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和歌山県有田川町

公開日:2023-05-30

年間約1.5億円の経済効果を生み出す資源の地産地消プロジェクトとは。

環境・エネルギー
読了まで:5分
年間約1.5億円の経済効果を生み出す資源の地産地消プロジェクトとは。

和歌山県中央部に位置する有田川町では、環境と経済を両立した独自の「有田川エコプロジェクト」を推進。町営の小水力発電所や太陽光発電所など再生可能エネルギーが生む経済効果は年間約1.5億円にのぼる。再生可能エネルギーの収益を次のエコ事業に再投資し、さらなる収益を生み出すエコタウンとして、全国から視察が絶えないという。

Interview

和歌山県有田川町(ありだがわちょう)
建設環境部 環境衛生課
課長 平松 紀幸 (ひらまつ のりゆき)さん

徹底したごみの分別・集積によって業務委託費がマイナスに。

平成18年に吉備町・金屋町・清水町の旧3町が合併して誕生した有田川町。前身の旧吉備町では、環境センターの処理能力が限界に達したことから、平成4年頃よりごみの総量削減を検討することになった。

「当時、ごみの徹底分別による資源ごみのリサイクル化とそれに伴い、まちの空き地などを利用して、ごみ集積場となる『ごみステーション』を設置することにしました。徹底分別とごみステーション設置場所の提供には住民理解が必要だったため、職員が自治会を一つひとつまわって対話を繰り返しました」と話すのは、同町環境衛生課の平松さん。

そうして自治会単位でごみステーションを設置。これまで、ごみが道路にはみ出し交通の妨げになることもあったが、同ステーションへの集積と住民側の分別意識の向上によって、品質の良い資源ごみへと変化したという。これまで収集・運搬・処理費に3,200万円かかっていたが、資源ごみの質が評価されたことで受託事業者が200万円を支払う「マイナス入札」となった。

町民の努力によって生み出した貴重な財源を有効活用したいという思いから、平成20年度、2,200万円(処理運搬削減額+マイナス入札額)を原資に、ごみの削減・資源化と再生可能エネルギーの普及を目的とした「低炭素社会づくり推進基金(現:循環型社会の構築と自然エネルギー推進基金)」を設立。太陽光発電設備の導入や生ごみ処理機の補助金制度のほか、コンポストの無償貸与などに活用されている。

ステーション化されたごみ集積場▲ ステーション化されたごみ集積場

▲ 無償貸与のコンポスト

職員発案の「町営小水力発電所」で年間4,000万円以上の売電収入に。

平成21年には、再生可能エネルギー関連事業として「有田川エコプロジェクト」が始動。主に、プラスチック収集場の屋根に太陽光パネルの設置などを行っていたが、以前より、有田川上流に設置されている県営多目的ダムを再生可能エネルギーとして利用する構想も検討されていた。

「このダム(二川ダム)は、下流域の環境維持のために毎秒約0.7tと、お風呂3杯分にも相当する水が放流されています。ここに目を付けた当時の職員が、環境維持放流水を小水力発電(計画最大発電量199㎾h)にして活用すれば、まちの自主財源にもなりCO2も削減できると考えたのです」。こうして、発電所の設置を現町長に直談判。そのアイデアが採用され、全国的にも例のない町営小水力発電所の実現に向けたチャレンジが、同エコプロジェクトの目玉としてスタートした。

しかし、そこに大きな壁が立ちはだかった。法律上、多目的ダムのアロケーション(経営参加するための負担率)は、特定多目的ダム法施行令第2条(分離費用身替り妥当支出法)によるとされている。しかし、環境維持放流施設では過去の省庁間のやりとりを根拠に流量比例によるとされた。施行令による負担率では年間0.2億円で済む負担金だが、流量比例であれば年間3.5億円と、小水力発電所の経営収支が成り立たなくなってしまう。

「施行令による負担率にしてほしいと、担当者が県に何度も掛け合いましたが交渉は難航。しかし、東日本大震災などの自然災害によって再生可能エネルギーが見直されたことをきっかけに、風向きが変わりました。約7年もの歳月をかけて、ようやく県の理解と協力を得て、特定多目的ダム法施行令第2条(分離費用身替り妥当支出法)による持分負担が認められました」。

こうして、平成28年2月に念願の「二川小水力発電所」が竣工。今日、同発電所で年間約4,000万円以上もの売電収入を生み出しており、約2.8億円かかった総工費用はわずか7年で回収できたという。

二川小水力発電所▲ 二川小水力発電所

再生可能エネルギーの収益をさらなるエコ事業に再投資する。

小水力発電をはじめ、ソーラーパネルによる太陽光発電設備補助などにより、再生可能エネルギーの経済効果は年間約1.5億円※にまでのぼったという同町。有田川エコプロジェクトによる、再生可能エネルギーの売電益は、毎年約5,000万円にものぼり、「循環型社会の構築と自然エネルギー推進基金」に積み立てられ、太陽光発電システムの設置、オフグリッド型の発電設備設置以外にも、防犯灯のLED化、ごみステーションの維持管理費、ごみ分別の啓発パンフレット制作など各施策に活用されている。

「基金の財源があるからこそ、まずモデル事業を実施して、うまくいったら横展開するというアクションが可能になっています」。エコ事業で生み出した財源で新たなエコ事業に投資し、さらなる財源を生み出す……という地産地消の経済循環を、まち全体で確立している。

その好循環をまわす原動力は、旧吉備町時代から継承されてきた住民の高いエコ意識だろう。「先日、まちが回収したごみは分別が不十分だったのでは?と、逆に私たちが住民から注意されることもあります」と平松さん。現在も毎月の広報紙のページ分を「環境衛生だより」に割き、ごみ処理量の推移や分別の注意点を知らせるなど、啓発に努めている。この地道な積み重ねによって、住民のエコ意識が醸成されている。    

「有田川が育む豊かな自然を守っていきたい、という思いが、旧吉備町時代からのごみ削減の原点です。この思いを次世代の町民にも継承していきたいですね」。

※令和2年「数字で見る「有田川エコプロジェクト」より

課題解決のヒントとアイデア

1.使途をエコ事業に限定した基金創設が経済循環モデルを確立

「マイナス入札」による2,200万円の財源を一般会計の雑収入とせず、ごみの削減・資源化と再生可能エネルギーの普及を目的とした基金の原資とした。あえて使途を限定したことで、エコ事業による収入を次のエコ事業に再投資する地産地消の経済循環モデルが確立された。

2.小規模自治体でも、アイデアと熱意があれば自主財源を生み出せる

1人の職員の発案と、約7年に及ぶ県との交渉を経て実現した小水力発電所は、年間4,000万円以上もの売電収入をまちにもたらしている。人口減少で税収確保に悩む小規模自治体でも、アイデアと熱意があれば自主財源を生み出せる好例といえるだろう。

3.地道な啓発の積み重ねによる住民のエコ意識がプロジェクトの推進力に

エコプロジェクトの推進力を生んでいるのは住民の高いエコ意識。毎月1ページ分の広報紙での呼びかけなど地道な啓発活動の積み重ねによって、ごみの収集と分別を住民が“自分ごと”として取り組むカルチャーが根づいている。

 

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