ジチタイワークス

佐賀県嬉野市

被災現場と本部との距離を、ビデオ会議システムで短縮する。

発災時、状況に応じた適切な指示を出すためには、被災現場の状況をいち早く把握することが重要だ。令和3年8月、豪雨被害に見舞われた嬉野市は、「フィールド映像コミュニケーションシステム」を活用し、迅速な対応を実現した。

※下記はジチタイワークス災害対策特別号 March2022(2022年3月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]NTTビジネスソリューションズ株式会社

佐賀県嬉野市/うれしのし

嬉野市 総務・防災課
左:副課長 江口 博司(えぐち ひろし)さん
右:防災監 北島 基行(きたじま もとゆき)さん

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人口:25,316人 世帯数:9,896世帯(令和3年12月31日時点)

直近の災害例

R3.08.11-19 1週間以上降り続いた記録的豪雨
●9日間の総雨量1,178.5mm ●16地区が冠水・浸水 ●土砂崩れが300カ所以上で発生 ●道路のひび割れや通行止めが多発

令和3年8月、佐賀県を襲った記録的豪雨により、嬉野市には1週間足らずで、平均年間降雨量の約半分にあたる量の雨が降り注いだ。多くの家屋が浸水被害を受けたほか、複数の道路でひび割れなどが発生。特産品である嬉野茶の畑など、約300カ所が土砂崩れ被害にあった。

防災体制づくりに必要なネットワークがつながらない。

平成18年に嬉野町と塩田町が合併して発足し、2庁舎体制をとっている嬉野市。大雨の際は小規模な土砂崩れや道路の冠水などが発生していたものの、人的被害を伴うような大規模災害は、長い間経験がなかった。しかし令和元年、近隣市で観測史上最多の降雨量を記録。大きな被害が出たことをきっかけに、同市としても防災体制の見直しが急務となった。その体制づくりのため、防災監として元自衛官の北島さんが入庁。さらに2庁舎間で、週1回のオンライン定例会議を開始したという。

ところが標高400~500m級の山に囲まれた地形のためか、インターネットの接続品質が悪く、オンライン会議が頻繁に途切れることが判明。総務・防災課の江口さんは「平時でこの状態ならば、発災時にはさらにつながりにくくなるでしょう。確実に接続できるシステムを求め、『フィールド映像コミュニケーションシステム(以下、フィールド映像CS)』の導入を検討することになりました」と振り返る。

災害対応特化型システムで“本当に役立つ”体制を構築。

令和3年、同市はフィールド映像CSの可搬型デモ機を2機借り受け、両庁舎で試用を開始。定例会議に活用したところ、それまでとは比較にならない接続の安定性と、映像・音声品質の高さが実感できたという。これにより体制づくりは順調に進み、同年4月には模擬本部を立ち上げて、2庁舎間で同システムを使った防災訓練を実施。「以前は、会議のたびにパソコンの設定や接続に手間取っていたのですが、このシステムの場合、テレビのリモコン操作と同程度の手軽さで、誰でもすぐに会話が始められます。この操作性なら、一刻を争う発災時にも使えると納得しました」。

その後、梅雨入り前の6月に正式採用を決定。塩田庁舎の総務・防災課がある2階エレベータ乗降口横のオープンスペースには“据え置き型”システムと専用モバイル端末(以下、専用スマホ)を、嬉野庁舎には“可搬型”システムを配備し、いつでもつなげられるよう準備したという。同市を豪雨が襲ったのは、なんと、そのわずか2カ月後であった。

未曾有の豪雨にも、安定した情報共有体制で対応する。

日本列島周辺に停滞した前線の影響で、8月11日から1週間以上、断続的に非常に激しい雨が降り続いた佐賀県。県内で総雨量が最も多かった同市では、雨が降り始めてすぐに、塩田庁舎に災害対策本部を設置。徐々に被害が拡大する中、フィールド映像CSの通信は安定していたため、2庁舎間のシステムを、9日間にわたって24時間接続していたという。同市にとってこれまでに経験のない未曽有の豪雨だったが、訓練を活かし、常に情報収集・共有できる体制を敷いて、多発する被害に迅速に対応していった。

防災監である北島さんは、「大規模災害時には、状況に応じて優先順位を決め、どの情報を何に活かすかというシナリオが必要です。今回の豪雨災害では、これまでの準備をもとに、必要な情報や市長からの指示内容を関係者に伝達することができました」と話す。

オープンスペースの本部が、庁舎被災中も機動力を発揮。

14日未明には線状降水帯が発生し、「大雨特別警報」が発表された。この時点で同市内の総雨量は1,000mmに達し、塩田庁舎の周辺道路が冠水。地下駐車場も浸水するなど、本部への人の出入りが困難に。さらにこのタイミングで、河川排水機場のポンプが浸水により停止する危険性があると、嬉野庁舎より知らせが入った。浸水被害拡大の可能性が高まり、周辺住民へ避難を呼び掛けねばならない緊急事態だった。

そうした中、エレベータ横に据え置き型システムを配備し、“ここが本部用スペース”と決めていた同庁舎の体制が活かされた。「被害の情報や、各課や県とのやりとりは、全てオープンスペースにある本部に集まります。1~3階からも行き来しやすい位置ですから、庁内に残る職員や嬉野庁舎側と、必要に応じてすぐに対策会議が行えました」。

周辺7地区への避難指示は、緊急開催された対策会議からわずか30分以内で、迅速に発令することができたという。発災してから本部を立ち上げるのではなく、本部用の設備・スペースを“常設”し、通信システムを含めて平時から体制を構築しておくことの重要性を物語る、好例といえるだろう。

いつでも対策本部として活用できるよう、庁舎2階のエレベータ乗降口横にシステム本体とディスプレイ、専用カメラなどを設置している。
 

双方向通信だからこそ防げた、二度手間や意志決定の遅れ。

雨が小康状態となった16日以降、被害状況の詳細を確認するため、専用スマホを持った職員2人が、各地を動画で撮影してまわった。対策本部は、その映像をリアルタイムで確認しながら指示を出し、対策会議を行ったという。

「従来の、写真を本部に持ち帰ってから確認する方法だと、“もう少し川上側が写っていないと全体の状況が分かりにくい”などの理由で二度手間になったり、判断が遅れたりしがちでした。今回はその心配がなく、会議に参加していた市長も現地の市民に励ましの言葉をかけるなど、リアルタイムコミュニケーションの有効性を実感したようです」。

対策本部のディスプレイを介して、職員間で被災現場の状況をリアルタイム共有。市長も同席して状況を把握。

ICT活用による情報発信で、“自助・共助”の仕組み化を。

今後に向けて、専用スマホの台数追加やドローン導入により、職員が立ち入りにくい被災現場も撮影できる体制づくりを検討している同市。今回の災害対応の振り返りを次に活かすため、詳細な反省項目リストをまとめるなど、防災対策の強化に余念がない。

「本市は“誰一人取り残さない防災”の実現を目標としていますが、2040年には人口の40%以上が65歳以上となる現実を考えると、道のりは険しいと思われます。公助の限界を見据えて、ICTの活用を核としながら“自助と共助”の仕組みをつくらなければなりません」と江口さん。「誰もが安心して住み続けられるまちづくりを目指し、市民の皆さんに時間をかけて説明していきます」。

備えのポイント課題解決のヒント&アイデア

1.すぐに対応できるよう平時から体制を整備

いつ発生するかの予想が難しい自然災害。発災時すぐに対応できるよう、災害対策本部用のスペース確保や課ごとの役割分担決定はもちろん、必要な通信システムも、スイッチ1つで使えるよう日頃から備えていた。

2.本部被災も想定した情報共有体制を構築

リアルタイムでの情報共有が重要なのは当然だが、そのための災害対策本部が被災する可能性もある。そうした万が一の場合を想定し、情報共有システムを管理・コントロールできる拠点は、複数箇所に分散設置すべき。

3.“次”に活かすため反省・改善点の抽出

刻々と変化する被災状況への対応は、事前の準備はもちろん、“経験値”が活きる場面も多々ある。どのような状況に対してどんな行動を起こし、その結果がどうだったかの記録を確実に残して集約し、改善点などを洗い出しておく。

迅速さと機動力を備えた“持ち運べる対策本部”
いざというとき、臨機応変な対応を可能にする通信システム

「フィールド映像コミュニケーションシステム」は、本部内もパニックに陥りがちな発災時、現場の状況を早く、正確に把握し、適切な対応を行うためのツールだ。本部と関連部署、現場を“すぐに・簡単に”専用回線でつなぎ、迅速なオペレーションをサポートする。

【開発者インタビュー】
状況を迅速・正確に把握できるシステムで、リーダーの“意思決定”を支えたい。

NTTビジネスソリューションズ
鹿児島ビジネス営業部
窪田 和也(くぼた かずや)さん

システム開発のきっかけとなったのは、平成29年7月の九州北部豪雨です。それまでもNTTグループは、台風や大雨による被害が頻発する九州で、基地局や通信回線をいち早く復旧させるため、様々なノウハウを蓄積してきました。前述の災害時には、被災地域の広さや二次災害の危険性を鑑み、ドローンを使った災害状況確認を初試行したのです。

当初、空撮データを本部に持ち帰って再生していましたが、情報共有を迅速化するため、ビデオ会議システムと連携させる手法を発案。リアルタイムで映像を確認しながら指示を出せる双方向のシステムならば、発災時の初動対応で、より役立てられるのではと考えました。さらに被災地では、AC電源が取れない、インターネットにつながらない、通信機器に詳しい職員が本部に集合できない……といった状況に陥ることも。そのため、専用通信回線とLGWANなど、複数回線を併用できるシステム一式を、バッテリーとともに持ち運べるサイズのケースに収め、スイッチ1つで誰でもすぐに立ち上げられる初号機を完成させました。

その後、熊本地震を機に防災に力を入れている熊本市や、首都直下型地震に備えて避難シミュレーションを行っている新宿区など、15カ所以上の避難訓練や実証実験を経て、現在もシステムの改良を続けています。

“72時間の壁”という言葉があるように、災害時の人命救助は時間との闘いです。避難指示などの決定権をもつ自治体首長や幹部職員をはじめ、消防署員、自衛隊員など多くの関係者が、迅速かつ確実に情報を共有できる体制を整えることが重要です。通信システムは、その命綱となります。今後もドローンの利用サポートなど、サービスを拡充させていく予定です。

災害用通信システム選定のポイント

●簡単・シンプルであること

発災時、被災現場はもちろん対策本部でも混乱が予想される。セッティングに手間取るシステムでは“いざ”に間に合わないことも。簡単に使える、シンプルなシステムであることが重要。

●独立して使えること

災害時は、広域で停電したり、ネットワークが不安定になることは珍しくない。ポータブル電源や、独自ネットワークを含む複数回線への接続機能などを備えた、“独立型”システムを選んでおく。

●音声・映像が高品質であること

ビデオ会議システムは多数あるが、音声・映像が途切れたり接続が不安定になったりすると、正しい情報を迅速に伝えられない。ストレスなく情報共有できてこそ、“本当に使える”システムといえる。

自治体にデモ機を貸出中!

災害対策システム導入を検討中の自治体向けに、デモ機の貸し出しが可能です。期間や機器の構成内容もご相談ください。

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