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【セミナーレポート】“想定外”の災害から住民を守る「手元へ届く」情報発信と地域連携

高齢化が進み、近所づきあいや自治体職員の数も減少するなか、「災害時に誰が要支援者を支えるのか」「有事の情報を住民全員にどう届けるのか」に頭を悩ませている自治体職員は少なくないのではないでしょうか。そこで本セミナーでは、跡見学園女子大学の鍵屋一さんによる「個別避難計画」づくりの視点と、スパイラルローキャス株式会社の柴田さんによる自治会向け情報アプリ「CHIKUWA!」の活用事例を通じて、日常のつながりを災害時の共助へとつなげるヒントをお伝えします。
概要
■テーマ:“想定外”の災害から住民を守る「手元へ届く」情報発信と地域連携
■実施日:2026年7月9日(木)14:00〜15:10(オンライン/Zoom)
■参加対象:自治体職員
■申込者数:95名
災害時「も」安全安心な新たな共助づくり―情報を届け、つながりをつくる自治体の役割―
第1部に登壇したのは、跡見学園女子大学の鍵屋一さん。「ナマハゲ台帳」を現代の個別避難計画に重ねながら、高齢化と近所づきあいの希薄化が進む社会において、支援者の負担を抑えつつ要支援者とのつながりを築く「個別避難計画」づくりの視点についてお話いただいた。

【講師】
跡見学園女子大学 観光コミュニティ学部 教授
一般社団法人 危機管理教育研究所 主席研究員
鍵屋 一 さん
板橋区福祉部長、危機管理担当部長を経て現職。内閣府「被災者支援のあり方検討会」座長、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、日本災害福祉研究会共同代表など。著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』『だれでも防災』(監修)など。
ナマハゲの知恵を、共助のかたちとして捉える
まず皆さんに、私の地元である秋田県男鹿市の自慢を1つさせてください。男鹿市といえば、ユネスコの無形文化遺産にも登録されている「ナマハゲ」で知られる土地です。大晦日の夜、鬼の面をつけた若者が家々を回り、子どもに向かって「泣ぐ子はいねがー」と迫る、あの行事です。子どもにとっては恐ろしい存在ですが、実はこのナマハゲ、単なる伝統行事にとどまらない役割を担っています。
ナマハゲは平時には五穀豊穣や家内安全を祈る来訪神ですが、災害時には「ナマハゲ台帳」と呼ばれる記録に基づいて避難支援を行う存在でもあります。ナマハゲ役を務めるのは町内会の役員や消防団員、福祉関係者、役所の職員など、地域の中の頼れる大人たちです。家を訪ねた際、親が「うちのばあさんは最近足腰が弱ってきて」といった話をすれば、ナマハゲはその情報を自然に共有し、神社に戻って仲間に伝えます。これは実質的に、避難行動要支援者名簿と同じ機能を果たしており、しかも毎年家庭を訪問するため、情報が自然に更新される仕組みまで内蔵されているのです。避難場所である神社は津波の心配のない安全な高台にあることが多く、まさに現代の個別避難計画の原型と言えます。

社会の脆弱性を、数字から捉え直す
一方で、社会の状況は大きく変わりました。75歳以上の人口はこの30年で約3倍に増え、要介護認定を受けている方の日常生活動作をみると、自分で入浴できない人が7割を超え、階段の昇り降りができない人は8割に上ります。
障がい者数もこの25年で6割以上増加しました。その一方、近所付き合いが「親しい」と答える人は1997年の4割超から2025年には8.5%まで落ち込み、自治体職員数も30年で14%減少しています。つまり、支えを必要とする人が増える一方で、支える側の力は弱くなっているのです。これが「社会の脆弱性」の実態です。

個別避難計画は、支援者の負担軽減から考える
東日本大震災の犠牲者は高齢者が約6割、障がい者の死亡率は健常者の約2倍という結果が出ています。また、内閣府の調査では、自力で避難できなかった人を実際に助けたのは、1位が家族・同居者、2位が近所・友人、3位が福祉関係者でした。特に一人暮らしの方にとっては、近所や福祉の支援力が命綱になります。

この教訓から生まれたのが「個別避難計画」です。避難の「いつ・どこに・誰と・どうやって」を事前に決めておくもので、優先度が高いのは、ハザードマップ上のリスクが高い方、本人の要支援度が高い方、そして支援者の支援力が乏しい方です。この見極めには、地域住民だけでなく福祉の専門職の関わりが欠かせません。
支援者側の負担を軽くする工夫も重要です。「一緒に避難する」ことまで求めると負担感が大きくなるため、まずは「安否確認の連絡をするだけ」でよいとし、一人の要支援者に複数の支援者を配置し、避難誘導は個人ではなく自主防災会や町内会といった組織名で担ってもらうのが現実的です。実際に、震災前に津波避難訓練へ参加した経験がある人は、ない人に比べて避難したオッズ比が1.99倍、浸水域内では3.46倍という研究結果もあります。2022年に酒田市で行われた訓練では、95歳のご主人と86歳の奥様が支援者とともに避難する様子が確認され、約1年後の能登半島地震で実際に同じ形で避難ができたという事例も紹介されました。
声かけの関係づくりから、避難の実効性を高める
ただし、通常の防災訓練は、運営する自治会役員には大きな負担があり、高齢者や障がいのある方にとっても「会場で居場所がない」「つまらない」と感じられがちです。そこで岡崎市で始まったのが「ひなんさんぽ」です。

天気の良い日に、要支援者と地域住民が一緒に避難路を散歩感覚で歩くというもので、男鹿市の五里合地区でも実践されています。避難する気配のないおしゃべりの様子そのものが実は貴重な情報であり、歩けない方が見送りに出てきてくれることからも、誰が自力で動けて誰が車での送迎が必要かが自然にわかります。

振り返りの場では、和菓子とお茶を交えながら個別避難計画を作成することで、堅苦しさのない雰囲気づくりが功を奏しています。
個別避難計画は、完成度そのものよりも、作成のプロセスを通じてつながりを生むことに意味があります。西日本豪雨での広島県の調査では、実際に避難した人は全体の約3割にとどまり、避難しなかった理由の多くは「自分は大丈夫だと思った」という正常化の偏見でした。逆に避難した人の多くは「隣の人が避難するのを見た」「近所の人に声をかけられた」ことがきっかけでした。声かけの関係を平時からつくっておくことが、いざという時の避難率を左右するのです。
日常から防災まで!地域情報アプリの活用法とは?
第2部に登壇したのは、スパイラルローキャス株式会社の柴田さん。自治会・町内会運営支援システム「CHIKUWA!」を活用し、世帯登録率94%を実現した自治会の事例をもとに、日常のつながりが有事の情報伝達力に直結する仕組みづくりについてお話いただいた。

【講師】
スパイラルローキャス株式会社
事業推進本部 事業推進部 マネージャー
柴田 章宏 さん
自治会DXの企画から導入支援までを一貫して担当し、CHIKUWA!の事業推進における責任者として従事。自治体や自治会における情報伝達の課題に着目し、現場の実情に根差した提案を得意とする。サービスリリースから約1年で20以上の自治体にCHIKUWA!を導入した豊富な経験を持つ。
自治会離れが進む背景を、まず整理する
スパイラルローキャス株式会社は、愛知県名古屋市に本社を置き、自治体向けに情報共有ソリューションを提供する企業です。住民向け一斉配信システム「すぐメールPlus+」や、教育現場向け連絡システム「すぐーる」なども手がけており、本日の主役である自治会・町内会運営支援システム「CHIKUWA!」は、これらと連携しながら地域の情報伝達を支える仕組みの1つです。
自治会・町内会の運営は昭和15年に始まった隣組制度が起源とされ、紙の回覧板という情報伝達の手法は今も大きく変わっていません。スマートフォンが普及した令和の時代にあっても、このアナログな伝達負担が原因で若年層の自治会離れが進み、組織の高齢化を招いています。有事の際に本来必要な「隣近所で声をかけ合う」関係も希薄になりつつあり、多くの自治体では「デジタル化の必要性はわかっていても、どう進めればよいかわからない」という声が課題として挙がっています。

CHIKUWA!が目指す、3つの情報共有のかたち
こうした課題に応えるために生まれたのがCHIKUWA!です。
CHIKUWA!は自治体と自治会が共同で利用することを前提に設計されており、3つのポイントで自治体・地域のニーズに応えます。1つ目は、団体への加入・未加入を問わず全住民へ確実に情報を届けられること。自治会加入率が下がる中でも、有事の情報はすべての住民に行き渡らせる必要があります。2つ目は、自治会だけでなく自主防災組織・消防団・民生委員など、地域で特定の役割を持つ関係者との双方向の連携が実現できること。3つ目は、継続的に活用できる仕組みであることです。一般的な自治体アプリの普及率は10〜20%で伸び悩むケースが多い一方、CHIKUWA!は日常の回覧板や団体内の連絡ツールとして使われることで、自然と登録が進み、いざという時にも迷わず使える状態がつくられます。

情報の流れは大きく3つのルートに分かれます。

1つ目は自治体から全住民への発信で、緊急度に応じてサイレンをアプリ上で鳴らしたり、テキストを自動音声で読み上げたりする機能のほか、最新の警戒レベル表示、外国人住民向けの自動翻訳機能も標準で備わっています。2つ目は自治体と自治会・民生委員・消防団・自主防災組織といった団体管理者との連絡で、これまで電話が中心だったやり取りをアプリでスムーズな双方向連絡に置き換えます。3つ目は団体内での日常的な連絡で、団体管理者から会員への回覧などに使われます。この3つのルートが日常的に使われることで、自治体独自のアプリにありがちな「登録者が伸び悩む」という課題を根本から解決できます。
世帯登録率94%という結果に至った道のり
実際の活用事例として、CHIKUWA!導入から世帯登録率94%を達成した自治会を紹介します。この地域は大きな河川が近くを流れ、常に災害リスクを抱えていましたが、市町村合併に伴うコスト面の事情で防災無線が廃止され、その後に残っていた個別受信機も老朽化により使えなくなり、緊急情報を伝える手段を完全に失っていました。

そのため、災害等の連絡手段が失われるという懸念から、自治体で導入したCHIKUWA!を積極活用することにしました。まず250世帯全戸にチラシを配布したところ、危機感の高まりもあって約半数が登録し、残る半数については自治会役員35名が手分けをして各戸を訪問し、その場で登録をサポートしました。この「伴走支援」により、わずか1年で94%という登録率を達成しています。

なお、スマートフォンを持たない残り6%の世帯には、無理にアプリを勧めず、従来通り紙の回覧や声かけでフォローを続けているとのことです。
導入後に見えてきた、現場の変化
導入効果としては、

まず自治体アプリで多くの自治体が悩む「登録者が伸びない」という壁を突破できたこと、次に毎月200部以上の印刷・配布負担がなくなり自治会のコストと労力が大きく削減されたこと、そしてクマの出没情報などの緊急情報をタイムリーに住民へ届けられるようになったことが挙げられます。行事の雨天中止連絡や前日リマインドなども簡単に配信できるようになり、運営の安心感が格段に高まったという声も紹介されました。
アプリの実際の画面としては、住民は地域とニックネームを登録するだけで利用開始でき、個人情報を細かく入力する必要がないため心理的なハードルが低いのが特徴です。団体会員は配布された団体番号を入力するだけで、自治会内専用の画面に切り替わります。機能面では、連絡を受け取る「回覧板」、関係者間で話し合う「相談グループ」、資料を保管する「共有資料」などがあり、

高齢者でも直感的に操作できるよう大きなボタン配置になっています。安否確認機能も備え、地域の防災訓練などで平時から使い慣れておくことで、災害時にも迷わず使える体制づくりにつながります。
【Q&A】当日寄せられた質問より
Q. 登録できるアカウント数に制限はありますか?
A. 自治体単位・自治会単位でのアカウント数に上限は設けておらず、住民の登録数に応じた制限はございません。
Q. LINEなど既存のチャットツールとの違いは何ですか?
A. LINEのような汎用チャットとは異なり、自治体・自治会・住民という三者の情報伝達を目的別(回覧板・相談グループ・共有資料など)に整理できる点、また自治体からの一斉配信や警戒レベル表示など防災に特化した機能を標準搭載している点が異なります。
Q. 多言語対応は具体的にどこまで対応していますか?
A. 自治体から配信するお知らせについて、アプリ上で自動翻訳表示ができる機能を備えています。対応言語の詳細については個別にお問い合わせいただければ、担当より詳しくご案内いたします。
















