自治体が行う様々な施策。それらは本当に地域住民の気持ちをくんでいるのだろうか?“共生社会”をビジョンに掲げる鎌倉市では、ユニークなアンケートを通して、住民の声をより多く拾い上げる実証実験を行った。その取り組みを追う。
※下記はジチタイワークスVol.17(2021年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社ドリームインキュベータ
自治体に届けられる声は本当に地域の総意なのか?
行政が地域の声を集める手段の1つである住民アンケート。自治体にとって貴重な情報源だ。しかし、回収した意見が正確に民意を反映しているとは限らない。なぜなら、特定の施策に対し、反対・賛成の意思が明確な人は、意見を主張する強い動機があるのに対し、そもそも現状に不満がなく偏った意見を持たない“中庸層”は、沈黙しがちだからだ。その結果、一部の意見が突出してしまう場合もあるという。こうした課題は常に意識していたと、同市の中山さんは語る。「鎌倉市民は地元愛が強く、政策にも様々な意見が寄せられます。喜ばしいことですが、本当にこれが住民の総意なのか、多様な声が拾えているのかという疑問はありました」。
“誰もが自分らしく、安心して暮らすことのできる共生社会”の実現を目指す、という理念を掲げる同市。そのためにも、できるだけ多くの声を拾わなくてはならない。どのような施策を打つべきか検討していたときに、埼玉県横瀬町が「ドリームインキュベータ」(以下、DI)と組み、住民の声をより多く集めるアンケートを実施したことを知ったという。「これが模索していた方向性とフィットしました。当市でも試してみようと、実証実験を行うことに決めたのです」。
“本当の世論”が見えにくくなる原因とは?
●意見や不満を持つ人は“伝えたい”という動機があり、声も大きく鋭い。それに対する反論も強くなるが、現状に不満がない中庸層は沈黙していることが多い。
●中庸層の発言を喚起することで、意見の偏りが是正され、地域全体の声が見えてくる。この“本当の世論”によって本来行うべき政策を進められるようになる。
中庸層の意欲を喚起する“発言への動機づけ”の秘密
DIは、社会課題を解決するビジネスプロデュースに取り組む企業。その事業の一環が、多様性を認め合う社会をつくるための「世論の可視化ソリューション」の開発・運用だ。これはアンケート調査に、回答協力通知やインセンティブ付与、回答者の意欲を上げる仕掛けなどを施し、回答率を大幅にアップさせるというもの。同市は、早速アンケートテーマを決め動き出した。
事前の打ち合わせでは、DI側から様々なアイデアが提示された。住民の思いを引き出すための設問、インセンティブの内容、配信のタイミングなどだ。「回答率アップに加え、集計後にどう活用するかをイメージしながら知恵を出し合いました」と中山さんは振り返る。企画が決まり、令和3年4月に調査を開始。形式は、回答率向上の施策を行ったグループと、行わないグループをそれぞれ2,000名ずつ無作為に抽出。65歳以上には回答用紙のみ、それより下の年代にはWEB回答用の二次元コードを印刷して送ったという。アンケートの回収後、その効果が明らかになった。
沈黙の中からも意見を拾い持続可能な共創のまちへ。
同アンケート(全80問)の回答率は“施策なし”が約30%、“施策あり”が約60%と、その差は歴然。近藤さんは「これまで拾えていなかった声を拾い上げられた」と評価する。また、数値の向上だけでなく、思わぬ発見もあったという。「高齢者から『ネットで回答できたら便利だった』といった声がいくつも届きました。私たちの考えるデジタルディバイド(情報格差)と現実にギャップがあったのです」。取材時点ではまだ詳細を分析中という段階だったが、回答の中には政策の検討に影響しそうなものもあるという。
同時に、庁内からも反応があり、「アンケートにかける人件費をWEB化で節約したり、インセンティブにまわしたりするのもいい」「自分たちもこの手法でやってみたい」といった声が出ているという。
実は住民の多数を占める“中庸層”。その意見こそが政策において重要だ。中山さんは「人口減少の中で持続可能なまちにしていくには、まちの主役である住民との“共創”が重要です」と力を込めつつ、こう締めくくった。「今回の取り組みは、普段声を上げない層の意見を政策のPDCAに組み込む上で、とても有意義でした。こうしたものが全国に普及していけば、地域の幸福度向上に貢献できるのではと考えています」。
鎌倉市 共生共創部 政策創造課
左:近藤 拓己(こんどう たくみ)さん
右:中山 秀樹(なかやま ひでき)さん
“これが住民の声”と自信が持てる最適な政策へ導くソリューション。
地域の未来をつくるのは、住民の総意にもとづく全体最適化だ。世論を可視化するソリューションが、声なき多数派も含めた民意の集約に貢献する。
データで見る実証実験の成果
鎌倉市での施策内容例
❶事前の協力通知
❷インセンティブ付与
❸リアルタイムでの結果公表 など
回答者のモチベーションUP!
1.回答率の向上
2.意見分布の差異
クロス分析した53設問のうち28問で、施策ありの場合となしの場合で結果に差異※が現れた。
※回答傾向の変化(年齢との相関が逆転するなど)や、回答選択肢の上位1位・2位などの入れ替わりが生じたものを、差異ありとして分類
質問例【デジタルディバイドについて】
スマートフォン、タブレットやパソコンの使い方を教わる機会があるか教えてください。
本分析で“若年者はデジタル機器使用における問題はない”という仮定に疑問が浮上。これまで高齢者中心だったデジタルディバイド対策を見直すきっかけに。
回答数全体を大きく底上げすることで、年齢層や地域による意見のばらつきなど、従来の調査方法による世論のゆがみが是正される。また、結果が同じだった場合でも“これが住民の声”と自信を持って政策を進めることができるようになる。
実証実験に取り組む自治体を募集!
本ソリューションの実証実験(実費分は有償)を3自治体限定で行います。住民の声を広く拾うことで、今後の政策展開における根拠としても活用できます。詳細は気軽にお問い合わせください。
お問い合わせ
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