自治体の防災情報は、住民にとっていざというときの生命線だ。しかし大規模災害では、その情報発信すら絶たれることがある。相次ぐ災害に見舞われた八代市では被災経験をどう活かしているのか。危機管理課の担当者に聞いた。
※下記はジチタイワークス災害対策特別号 March2022(2022年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]NTTビジネスソリューションズ株式会社
熊本県八代市 /やつしろし
八代市 総務企画部
左:危機管理課 危機管理係 主幹 兼 係長
小林 和也(こばやし かずや)さん
右:危機管理監
中武 裕嚴(なかたけ ひろよし)さん
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人口:123,982人 世帯数:56,807世帯(令和3年12月31日時点)
直近の災害例
R2.07.04 一級河川が氾濫し庁舎も浸水被害に
●1時間の雨量110~120mm ● 一級河川である球磨川水系が氾濫 ● 坂本地区などが冠水・浸水 ● 通信の途絶や道路の寸断が発生
令和2年7月4日未明に線状降水帯が発生、球磨川水系が氾濫・決壊した。道路の寸断による地域の孤立も発生し、通信は途絶。坂本地区の被害が特に甚大で、八代市坂本支所の庁舎も浸水した。市全体の被害は死者4人、重傷者2人、建物全壊が522件、床上浸水455件。
広大な地域ならではの悩みと市町村合併により生じた課題。
八代市は熊本県中部に位置し、約680㎢という広大な面積をもつ。自然豊かな地域だが、同時に複雑なリスクも抱えていると中武さんは語る。「当市は日本三大急流の1つである球磨川の河口にあり、第一級活断層の日奈久断層が斜めに走っています。土砂災害の特別警戒区域も1,261カ所あり、これらが広い地域に点在しているという特徴があります」。
実際に、山間部の林道では毎年のように土砂災害が発生しており、道路が寸断されると孤立する地域もある。また、球磨川以外の二級河川も多く、それらのいくつかには氾濫のリスクがあり、加えて海に近い平野部では高潮なども懸念されている。
こうした災害に対し、様々な取り組みを進めてきた同市だが、大きな課題があったという。「現八代市は、平成17年に2町3村と合併した背景があり、旧市町村ごとに防災の仕組みが異なっていました」。この問題に対し、ICT推進を中心とした防災システムの見直しに取り組んでいる最中、平成28年に熊本地震が発生した。
熊本地震で同市は最大震度6弱を記録し、本庁舎は使用不能に。本庁業務を民間のビルも含め14施設に分散し、様々な制約のある中で業務を継続していった。そうした中、再び大災害が同市を襲った。それが、令和2年7月豪雨だ。
ネットワークがダウン!豪雨がもたらした想定外の事態。
令和2年7月3日の深夜から雨が激しくなり、球磨川が急激に増水。翌4日の午前4時頃、市内の坂本地区に避難指示が出された。当時の様子を中武さんはこう振り返る。「必死に情報を集めたのですが、深夜なので状況もうまくつかめません。焦りを覚える中、追い打ちをかけるようにインターネットが不安定になり始めました」。
さらに坂本地区の支所が水没し、防災行政無線が使用不能になった。固定電話の回線も使えなくなり、同区との連絡は職員の携帯電話のみという状態に。
住民との連絡手段を絶たれ、中武さんは呆然としたという。「当時の災害情報発信手段は、防災行政無線とメールでした。しかし坂本地区では無線もインターネットも使えないため、こちらからの情報を住民に届ける方法がありません。地域の住民は、互いに避難を呼び掛けあって高台に逃げるという状態でした」。
この豪雨災害の経験で、強じんで多様な情報伝達手段を確保する必要性を痛感した同市。そうした教訓から導入を進め、大きな期待を寄せているシステムが、令和3年4月から運用を開始した「@InfoCanalⓇ」だ。
防災行政無線の更改を機に複数の課題を一挙解決へ。
同システムは、携帯電話やWi-FiなどのIP通信網を利用した防災情報配信サービス。導入のきっかけは、「合併前の旧市町村で使っていた防災行政無線は、メーカーなどが全てバラバラだったこと、そして令和4年にはその一部が使用期限を迎えることも課題としてありました」と中武さん。「次世代の防災行政無線を決めるため、平成28年から検討会を重ね、最終的に“携帯電話網を利用したシステム”で方向性を定めました」。
携帯電話網なら庁舎が被災しても場所を選ばず情報配信ができ、しかも民間の通信網を利用しているので無線の免許や電波の申請手続きなどが不要、といった点が決め手になったという。
また、情報発信の業務に関する課題もあったと小林さんは続ける。「以前の仕組みではオペレーション上の問題が多かった。それを同時に解決したいというねらいがあったのです」。従来の職員の業務では、防災行政無線、メール、ホームページとそれぞれに対応する作業が必要だった。
放送を流す際も、肉声で注意深く録音し、それを登録して配信するという手順に時間も手間もかかる。さらに市町村合併後に複数の防災行政無線を統合したため、一部に相性が悪い地域もあり、住民から「音声が聞き取りづらい」という意見も上がっていた。これらの課題を解決できるシステムとして、@InfoCanalⓇに白羽の矢が立ったのだ。
八代市が抱えていた課題
1.市域の広さと地形からくる災害の多様性
海・山・河川・平野部が揃った土地で、日奈久断層も抱えているため、風水害や地震をはじめ、土砂災害、高潮被害など様々なリスクに備えなければならない。
2.市町村合併による防災行政無線の不一致
平成17年に合併をしたが、防災行政無線は旧市町村が個々のものを構築しており、メーカー・周波数が全て異なっていた。統合はしたものの、使い勝手が悪い状態だった。
3.防災業務における職員の負担増大
従来の防災行政無線、登録制メール、エリアメール、ホームページでの情報発信は個別のオペレーションで動くため、漏れ・遅延のおそれがあり人的負担も大きい。
導入までの経緯
●平成28年4月 熊本地震が発生
庁舎が被災し使用不能となり、各部署は市内の仮庁舎(14カ所)などに分散した。
●平成28年12月 新防災システムの検討会発足
防災行政無線を含めて、情報伝達手段を総合的に見直す検討会を計25回実施。令和元年9月、@InfoCanal®に決定。
●令和2年7月 豪雨災害が発生
まだ分散拠点での業務体制で、新システム構築中だったため使用は間に合わず。
●令和3年4月 @InfoCanal®の運用開始
●令和4年2月 新庁舎開庁
災害時支援システムと映像表示制御システムも加え、防災機能を拡充。
あらゆる端末へ同時配信でき双方向通信で安否確認も。
同システムは、肉声ではなくテキストデータを送信し受信側で音声に変換する方式を採用している。そのため送信データが格段に軽く、あらゆる端末へ一斉に配信できる。インターネット環境さえあれば職員はどこからでも情報配信が可能だという。この点が重要だと小林さんは力を込める。「災害時には職員も被災します。しかし、住民への情報は速やかに配信しなくてはなりません。場所を選ばず、かつワンオペレーションで複数の端末に同時配信できるスピード感は、大きな強みです」。
スマホ利用者にはアプリで、携帯利用者にはメールで通知できるのはもちろん、高齢者など携帯を持っていない人には固定電話やFAX、あるいは戸別受信機や屋外拡声器と、情報配信先も豊富だ。どんな人でも、どんな状況であっても、情報が受け取れることが大事だという。
また、“双方向”通信が大きなポイントでもあり、情報が届いたかどうかを、住民は確認ボタンで回答することができる。回答状況は管理画面の地図上に表示され、職員は状況を見ながら再配信や次の対策を検討可能だ。
現在、同市では住民の利用促進を目指し、窓口でのチラシ配布やホームページへの掲載をはじめ、郵便局や保険代理店による告知協力、ショッピングセンターでの登録会、防災訓練での案内など多方面でPRを行っている。
選択肢を複数提示することで地域住民の自助をサポート。
同市では新庁舎が令和4年2月に開庁。地震から約6年に及んだ分散拠点での体制もようやく終わり、新しい環境でさらに防災力を強める計画だ。
小林さんは今後について、「このシステムを活用すれば防災業務を効率化でき、住民の安全を高められる。活用の幅を広げるアイデアもすでに多数挙がっています」と笑顔を浮かべる。実際に、自治会エリアでの限定配信や、発災時の呼集システムなど職員向けの機能はすでにテスト段階にあるそうだ。
同システムについて中武さんは、「住民が自分に合った手段を選べる点が優れていると思います。1人でも多くの人に利用していただき、自分たちがいつ避難するのかを、自分で考えて判断できるようにしていきたいのです。そのための情報をしっかり届けていきます」と語る。「地域によって、適切な情報発信方法は違うはずです。だからこそ住民目線で考えて、多くの選択肢から住民が適切なものを選べるようにしておくことが大事だと思います」と小林さん。
全庁的にも、マンパワー不足を補うためにはデジタルの力が必須だという意識があるという。「システム活用について、今は不安よりも期待しかありません。他自治体でもデジタル化にはぜひ取り組んでほしいと思います」。
八代市役所新庁舎の災害対策本部事務室
備えのポイント課題解決のヒント& アイデア
1.大災害でも途絶えない強じんな通信網
携帯電話網やWi-FiなどのIP通信網を活用。通信自体は音声ではなく、容量の軽いテキストデータを使い、それを受信側で音声に合成して放送するという仕組みで、ネットワーク障害などに強い安定稼働を実現する。
2.どこからでも一斉に配信できるシステム
災害発生時に登庁しなくても、インターネット環境と端末があれば場所を問わずに情報を配信できるシステムで、職員の安全も確保する。@InfoCanal®はオプションで自治体の公式ホームページやSNSと連携した同時配信も可能。
3.住民の利便性に応じて複数の手段を用意
防災行政無線はもちろん、スマホを持たない人にはメール、メールができない人には戸別受信機、固定電話、FAXなど、住民の様々なニーズに応える手段を用意。情報をくまなく届けて逃げ遅れを防ぐ。
住民が手段を選べる!@InfoCanalⓇの強み
全国を幅広くカバーするIP通信網を使い、多種・大量の端末にワンオペレーションで配信。音声読み上げとテキスト配信に対応しているので、住民側の選択肢が広い。大規模工事や電波の申請などの手続きが不要のため、低コスト・短期間での導入が可能だ。
平時でも活用!
八代市をはじめ導入自治体では、平時にも住民へのお知らせなどに活用している。普段から職員・住民ともに使い慣れることで、緊急時の迅速な行動につなげることができる。
●自治会からの行事案内
●不審者情報提供で注意喚起
●予防接種やコロナ関連情報
回答も得られる双方向通信
安否確認、職員の参集状況、避難所のライフライン確認などの簡単なアンケートも可能。回答内容により質問を変えるシナリオ形式での詳細な状況確認もできる。
伝達状況が一目で分かる管理画面
職員が使う管理画面では、未達や既読など住民側の受信状態がリアルタイムに地図表示される。アンケートの回答もグラフで表示され、状況把握や判断に役立てられる。
それぞれの地域に合わせた防災ソリューションを提案します
八代市の防災関連システムは、@InfoCanalⓇに加えて「災害時支援システム」「映像表示制御システム」の3システムで構成。自治体ごとに異なる課題をヒアリングし、各種システムを組み合わせたトータルでの提案が可能です。気軽にご相談ください。
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