを持続可能にするためには、普段から激務である教職員の負担にならない仕組みづくりもカギとなる。「教職員が疲弊してしまっては本末転倒。初期にはそれなりに勉強も必要ですが、ガイドブックの内容を濃くして支援するなど、先生だけが大変にならない仕組みづくりが、私たちの役割だと考えています」。

フェーズフリーの取り組みが当たり前のように地域に根づき、子どもや保護者をはじめとする、住民全体の防災意識が自然と高まることが同市の最終目標だ。

鳴門市
教育委員会 学校教育課
佐古 高伸(さこ たかのぶ)さん

異動前、私も中学校の教師をしていたので、現場の気持ちがよく分かります。教員の負担が少なくなるよう、持続可能で効果的なフェーズフリー教育の活用法を提示していきたいと考えています。

課題解決のヒント&アイデア

1.フェーズフリーの専門家と連携し、市の防災事業に反映

防災を特別なことと考えず、平常時も非常時も同じように活用できる施設やものづくりを進め、またそういう考え方を市民にも共有。これにより自然と防災意識が高まるようにする。

2.教育現場への研修を重ねてフェーズフリー教育を推進

まだ認知度の低いフェーズフリーを、教育現場での研修を通じて地道に普及。徐々に関心を集め、大きなうねりに。これを一過性のものにしないよう教職員の負担が少ない仕組みづくりを工夫する。

3.学習方法のアイデアを整理したガイドブックを制作

授業で使える具体的な事例を挙げた、教科書のようなガイドブックを作成。全教職員に配布することで準備負担の軽減につなげている。アイデアを集め続け、共有することで内容が深まっていく。

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