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相手が無理なく動けるように、面倒なことを簡単にする。

インタビュー|現場で活用できる「ナッジ」の基本や魅力
“案内を送っても反応がない”“期限までに手続きをしてくれない”など、住民に行動を促す難しさに現場の悩みは尽きないという。その打開策として近年注目されているナッジについて、PolicyGarageで活動する2人に話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.44(2026年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

最初は、小さな一歩からで構いません。
伊豆 勇紀(いず ゆうき)さん
宮城県職員。働き方改革の業務を機にナッジに注目。PolicyGarageでは、自治体のナッジ事例の情報収集や実践するまでに苦労した自身の経験を活かし、WEBサイト「自治体ナッジシェア」を構築。

情報を絞り、簡単にすることが大切です。
金子 万利奈(かねこ まりな)さん
岡山県岡山市職員。新規事業の壁にぶつかった経験から、ナッジを学びはじめる。本場イギリスでの現地調査を経て、「岡山市行動デザインStudio」を設立。PolicyGarageでも行動デザインの普及に取り組む。


Q. 最近よく聞くナッジとはそもそも何ですか?
金子:住民に対して、“税金を期限内に納めてほしい”“健診を受けてほしい”など、行動を促したい場面は数多くあります。職員同士でも、他部署に照会した内容の回答をもらいたい場面などが日常的にありますよね。そんなときに相手を無理に動かそうとするのではなく、後ろからツンツンと押すように、自然な行動を促すのがナッジです。“頭では分かっているけれど、どうしてもできない”というギャップを、負担をかけずそっと埋めてあげるコツのようなものだと感じています。
伊豆:いざ案内を送る際、自治体職員は間違えてはいけないという意識から、つい細かい情報や注意書きを詰め込みがちです。でも、情報量が多すぎると正しくても伝わりにくく、行動変容は起こりにくいですよね。そもそも人は、面倒くさい、後まわしにしたいという心理をもっています。この心理的なハードルを取り除き、“正しい情報”と“伝わる情報”のギャップを埋めるのがナッジの役割です。いつ・どこで・何をしてほしいのかをシンプルに伝え、行動につなげているのです。


Q. ナッジを活用することで期待できるメリットは?
伊豆:住民への情報発信にナッジの視点を取り入れて工夫すれば、“回答用紙に記入してポストに入れる”“日時を選んで予約の電話をする”など、具体的に何をすればいいかが分かりやすくなります。自治体から届いた複雑な案内を読み解くストレスがなくなり、分からないから窓口に向かう手間が省けるでしょう。そうすることで住民の“分からない”が減れば問い合わせの電話が鳴らなくなり、職員も仕事の手を止めなくて済みます。督促などの精神的負担の軽減につながることは、大きなメリットではないでしょうか。
金子:ナッジでは、面倒くさいことを“簡単にする”ことが大切です。福祉や子育てなど、本当に行政サービスを必要とする人ほど、文字だらけのお知らせを読み解く時間や心の余裕がありません。情報をパッと見て分かるように改善できれば、そのような人たちにも情報を届けやすくなります。相手に負担をかけない思いやりの視点に立てることも、ナッジのいい点だと感じています。
Q. 実践への第一歩と、よくある失敗例は?
金子:自分の手の届く範囲から、小さく始めてみるといいと思います。例えばメールを送るときは、予定の確認や返信をお願いするなど、相手に何かしてほしい場面が多いですよね。締め切りを冒頭に書いたり、依頼事項を箇条書きにしたりするだけでも、反応は変わるでしょう。本格的にナッジに取り組む場合はまず、誰に何をしてほしいのかを明確化します。具体的な行動レベルまで分解すると、相手がどこでつまずいているのかが見えてきます。そこから「EAST(※)」のフレームワークを使い、行動の壁を取り除いていくのです。ただし、要素を盛り込みすぎると失敗につながる可能性があります。住民にとって“簡単であること”を大切にして、本当に必要な情報だけに絞ることが重要です。
伊豆:失敗しやすい例として注意したいのが、不快感を与えてしまう伝え方です。例えば、禁煙してほしいという情報発信をする場合、“たばこは百害あって一利なし”と強く否定すると、逆効果になりかねないことが研究で分かっています。行政として過度な表現にならないよう配慮することが大切ですね。
※行動をデザインするための4つの視点。Easy(簡単に)・Attractive(魅力的に)・Social(社会的に)・Timely(タイムリーに)。

Q. ナッジがもつ魅力と自身の支えにする方法は?
金子:ナッジは、福祉や税務など様々な分野で使えるポータブルスキルである点が魅力です。キャリアを支えるお守りのような存在で、次のフィールドでも使えると思うと、異動の不安も和らぎます。“いい社会にしたい”と願う職員は多いと思いますが、多忙な業務の中では目の前のことにとらわれがちです。ナッジを学ぶことは“住民の立場を想像する力”を磨き直すことだと思います。相手を想像し、そっと手助けをする。それをデザインに落とし込めば、立派なナッジです。より深く学びたい人のために、伊豆さんが立ち上げたWEBサイト「自治体ナッジシェア」では「行動デザインワークブック」を公開しています。現場の課題をワークシートに書き出しながら、実践のステップを具体的に学べるので、最初の一歩の助けになればうれしいです。
伊豆:チラシやはがきの文面を少し変えるなど、普段の仕事の範囲内で実践できますし、自分の小さな創意工夫で、相手の反応が変わることが大きな魅力です。若いうちから大きな政策を立案して推進する機会は、決して多くありませんよね。ナッジで小さな成功体験を積み重ねることは仕事のやりがいになり、やがてレベルアップにもつながります。ナッジの本質は、公務員が本来もっている“相手への思いやり”を形にすること。まずは不要な文言を引き算してみるだけでも構いません。ナッジで行動が変わる面白さを、ぜひ体験してほしいです。


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