何かと気忙しい年度末は、多くの公務員にとって気がかりな異動の時期でもある。新天地への異動に心躍らせる人がいる一方、想定外の異動にやりきれない気持ちを抱える人もいることだろう。
そもそも、公務員にはなぜ異動がつきものなのか。異動はどのようにして決まるのか…異動についてはブラックボックスになっていることも多い。そこで本特集では、異動を知り、異動を力にするための記事を公開していく。
最終回となる本記事は番外編として、「採用の実態」について某市の人事部に匿名取材した話をお届けする。
【公務員の「異動大全」】
(1)異動でモヤモヤ…ありますか?全国の公務員にアンケート!
(2)人事担当者に聞く、「異動の実態」【前編】
(3)人事担当者に聞く、「異動の実態」【後編】
(4)どんな部署でも自分は活かせる!異動に左右されない”強み”の見つけ方・活かし方【前編】
(5)どんな部署でも自分は活かせる!異動に左右されない”強み”の見つけ方・活かし方【後編】
(6)人事担当者に聞く、「採用の実態」【異動大全・番外編】←今回はココ
お答えくださった方
■Aさん
・所属:某市役所(人口規模 数万人) 総務部人事課
・役職:課長
新卒採用が同じ時期に行われる理由
ーー 自治体職員の新卒採用についてお伺いします。採用時期や試験の内容は全国どの自治体もほぼ同じだと思うのですが、何か理由があるのでしょうか。
Aさん あらためて聞かれると回答に困るのですが…。少しさかのぼって考えると、以前は「統一試験」というものがありました。小規模の自治体は独自の採用試験を行う余力が無いため、複数の自治体が共同で行う形式です。その名残が今も残っているのが理由のひとつ。
もうひとつは、現役高校生の就活の開始時期が文科省の指導により決まっているため、それに自治体側があわせる必要があるということです。
ーー 試験の時期というのは毎年決まっているのですか?
Aさん 試験を行う時期は自治体によって異なります。県や政令市などの大きな自治体は早め(6月頃)に行われ、その後に続いて多くの自治体が順次試験を行うことになります。町村レベルの小さな自治体だと大卒高卒の区分を設けていないこともあるため、先ほど言った文科省の設定した時期(9月頃)が試験日となります。
ーー 大学生の場合、ほとんどの学生が3年の夏くらいから就活を意識するとは思うのですが…。
Aさん 民間企業とは異なり、自治体は年度単位で動く必要があるため、実質的な採用のスタートは4月以降になってしまいます。受験者の募集は前年度の1月~2月から始めることは可能ですが、試験日や合格発表日を前倒しすることは難しいと思います。
なぜ採用試験プロセスはどの自治体も同じような内容なのか?
ーー 自治体の採用試験ですが、教養・専門知識・論文・面接と、試験の内容はどこの自治体もほぼ同じです。なぜでしょうか?
Aさん 採用の方法については、地方公務員法に明記されています。細かな条文についてはここでは省きますが、自治体が実施する試験内容についてはいくつか制約が設けられています。
例えば選考ではなく競争試験が原則とされているため、一次試験は「客観的に点数で評価できる」ことが求められ、「基礎的な知識を問い、正解不正解(点数)で評価する」という試験内容に限定されてしまいます。そのため、試験の難易度や面接回数の違いなどはありますが、どこの自治体も同じような試験内容になってしまうのだと思います。
法律に則り、かつ公平性を担保しなければならないため、独自要素をあまり盛り込むことができないというのが実情ですね。
ーー 公務員の場合、「コネで採用する」などのうわさも耳にしますが、実際はどうなのでしょうか?
Aさん:先ほどご説明した通り、客観的に点数で評価する試験を行い、そこでフィルターをかけるため、いくらコネがあっても点数が低ければ採用されません。つまり、点数評価だと、誰が見ても公平だという証拠にもなるので、恣意的に運用することができなくなるのです。
ーー ということは、選考プロセスで首長が口出しをすることもないのでしょうか
Aさん 首長レベルの役職者は、試験にはほとんど関わりません。最終的な選考結果を追認する程度ですね。選考に携わるのは部課長レベルなので、民間企業にあるような「社長の鶴の一声で採用が決まる」というようなことはありません。
よく言えば公平公正な採用ですし、逆に民間企業のように個性的な人材を採用できないということにもなりますが…。
地元出身だから有利ということは無い
ーー コネは通用しないことはわかりました。では、地元出身者だから有利になるということも無いのでしょうか?
Aさん 地元出身者だから有利ということもありません。重要なのは地元出身ではなくその地域が好きかどうか、熱意をもって仕事に取り組めるかという点です。もちろん、受験者の中で地元や近隣エリア出身者の比率が高くなる傾向はありますが、出身地で区別するようなことはしていません。
実際、どこの自治体でも様々な出身地の方が一緒に働いていると思います。特に最近は地方移住がブームになっているので、全国から試験を受けに来る方も増えています。
採用試験プロセスに例外はある?
ーー ここまでのお話をまとめると、自治体ごとに細かな違いはあるけれども、採用プロセス自体はほぼ共通なのですね。
Aさん 新卒採用試験についてはほぼそうだと思います。ただ、自治体によっては、専門職採用や社会人経験者枠採用などでは独自的な取組をしていることもあるようです。集団討論やグループワーク、実地試験などを採用試験に取り入れたり、より詳細なエントリシートを書かせたりなどですね。
ーー 逆に、自治体ごとに決めることができるのは何があるのでしょうか?
Aさん 受験資格における年齢制限は自治体で決めることができます。30歳までとか、45歳までとか、その自治体によって独自に設定できます。
また、試験区分の設定も可能です。具体的には、専門職採用や社会人経験者枠の試験をやるorやらないといったところですね。
面接で見ているポイントは?
ーー 面接ではどのような点をみているのでしょうか?
Aさん 最も重視しているのは協調性の有無ですね。仕事は複数人で行うことが多いので、協調性を持って仕事ができるかというのが大きなポイントになります。
また、メンタルの強さも重要です。近年メンタルダウンとなる職員が増えている傾向にあるため、ストレス耐性はあるか、気持ちの切り替えが早いか、などといった点を見ています。
こういったポイントを総合的に判断してジャッジするようにしています。分かりやすく面接官視点で言うと「自分の部下にしたいか否か」ということになりますね。
ーー 試験に通過したのに辞退するという方もいらっしゃいますか?
Aさん いますね。ここ数年、辞退者が非常に多いのが悩みの種です。応募してきた方の本気度をどのように見極めるのか、毎年試行錯誤しながら取り組んでいます。
面接時には、ほかの民間企業や自治体の試験を受けているのか、内定は出ているのかなどについてストレートに聞くようにしています。
インターンや非正規職員経験は評価される?
ーー 非正規職員の採用も人事で管轄しているのでしょうか?
Aさん 非正規職員はいわゆる会計年度任用職員となるため、正規職員とは別のルートで動いています。人事で採用に関わる書類作成や募集など総括的な事務は行いますが、部署単位での予算となるため、採用計画や面接など採用決定に至るまでの事務は基本各部署で行います。
インターンについても同様で、インターンシップの受け入れをおこなっている自治体や官公庁はいくつかありますが、人事計画に組み入れるものではありません。
ーー 非正規での就労経験やインターン経験が採用にプラスになることはありますか?
Aさん 業務内容を知っているといいう点でプラスになることもあるかもしれませんが、自治体によってそこは異なるでしょう。ただ、非正規職員から正規職員へ昇格するというルートは無いため、一般の人と同じように採用試験を受けてもらう必要があります。
ーー いろいろなお話をお聞かせいただきありがとうございました。最後に一言お願いいたします。
Aさん 公務員の採用や人事に関してはシークレットな部分が多く、皆さんが知りたいと思う生々しい本音のところをお話しできないのが心苦しいのですが、「こんなことを考えているんだ」「こんな悩みがあるんだ」などといった点をお伝えすることができたなら幸いです。
全ての自治体が、異動や採用についてはしっかりとした理念や法律に基づき公正に行っています。また、働き方改革への対応も徐々に進めていますので、今後もっと働きやすい職場環境を実現できると信じています。
自治体職員に異動はつきものです。本意でない部署への異動もあるかもしれませんし、異動の度に一から覚えることが多く苦労するということもあるかと思いますが、同じ事業体にいながら色んな仕事を経験できるのも一つの魅力です。新たな部署に異動した際には新しいことにチャレンジできることをチャンスと捉え頑張っていただけたらと思います。
※本記事の内容はAさんへの取材に基づき構成しています。人事制度の詳細は自治体ごとに異なります。