【セミナーレポート】水道DXはここがポイント! 将来を見据えつつ無理なく進める“スマート水道”のすすめ
様々な課題が山積している水道事業。住民の命に直結するインフラだからこそ、課題解決に向けた取り組みが急務とされる中、重要なカギとなるのがDX推進です。
本セミナーでは、水道事業におけるそれぞれの得意分野で自治体をサポートする事業者が集い、水道DX成功へのアイデアを共有しました。当日の様子をダイジェストでお届けします。
概要
□タイトル:DXで実現する「スマート水道」~持続可能な水道事業とは?~
□実施日:2022年2月24日(木)
□参加対象:自治体職員
□開催形式:オンライン(Zoom)
□申込者数:166人
□プログラム:
第1部:水道事業のDX推進と事業継続
第2部:統合的な水道施設の位置情報管理
第3部:水道業務のDX推進におけるスマート水道メーターの役割
第4部:水道事業DX:ビッグデータ×AIによる管路劣化診断
水道事業のDX推進と事業継続
行政で問題視されている“ベンダーロックイン”。この状況を避けながら賢く水道DXを推進するにはどうすれば良いのか。ウォーターリンクスの河瀬氏が、水道事業の課題を整理しつつ、水道標準プラットフォームを取り入れたシステムの活用について語ってくれた。
<講師>
河瀬 博信 氏
株式会社ウォーターリンクス
営業部課長
プロフィール
2000年昭文社入社。主に西日本の自治体向け観光ソリューションに従事し、サブマネージャーとして多くの観光プロモーションを手掛ける。2020年ウォーターリンクスに入社し、営業課長として水道事業体向けにクラウド型の業務システムや陸上養殖の導入提案を推進中。
水道標準プラットフォームが、DX推進への手がかりとなる
水道事業が目下直面している課題は、言うまでもなく人口減少に伴った有収水量の減少です。下記グラフの通り、2060年代には人口が9千万を割り込み、有収水量も現在の60%程度まで減ると予想されています。
とりわけ中小規模の都市では、もともと人口が少ない上に人口減少率も高く、収入の減少率もその分高くなると考えられます。かといって施設への投資費用が減るわけではありません。対策として、水道DXの推進が急務となります。そこで提案したいのが、水道標準プラットフォーム(※以下、水道標準PF)を活用した料金システムです。業務効率化やコスト削減だけでなく、広域化に向けた取り組みにもつながります。
水道標準PFについてはご存知の方も多いと思いますが、これは経済産業省・厚生労働省が推進している水道情報活用システムの構成要素の1つです。
現在、水道事業者が持っているシステムは業務ごとに独立しており、システム間でのデータ流通が困難です。同時に他のベンダーが提供するシステムへの乗り換えが困難な “ベンダーロックイン”という状況になっています。こうした問題に対し、システムに使うデータの項目や仕様を統一しようとするのが水道標準PFで、プラットフォーム自体を複数の事業体などで協同購入することによる低コスト化も可能となっています。ベンダーロックインから水道事業者を解放するというのも目標の1つで、我々ベンダー側にもサービスや価格の競争原理が働くため、水道事業者のシステム選定における自由度が増すとされています。
SaaS型の料金システムで、人力依存の体制から脱却を!
ここで、弊社について簡潔に紹介します。ウォーターリンクスは、水道事業の業務システムを提供している会社です。水道事業のあらゆる課題を解決し、健全な事業継続をサポートすることを目的として、2019年に設立されました。
弊社が提供する水道事業DXの一例として、検針業務の流れを以下に示します。
上の部分は従来の検針の流れで、それぞれの作業に人の手がかかっている状態です。ここにIT機器を導入し、目視での検針などをデジタル化します。その次に業務全般を自動化し、システム内でデータをやり取りすることで省人化を実現。ここまでは“業務のデジタル化”という分野で、ここから先が水道DXです。
例えば、今までは料金システムでしか活用できていなかった検針データを、現地で写真を撮るなどしてGIS台帳に位置情報とともに反映する、あるいはAIの管路診断にビッグデータを活用する、といったことが可能になります。一般の住民がスマホアプリで検針のお知らせを受け取ったり、支払いをしたりといったこともでき、これは一部自治体ですでに導入済です。
このようにデータに新たな付加価値を創造して、業務全般を革新する。そして職員だけでなく住民にも革新のメリットを届ける、ということこそがDXだと考えています。そこで活用できるのが、水道標準PFに準拠した料金システムです。
弊社の料金システムはSaaS型で提供されます。また、水道標準PFに準拠するので、ベンダーロックインすることなく低コストで充実したサービスを提供します。法改正や税制改正などにまつわる更新は無償でアップデートします。様々なデータを抽出可能なECU機能も提供しております。必要に応じてオンプレミス方式での提供も可能です。このように、将来を見据えたシステムへの更新を検討されてはいかがでしょうか。
続いて、GISの担当より、統合的な水道施設の位置情報管理について説明いたします。
統合的な水道施設の位置情報管理
行政で喫緊の課題の1つとされている“ペーパーレス”問題。これを水道事業の分野で推進しつつ、水道事業者が持つ大量のデータをシステム上で整理・可視化することが業務効率化にもつながる。ここでは、そのシステムの詳細について解説する。
紙ベースでの業務が抱える“4つの問題”とは?
ここからは、GISや台帳システムなどのマッピングシステムの話をします。まずマッピングシステムの導入状況について、下記のグラフは平成28年度に厚生労働省が調査した結果です。
ここで注目すべきは、約半数以上の事業体が紙のみ、あるいは紙とシステムとの併用で管理・運用しているという点です。システムを最大限活用できていない状況が見受けられます。では、なぜマッピングシステムを導入するべきなのか。紙の管理では下記4つの問題が挙げられます。
(1)必要な情報を探すのが大変
(2)保管場所の確保
(3)用紙の劣化
(4)専門知識が必要
これらを一挙に解決できる方法がデジタルによる管理、マッピングシステムです。ここからは実際のマッピングシステムの活用方法を、機能をまじえて紹介します。下記は、配水管の情報を確認するシステム画面です。
システム上の配水管を選択すると、右上に竣工年度や継手、口径、管種など最低限必要な管理項目が表示されます。その他の項目は、実際に運用しながら精度を上げていくといいでしょう。また、メーターの管理画面であれば、水栓番号、メーター番号、設置日や型番などから整備していくのが良いかと思います。
このようにデジタル化することによって何ができるのか、2つの事例を紹介します。
1つ目は耐用年数を超えた管の可視化です。配水管の情報として竣工年度の情報があれば、設置から経過年数を計算して、耐用年数を超えた管を経過年数ごとにグループ化し、色分けすることができるようになります。このように可視化することでリスクのある管をシステム上で確認できるので、工事の優先度の判断材料として利用することができます。
2つ目は、水道施設台帳の管路等調書です。現在整備が求められていると思いますが、管種や延長の情報を登録することで管路等調書は常に最新の状態で出力することができるようになります。
このように、整備が進んでいくことで活用の幅も広がっていくので、まずは手元の水道情報をマッピングして整備していきましょう。
水道管データを地図上で可視化し、業務効率も住民サービスもUP!
また、システムによって漏水箇所の管理も効率化できます。漏水が発生した位置情報を登録し、発生の日付、対応完了日、簡単なメモを残すことができ、この位置情報をファイリングすることも可能なので、漏水の現場写真なども登録して管理することで、他の職員へ状況を共有することができるようになります。
さらに、検索機能を用いて未対応の一覧なども抽出でき、年間での発生状況と対応状況を集計して確認することも可能です。
これらの機能は工事履歴の管理でも同様で、さらに断水が影響する箇所の検索も可能。システム上に管路や仕切弁の情報があれば、工事の想定されている位置を指定して影響範囲を可視化することができるようになります。こうしたシミュレーションを行うことで影響のある住宅の一覧を抽出でき、住民への連絡などもスムーズに行えるようになります。
最後に外部サービスとの連携について説明します。
これまで紙媒体などで保存していた図面や書類などをマッピングシステムに登録し、土台となるシステムを整備します。そこへスマートメーターなどから水量の情報や位置情報などを受信して取り込む、あるいはAIを活用した管路の老朽化予測の結果をシステムに反映する、といったことも可能になります。このようなデータは水道事業に限らず、道路や橋梁などの工事でも必要ですが、そうした場面での活用にもつながるので、水道課を超えて業務の効率化を広げていくことができるのです。
皆さんもぜひマッピングシステムの整備を進めていただければと思います。
水道業務のDX推進におけるスマート水道メーターの役割
労働力減少への対策として、スマートメーターによる自動検針が注目を集めている。しかし大豊機工の山中氏は、一足飛びではなく一歩一歩着実に進める水道DXを提案する。その軸となる“一括無線検針”とは?
<講師>
山中 裕太 氏
大豊機工株式会社
関西営業所
プロフィール
大豊機工(株)のスマート水道メーターの営業を担当。2014年に入社後、セールス担当として国内の水道事業体を中心に水道ビジネスに携わる。現在、一括無線検針システム「ReMARS」のフィールドテストを担当し、積雪地域から山岳、湖畔等国内の様々なフィールドでの経験を持つ。
水道DXを無理なく進めるために提案する“一括無線検針”
ここまでの登壇者が解説した通り、水道事業の課題は多くあります。それらの解決策の中でも重要なものの1つが、スマート水道メーターです。スマート水道メーターは、人が現地へ向かうことなく、完全自動で検針できることを目指したものです。これは「AMI」と呼ばれており、水道メーターの検針における到達点ですが、まだまだ多くの課題が残されているのが実情です。
まずはコスト。多くのスマート水道メーターが高単価になっています。また、通信費やアカウント費用も必要です。さらに、通信エリアの無線環境に関する課題です。AMIは完全自動検針であるため、全てのメーターが通信できる環境がないと成り立ちません。将来、遮蔽物などができて電波環境が悪化する可能性もあります。
こうした中、弊社では比較的導入しやすい一括無線検針を使って業務効率を向上させ、将来的に環境が整ったタイミングで順次AMIへ移行する、といったアプローチを提案しています。
弊社のスマート水道メーターは「ReMARS(リマーズ)」といいます。このリマーズは、数ある課題に向けたソリューションであり、スマート水道メーターによる検針を着実に実現するものとなっております。
リマーズの一括無線検針システムは、個々のメーターを無線で検針することはもちろん、積雪環境などの難検針地域でも効率的な検針を実現します。検針方法には2つのモードがあり、1つ目は、検針予定のメーターをグルーピングして検針を実施する“グループバイ”です。このモードでは、検針したい地域やマンションをあらかじめグルーピングし、一度の通信作業でそのグループ全ての検針値を取得することができます。集合住宅や住宅密集地で有用性の高い機能です。
2つ目は“ドライブバイ”。これは無線親機を携帯して自動車やバイクに乗車し、住宅街を通過するだけ、という検針方法です。メーターに近づくと無線通信が自動的に開始され、検針値を取得できます。
段階的な導入も可能!「リマーズ」が水道の未来を拓く
こうして集めた検針データは、一度検針端末に蓄積されます。その後、Wi-Fiもしくはキャリア回線通信でWebアプリケーションの「Temetra(テメトラ)」へアップロードされます。アップロードされたデータは検針値の管理だけでなく、テメトラが持つ多くの機能により、様々な分析や管理を行うことが可能です。また、上位システム―例えば先ほど紹介のあったウォーターリンクスなどと連携することもできます。
将来的には利用者毎の料金情報提供や、水道GISを通じて断水情報を速やかに通知すること、さらにはこの後に紹介されるフラクタのAI管路劣化診断と連携させ、診断確度の上昇が見込めることなど、多くの可能性を持っています。
まとめとして、リマーズの導入前後の業務フロー比較です。
従来の業務フローでは、人の手が関わる部分が多く、どうしてもヒューマンエラーの可能性が残ります。一方、リマーズを用いた業務フローでは、人に依存する作業が非常に少なく、さらにメーターからシステムまでがパッケージとなっているため、個別に仕様を策定する必要もありません。他にも、基地局が不要なため導入コストを大幅に削減できるというメリットもあります。
リマーズは、1台からでも導入が可能で、従来型メーターと混在して運用し、テメトラ上で一括管理することも可能なため、試験運用からもご検討頂けます。ぜひ気軽にご相談ください。
水道事業DX:ビッグデータ×AIによる管路劣化診断
水道事業においてもAIやビッグデータの活用で解消できる課題は多い。属人的な業務を減らし、かつ職員の動きを効率化できる“管路診断ツール”を提供するFRACTA(フラクタ)の前方氏が、AIが水道事業にもたらす未来について語る。
<講師>
前方 大輔 氏
FRACTA
事業開発部 マネージャー
プロフィール
再生支援などを中心とした経営コンサルティングに従事後、アフリカのザンビアに渡り小規模農家の収入向上支援に従事、インドにて日系現地法人のバックオフィスの構築・運用に携わる。帰国後に農業ベンチャーにおける営業施策立案・実行に従事後、フラクタにジョイン。水道事業体のサポーターとして全国を飛び回っている。
AIが教える水道管の保守管理における優先順位
弊社の事業は、簡潔に言うと管路の健康診断です。管路は同じ管種や布設年度のものでも、環境によって劣化のスピードが異なります。これに対し、布設年度や耐用年数といった基本情報に加え、管の周辺の環境データを取り入れてAIで劣化診断をしていく、というのが弊社サービスの特徴です。
弊社の劣化診断サービスの流れは上図の通りで、水道事業者からいただくものは、配管の基本情報と漏水のデータのみです。これらが揃ったら、環境ビッグデータを取り入れた上でAIに診断させます。この一連のフローが完了するまでに必要な期間は、長くても2カ月弱。管を掘削して実際の劣化状況を調べて埋め戻す作業と比較すると、スピード・人手・価格ともに優位だと考えています。
実際の画面イメージは、以下のようなものです。
システムでは、管路の管理単位ごとに漏水確率を算出し、色分けして可視化します。上図でいうと、破損確率が高いのが赤で、そこからオレンジ、黄色と下がって行き、健全度が高いのが緑です。各配管をクリックすると、右側に将来的な漏水確率や、管路の属性情報などが表示されます。
「何を診断基準にしているのか」という質問も度々受けますが、画面の左側を見ると分かります。ここには何をもって判断しているのかという相関的な因子である布設年、管種、河川・湖沼からの距離、建築物の密集度などを表示しており、何が劣化に影響しているのかが分かります。
この診断結果の活用例で多いのが「どの管から更新するか」という意志決定の根拠にするというものです。また、漏水調査を順繰りに行うのではなく、診断結果を見ながら調査エリアを選定していく、といったこともできますし、個々の管が持つ重要性や地域への影響度と照合しつつ保守を考えるといった活用をされている自治体もあります。
ビッグデータを活用した未来予測で地域に負の遺産を残さない!
上図は環境ビッグデータの概要です。主要なものは左側の9つで、こうした環境データを全国で構築しているため、後は配管の情報と漏水のデータがあればAIが診断できる仕様となっています。
ここで事例を紹介します。最初に有償で導入いただいた豊田市では、市町村合併で簡易水道を統合したため、その管理で苦労している状況でした。同時に、熟練職員たちの退職が近く、技術継承の面でも課題を抱えていました。
そこで技術者に集まっていただき、現時点で漏水の可能性が高いと思われる箇所などを地図上にマッピングし、それをAIに学習させて精度を上げました。また、会津若松市では、管ごとの“線”ではなく、メッシュ単位での“面”で評価しました。さらに、我々の診断結果に加え、同市がもともと管理上行っていた評価点数を合わせてエリア選定を行い、予防保全型の管理にシフトしていく取り組みを始めているところです。
本サービスに関する最新のトピックとしては、管が破損したらどのくらいの人に影響するのかというデータや、その影響度と劣化度からリスクを数値化したデータの提供を開始しており、さらに診断結果だけでなくその後の更新計画の支援サービスも始めています。
その他、管路の環境リスクマップも提供しています。これは水道管から見たハザードマップで、地域の環境が水道管に対してどの程度厳しいのかという情報を可視化したものです。これを元に、どこにリスクがあるのか自己診断で評価することができます。弊社ホームページでも公開中です。
我々も子どもや孫の世代に負の遺産を残さないため、水道事業の未来に向けて全力で対応したいと考えています。気になる点などあればぜひお問い合わせください。
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