ジチタイワークス

「名刺は自分と自治体の分身」佐久間智之さんの広報マインド【前編】

「ジチタイワークス無料名刺」WEB企画。今回は、前編・後編の2回にわたり、自治体広報のプロフェッショナルとして知られる元・埼玉県三芳町職員、PRDESIGN JAPAN 代表取締役の佐久間 智之(さくま ともゆき)さんに「広報×名刺」について語っていただきました。

どの部署に所属していても名刺を持つべき

ー 自治体広報のプロフェッショナルとして知られる佐久間さんですが、公務員時代は名刺を活用されていましたか?
佐久間さん:税務課の固定資産税で5年、健康増進課で介護保険を4年、秘書広報室で広報やプロモーションを9年、独立後に会計年度職員として2年、計20年間の公務員生活を送ってきましたが、名刺交換を始めたのは秘書広報室に異動してからでした。

ー 秘書広報室に異動するまで、業務で名刺を使うことは少なかったのですか?
佐久間さん:税務課や健康増進課のときは近隣の職員との交流がメインだったため、名刺がなくても不自由を感じることはありませんでした。県の研修や広域での集まりがあっても、首から提げた名札をお互いに見せてあいさつするくらい。職員の方々の多くは、大体こんな感じではないでしょうか。

ー やはり、公務員の方々にとって名刺は必要性が低いのでしょうか...。
佐久間さん:残念なことに、ほとんどの自治体では名刺を支給されないので、自腹で用意せざるを得ません。ほかの自治体とそれほど交流がない部署で名刺をつくる職員は少ないのが現実です。さらに「メールやSNSで交流があるから名刺は不要だ」と思っている方も多いと思います。
実は、私もそう考えるタイプでした。でも、今はとても後悔しているんです。なぜなら、公務員こそ「どの部署に所属していても名刺を持つべき」と気づいたからです。

ー  どういうことでしょうか?
佐久間さん:公務員は異動がつきものです。「せっかく名刺をつくっても翌年度に異動するかもしれないから」という理由で名刺をつくらないケースは少なくありませんし、気持ちはよく分かります。ただ、「名刺は不要」と自分が思っていたとしても、相手はどうでしょうか。
例えば、住民課や福祉課など、あまり名刺が必要とされていない部署に所属していたとします。でも、ほかの自治体との集まりがあったときに名刺を持っていなかったら、口頭だけの紹介になりますし、後で何か聞きたいときに連絡先が分かるものがなければ相手は不便ですよね。

ー 具体的には、どんな不便さがあるのでしょうか?
佐久間さん:名刺がなくて口頭だけで紹介する場合、名前はギリギリ覚えていたとしても、電話番号やメールアドレスなどの情報は自分で探す必要があります。直通ではなく代表番号にかけざるを得なかったり、メールアドレスが分からなければ相手の自治体のWEBサイトからその課の代表アドレスを探してからメールしたりといった手間がかかります。

ー 必要なときに情報が手元にない不便さがあるんですね。
佐久間さん:そしてメールの場合、口頭の紹介だけでは漢字が分かりませんよね。渡辺さんなのか渡邊さんなのか、金沢さんなのか金澤さんなのか、田中さんなのか田仲さんなのか分かりません。名前を間違えることは社会人としてあまり好ましくありませんし、心証が悪くなってしまいます。
つまり、相手の気持ちになって考えれば、名刺があった方が便利なんです。公務員にとって名刺は、どの部署に所属していても必要なものだと言えます。

大切なのは「相手の気持ちを考えること」

ー 佐久間さんは、名刺がなかったことで不便な思いをされたことはありますか?
佐久間さん:税務課の固定資産税担当だったとき、研修の打ち上げで仲良くなった人がいました。特に交流はなかったのですが、数年後、ともに異動して広報担当として再会したんです。「佐久間さんですよね!税務課のときはお世話になりました!」といわれたのですが、残念なことに、税務課のときは名刺交換をしていなかったので名前を覚えていませんでした。
名札で名前を確認したかったのですが裏返っていて名前が分からず、「ご無沙汰しております!お久しぶりです!」と可もなく不可もない対応になってしまいました。そんな対応をしてしまったら、相手は「私のことを覚えていないんだな」と思ってしまったはずです。

ー その経験を踏まえて、何か工夫されていることはありますか?
佐久間さん:現在は、名刺をスマホでスキャンしてデータ管理しています。自治体名を入力すれば、名刺交換をしたことのある職員名が瞬時に出てくるんです。名前を思い出せなくても、その場でデータをチェックして「〇〇さん!ご無沙汰しております!」と応えることができます。相手が名前を覚えていてくれたり、名前を呼んであいさつしてくれたりするとうれしいですよね。皆さんも同じように感じるのではないでしょうか。
ほかの自治体と交流がある部署に行ってから名刺を用意するのでは遅いですし、名刺交換の癖をつけておけば、名刺が必要な部署に異動したとき、違和感なく名刺を活用できるはずです。

ー ちなみに、公務員ならではの名刺の活用方法はありますか?
佐久間さん:例えば、ほかの自治体から郵送物が届いたとき、担当者の名刺が添えられているとなんだかうれしい気持ちになりませんか。通知文に担当者名や問い合わせ先が書いてあっても書類として埋もれてしまいますが、名刺として保管できれば、いちいち書類を探さなくても担当者に直接連絡できるので、ありがたい気持ちになると思います。
名刺をつくる側の気持ちではなく、渡す相手の気持ちを考えることが重要なのではないでしょうか。

名刺は「自分と自治体の分身」

ー 佐久間さんは職員の方々と関わる機会が多いと思いますが、名刺のデザインについて感じていることはありますか?
佐久間さん:職員の方々の名刺を5000枚以上いただいてきた私がもらってありがたいのはシンプルな名刺です。名刺のオモテ面は「連絡先を伝えるツール」と考えるべきで、自治体名、名前と読み方、直通または内線番号、メールアドレスがあれば十分です。

ー 情報量が多ければいい、というわけではないんですね。
佐久間さん:今まで「まちの魅力をPRするんだ!」と意気込んでいる名刺をたくさん見てきました。オシャレさを追求しすぎて文字が小さかったり、文字と背景が同化しまってスキャンする際にうまく読み込めなかったりするものもありました。
自治体の広報紙や通知書でも、「あれもこれも載せておこう!」と幕の内弁当のようなものが見受けられます。でも、これは一方的に伝えているだけです。読み手のことを考えておらず、自分が載せたいものを載せているだけの自己満足と言えます。

ー それでは、どんなデザインが効果的だと思いますか?
佐久間さん:私は、名刺を「自分と自治体の分身」だと考えています。表面は、色々な要素を入れたい気持ちをグッとこらえ、シンプルに「自分」の紹介にとどめます。
でも、自治体をPRしたい気持ちは痛いほど分かります。そこで、ウラ面の登場です。

ー ウラ面をどう活用すれば良いのでしょうか?
佐久間さんウラ面は、オモテ面で我慢した想いを存分に表現できる絶好の場所です。私が三芳町にいたときは、ビジュアルを重視し、オススメスポットなどの写真、まちのキャラクターを載せていました。
対面で名刺を交換するとき、受け取った人の多くはウラ面も見ます。その際に「三芳町で蛍が見られるんですね!」「さつまいもが特産品なんですね!」など会話のきっかけになり、「名刺を持っておいてよかった」と思ったことが何度もありました。

ー オモテ面とウラ面で、載せる情報を区別する必要があるんですね。
佐久間さん:オモテ面は「自分」の紹介、ウラ面は「自治体」の紹介とすみ分けることで、相手に伝わりやすい名刺になります。オモテ面に情報を詰め込みすぎるのは避けることをオススメします!

▲佐久間さんが当時使っていた名刺

おわりに

今回は、元・埼玉県三芳町職員、PRDESIGN JAPAN 代表取締役の佐久間 智之さんにお話を伺った前編をお届けしました。
後編では「名刺は時代に逆行しているのか?」などの内容を語っていただいていますので、どうぞお楽しみに!

▶インタビュー後編はコチラ!「必要なのは伝わる名刺」佐久間智之さんの広報マインド【後編】

プロフィール
元・埼玉県三芳町職員
PRDESIGN JAPAN 代表取締役
佐久間 智之(さくま ともゆき)さん

1976年生まれ、東京都出身。埼玉県三芳町で税務、介護保険担当を経て2011年に広報担当に。「広報みよし」が広報コンクールで内閣総理大臣賞を受賞。2020年に退職し、「早稲田大学マニフェスト研究所」の研究員や、「厚生労働省年金広報検討会」構成員のほか、自治体の広報アドバイザーなどを務める。

 

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