ジチタイワークス

兵庫県神戸市

大震災からまもなく25年 神戸市が培った防災力の根源とは

地震、台風、豪雨、火山の噴火…災害列島日本では、どの地域も自然の猛威からは逃れられない。そんな中、自治体はどうすれば地域の被害を食い止められるだろうか。

阪神淡路大震災からまもなく25年、被災経験を土台に、年々変化する災害の中で防災力を高めてきた兵庫県神戸市の取り組みについて、神戸市危機管理室計画担当課長の中山 徹さんに聞いた。

※下記はジチタイワークス防災・危機管理号Vol.2(2019年10月発刊)から抜粋し、記事は取材時のものです。
 [提供] 兵庫県神戸市

平成30年の災害と、神戸市の被害状況

平成30(2018)年は、大きな自然災害が相次いだ年だった。神戸市も例外ではなく、災害が発生するたびに職員は緊急の対応を迫られた。6月に発生した大阪府北部地震は記憶に新しい。朝の通勤時間帯を直撃したことで市民の間でも混乱が広がった。大阪などで見られた大量の帰宅困難者や、エレベーターの停止、ブロック塀の倒壊による不幸な事故などは、メディアでも報じられた通りだ。

また、平成30年7月豪雨では神戸市中央区で466mmの総雨量を記録。これは昭和13(1938)年の阪神大水害を上回る規模で、土砂崩れも100件以上発生した。さらに台風も4度襲来。特に9月に発生した台風21号は通過時に満潮が重なったこともあり潮位は過去最高を記録。港のコンテナが湾内に流出する被害や、海水の一部が防潮堤を越えたり、側溝や川から溢れた水がまちに流入したりする内水被害も発生した。

これらの様々な災害に見舞われたが、神戸市では被害の抑制効果が顕著に現れている。たとえば、前述の阪神大水害の際には死者616人という甚大な被害が出たが、平成30年7月豪雨での死者はゼロだった。

こうした結果は、同市が平成7(1995)年の阪神淡路大震災を経験したこと、そして、それから25年にわたって防災力向上に努めてきたからに他ならない。では、具体的にどのような取り組みをしてきたのだろうか。

神戸市がリードする、“自己決定力”の強化

神戸市は、地域防災計画の基本理念として「自己決定力の向上」を掲げている。「地域の防災力を高めるにしても、行政の力だけでは限界があります。市民・事業者・行政がそれぞれの立場で、日頃から災害について考えて備え、判断し、行動できる力を伸ばしていくことが必要です」。そして、この自己決定力を向上させるためにも、自治体からの的確な情報発信が重要になる。

神戸市では、各種防災訓練の実施や防災行政無線の活用に加え、「くらしの防災ガイド(ハザードマップ)」を毎年6月に全戸配布し、災害のおそれのある場所や避難所告知などの広報に注力。また、平成30年3月からは防災スマートフォンアプリ「そなえとう」の配信を開始し、市民の防災意識向上を図っている。さらに特筆すべきはSNSの積極活用だ。

同市では内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)と連携し、「市民参加型SNS災害情報共有モデル事業」として、SNSにアップされた災害関連情報をAIが集約・選別した上で地図に落とし込んで可視化し、有事の対策判断を行うシステムの構築に取り組んでいる。こうした防災ツールの多面的な利活用で、より迅速かつ正確な対応を目指している。「たとえば、停止した公共交通機関の再開予定を伝えることで、市民は現場で待機するか宿泊先を探すのかを判断することが可能になり、災害発生後の混乱も抑制できます。そういった目的意識のある情報発信が大切です」。

このほか、災害弱者といわれる高齢者など配慮が必要な人々のために避難所を早い段階から開設して避難勧告を出す、時間帯や気象状況によっては自宅待機が安全といった具体的な情報を発信するなど、災害の状況にあわせて臨機応変に対応する。重要なのは、「タイムラインに沿った的確な情報を発信すること」だと中山さんは力を込める。


市民参加型SNS災害情報共有モデル事業

もちろんソフト面の充実や、市民のマインドセットだけでなく、公共施設のハード整備なども同市は進めてきた。防潮堤や河川護岸、砂防堰堤の整備、植林といった活動は戦後から積み重ねられており、風水害の抑止に役立っている。阪神淡路大震災以降は、発災後の生活の安定を確保するために、大容量の送水管や代替性のある下水道ネットワークなどのインフラ整備も進めてきた。平成28(2016)年度からは防災士の派遣による地域ワークショップを毎年開催し、避難の動きを啓発する取り組みも行っている。それらに加え、受援体制の整備も神戸市は重要視している。

「神戸市は阪神淡路大震災で多くの支援を受け、その後は被災地域を支援する活動を続けています。そうした経験をもとに、平成25(2013)年に受援計画を策定しました」。災害支援の「受ける・送る」両方を経験した神戸市だからこそ、より効率的かつ機能的な受援計画が策定できた。その内容は多くの自治体で参考になるはずだ。

新たな課題とその解決に向けて

阪神淡路大震災の発生から、来年で25年。神戸市では、多発する災害で顕在化している新たな課題への対応にも取り組んでいる。たとえば、近年発生した災害の中では、災害弱者が避難所で直面する問題や、被災者の重要なライフラインとなるスマホ・携帯電話の電源対策、猛暑時の避難における問題などが露わになった。これらに対し、神戸市では避難所へのスポットクーラーや充電器設置などの対策を進めている。

さらに、地域内の対策の見直しに加え、外部からの情報にも傾注する。神戸市は、東日本大震災において延べ1,912人、熊本地震では延べ591人の職員を災害応援で派遣している※1。これらの人員を現地の復興に役立ててもらうと共に、職員帰庁後には聞き取りや研修会を実施して最新情報を共有。さらに地域住民との協議会や、流通事業者などとの検討会を立ち上げ、帰宅困難者問題や、ラストワンマイル問題※2など新たな課題への対策を推進している。

平成31(2019)年の時点で、神戸市職員の阪神淡路大震災経験者は約41%。震災後に生まれたという職員も増えている。そうした中で被災経験が風化しないよう、同市では職員研修などを行い、知恵や工夫を共有し続けている。「今までは経験の継承を軸に地域の防災を進めてきました。これからは多発している自然災害に強いまちづくりという視点を持って取り組みを進めていきたい」と語る中山さん。神戸市の試みは今後も続いていく。

Issues 神戸市が抱える課題

01未経験の災害による被害の激甚化

「過去最高規模」「何十年に一度」といった災害が相次ぐ中、過去の経験からの想定だけでは十分な対応ができない。


 

02情報収集の際に求められる正確性とスピード

市民レベルではSNSなどでリアルタイムに情報が共有されている。自治体にもこれらの情報から正確なものを収集する手段が必要。


 

03災害弱者への対応

高齢者、障がい者、乳幼児や持病のある人などは、必要な物資や求められる環境がそれぞれに異なる。災害弱者を守るための対策を平時に練っておく必要がある。


 

04新たな課題(帰宅困難・ITインフラ・猛暑・BCP※3など)

避難所における夏期の気温対策、スマホや携帯電話の充電対策、帰宅困難者への誘導など、災害が発生するたびに新たな課題が浮上する。

これらを解決するために、下記のような対策が必要となる

How To

01情報の発信・収集両面におけるSNSの活用

SNSを情報発信ツールとしてだけでなく、災害情報を収集する場としても活用。AIによるフィルタリングと整理を行い、信頼できる情報のみをピックアップ、被災状況の整理に役立てる。
 

02現場派遣での情報収集

災害が発生した他自治体へ職員を派遣し、現地の復旧に貢献しつつ、最新の情報を収集して持ち帰り共有。日々変化する災害に臨機応変に向き合える対応力を伸ばす。
 

03受援計画の整備

自治体単独の施策だけでなく、外部からの支援をより効率的・機能的に受け入れることができるようBCP※3と連動した受援計画を立て、受入本部の設置から応援撤退要請までが円滑に流れるようシミュレーションを行い、他自治体や機関、NPO、ボランティア、企業など多方面からの支援を最大限活かす。
 

04自己決定能力の向上

自治体の取り組みに加え、住民は災害に関する知識の習得、備蓄、避難行動・避難場所の確認、避難訓練への参加に努める。さらに事業者も、地域と連携した団体からのアプローチなどから防災対策・避難訓練、従業員の防災教育等を実施するとともに、地域の防災活動や交流にも積極的に参加。これらを啓発することで有事の自立性を高める。

 

Results

自治体だけでなく、市民、事業者などを巻き込み「自ら考え、動く」という土台を強くすることで、地域の防災力を高める。それには自治体からの的確な情報発信が欠かせない。

災害も社会も年々変化しており、その動きに対応していくことが重要です。有効なツールとしてはAIやSNSが挙げられます。同時に、自治体間で相互に連携し、情報を共有することも必須。ともに防災力向上に努めていきましょう。

神戸市危機管理室計画担当課長・中山 徹さん


※1:平成31年4月時点の人数
※2:物流においてユーザー(災害時は被災者)の手元に届く直前区間で物品輸送が停滞する問題
※3:災害時に、特定の重要業務が中断されないよう策定された事業継続計画    

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