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公開日:2024-07-05

【明日からできる!調整力の高め方#6】町会・自治会との調整(後編)

防災・危機管理
読了まで:7分
【明日からできる!調整力の高め方#6】町会・自治会との調整(後編)

ようやく動き出した企画が、各所との調整が難航した結果、実行できなかった……。こういった経験をもつ人はいるのではないだろうか。このような場面を乗りこえるためには、効果的な“調整力”が必要だが、具体的にどう身に付けていけばいいか、悩む人も多いだろう。

今回は、前編に引き続き、住民自治の基礎ともいえる町会・自治会との調整について、元足立区教育長の定野 司さんに教えてもらった。

【連載】『合意を生み出す!公務員の調整術』(学陽書房)からご紹介

第1回 上司から学んだ交渉術とは
第2回 調整の目的はヒトを動かすこと 
第3回 合意を生み出すための作法(調整の原則)  
第4回 組織における内部調整の進め方
第5回 町会・自治会との調整(前編)
第6回 町会・自治会との調整(後編) ←今回はココ

※掲載情報は公開日時点のものです

解説するのはこの方
文教大学(経営学部)客員教授
定野 司 /(さだの つかさ)さん


1979年、東京都足立区に入区。2002年の財政課長時代に導入した「包括予算制度」が、経済財政諮問会議の視察を受け注目を浴びる。以来、一貫して予算制度改革やコスト分析による行政改革を実践。2008年から自治体の事業仕分けに参加。2012年、多くの自治体と共同して新しい外部化の手法を検討する「日本公共サービス研究会」の発足・運営に携わる。

2015年から2期6年間、足立区教育長を務め、学力向上、特別支援教育、不登校対策に力を注いだ。2021年より現職。2022年、持続可能な自治体運営と、幸せな合意形成の実現を目指す「新しい自治体財政を考える研究会」の代表理事を務める。
著書に『合意を生み出す!公務員の調整術』『マンガでわかる自治体予算のリアル』(学陽書房)などがある。

自主防災組織とは。

伊勢湾台風(昭和34年)を契機につくられた「災害対策基本法」の基本理念の一つに「住民一人一人が自ら行う防災活動及び自主防災組織(住民の隣保協同の精神に基づく自発的な防災組織をいう)その他の地域における多様な主体が自発的に行う防災活動を促進すること」が掲げられています。

“隣保協同の精神”とは、隣近所の人々が日常のつながりの中で、役割を分担しながら、力と心を合わせて助け合うことであり、この自主防災組織に町会・自治会が想定されていることは明らかです。

また、過去の大規模災害発生時、公助による支援が間に合わない、届かない切迫した状況下で、町会・自治会の活躍によって被害を最小限に止めることができた地域があったのも事実です。

このように、“互助”を“共助”のレベルに上げなければ、命を守ることができないのが災害対策の現実です。

地縁による団体とは。

町会・自治会の役割が極めて大きいのに対して、法的位置付けは極めてあいまいです。その理由が「ポツダム政令第15号」にあることは、前編で述べたとおりです。

町会・自治会は、民法上は“権利能力なき社団”です。社団とは、人の集合(団体)のことです。法人格をもたない社団は、団体名義で不動産登記や銀行取引ができないなど、権利能力において制約があります。

マンションの管理組合やPTAなども、この“権利能力なき社団”です。“任意団体”と呼ばれることもありますが、厳密には違いがあるので、最高裁の判例(昭和39年10月15日)を引用します。

-------------------------------------------------
① 団体としての組織を備えていること。
② 多数決の原則が行われること。
③ 構成員の変更にかかわらず団体が存続すること。
④ その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等が団体として主要な点が確定していること。

-------------------------------------------------

平成3年の自治法改正によって、町会・自治会は、「町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体(地縁による団体)」と規定され、市町村長の認可を受けて法人格を取得し、団体名義で不動産登記などを行うことができるようになりました。

現在、認可を受けた“地縁による団体”は少数ですが、地縁による団体が法律上規定されたことには、大きな意義があります。自治法上の地縁による団体の要件とは、次の通りです。

-------------------------------------------------
① その区域の住民相互の連絡、環境の整備、集会施設の維持管理等、良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし、現にその活動を行っていると認められること。

② その区域が、住民にとって客観的に明らかなものとして定められていること。

③ その区域に住所を有する全ての個人は、構成員となることができるものとし、その相当数(区域内の住民の過半数以上)の者が現に構成員になっていること。

④ 規約に、目的、名称、区域、事務所の所在地、構成員の資格に関する事項、代表者に関する事項、会議に関する事項、資産に関する事項が定められていること。

-------------------------------------------------

したがって、老人クラブ、婦人会のように年齢、性別等が限定される団体、PTAやスポーツ愛好会のように目的が特定される団体は、自治法上の地縁による団体ではありません。

また、町会・自治会は地域に一つしかない地縁による団体です。従って、全世帯が加入することが前提であり、民主的な運営が期待され、その活動も包括的で、どんな地域課題でも取り上げ対処することができます。

このように、町会・自治会は市町村議会に似ていますが法的権限がありません。

町会・自治会は行政の下請け機関ではない。

自治法施行前の部落会※・町内会は市町村長の支配に属し、行政の末端組織でした。しかし、現行法では、“地縁による団体”とされているだけで、町会・自治会は行政の下請け機関ではなく、行政に従う義務もありません。
※当時の名称のまま掲載しています

このことを忘れて町会・自治会との調整はありません。行政からすれば、住民の意見を聞き、それを施策に反映するためにも、地元の受け皿が必要です。
住民の意見を聞く手段の一つとしてパブリック・コメントがありますが、そこに寄せられる声は住民を代表するものではありません。

そんなとき、町会・自治会は議会を除けば、住民の声を民主的に拾える唯一の機関です。公共施設を建設する、あるいは廃止するような場合、地元住民との意見交換にも重要な機能を果たしています。

一方、個々の住民は弱い存在です。住民が自治体や企業など大きな権力に立ち向かうには、団結するしか方法はありません。その核になり得るのも町会・自治会なのです。

これまで見てきたように、町会・自治会には長い歴史があり、法律ではなく住民自らの手で守られてきました。まずは、このことに敬意を払って調整にあたりましょう。

担い手不足と非加入者問題を有している。

次に、町会・自治会の一番の課題は、役員の高齢化と担い手不足です。町会・自治会を代表する会長や役員の活動は、無償の奉仕活動です。このことを考えれば、調整の時間や場所の設定も、先方の都合に合わせるのは当然といえるでしょう。

さらに重要なのは、非加入者の存在です。住民の価値観の多様化、近隣関係の希薄化、単身世帯の増加、活動に対する負担感など、理由は様々ですが町会自治会の加入率が低下しています。

それでも、(地域によりますが)60~70%の組織率は、(単純には比較できませんが)首長や議員選挙の投票率と比べても高率です。

もし、町会・自治会が存在しなかったら、関係住民とそれぞれ調整することになり、調整の仕事は何十倍、何百倍にも増えてしまうでしょう。

このように、行政にとって町会・自治会は大切な存在です。町会・自治会との調整の多くは行政からのお願いですが、町会・自治会に対する補助金や委託料の額の引き上げよりも、加入促進や担い手を増やせるような魅力あるものに仕立てることが何よりも重要であり、調整を実りあるものにできるのです。

さて、これまで6回にわたり、自治体職員にとって必要な“調整力”について、その一部を説明してきました。

“調整”は一人では成し得ない、あなたと相手方の共同作業です。互いに相手の状況を理解して初めて共通の目的(利益)が見つかります。そして、後ろ向きに一方的に“譲る”のではなく、共通の目的に向かって、前向きに一緒に“歩み寄る”のです。

この連載がきっかけとなって、皆さんの調整力が向上し、自治体運営の進展に少しでもお役に立つことができれば、これに勝る幸せはありません。

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