ジチタイワークス

福島県福島市

“議会答弁作成”の負担を庁内人材の活用と巻き込み力で軽減。

ICT活用による業務効率化が叫ばれているが、予算や人材不足などにより、導入がうまく進まない自治体も多いだろう。そんな中、福島市では、庁内の人材が旧来からあるソフトフェアを用いてICT化を進めたという。独自に「議会答弁検討システム」を開発し、業務軽減に貢献した信太さんに話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.17(2021年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

職員たちの負担を減らすために、全庁にまたがるシステムを独自開発。

福島市では、平成29年12月の新市長就任を機に、積極的にICT化を推進。すぐに一部の会議運営をペーパレス化するなど、様々な課題に対し、改善策を模索し続けていた。そうした中でも、職員の大きな負担となっていたのが、議会答弁の作成業務だったという。担当課長が議員のもとに出向き、質問内容を聞き取りすることから始まる同業務。実際の答弁内容(質問への回答)が確定するまで、多くの職員による確認・修正作業が発生していた。この一連のやりとりは、ワードやエクセルで作成したデータや紙を介しており、答弁をもとに各部局と市長とが行う「市長検討会(以下、検討会)」においては、参加人数に合わせて膨大な資料が印刷されていたという。

そんな中、平成30年4月に総務部へ着任した信太さん。「部内に長年定着している業務のため、“効率化はできないだろう”という雰囲気がありました。これをなんとか専用のシステムをつくることで解決できないかと考えたのです」。早速、データベース管理ソフト「Access(アクセス)」を用いて、システムづくりを開始。「もともと独学でプログラミングの知識を持っていましたが、つまずいたらネットで調べ、まわりの職員に試用してもらいながら開発を進めました」。こうして完成した「議会答弁検討システム」。まずは総務部と消防本部の2つに絞り、利用する職員の反応を見ながら導入を進めたという。

データや紙の受け渡しが不要になり大幅な作業軽減とペーパーレスの実現へ。

当初は、新たなシステムを使うことに不安を持つ職員もいたという。しかし、市長がシステムの活用を後押ししたことで一気に浸透。全ての部局で使われることになった。導入後、議員側からの質問は直接データベースに入力。登録すると、市長を含む全関係者のPCで、内容や入力中の答弁がリアルタイムで閲覧・編集できるようになった。これまでのように、データや紙による受け渡し作業はなしで、業務を完結することが可能に。

従来、答弁書の収集から検討会までの工程に1日約10時間かかっていたが、導入後、市長が空き時間を使って検討会開催前に答弁を確認できることもあり、約5時間に短縮。内容が変更されるたび発生していた答弁の差し替え作業も不要になった。また、事前印刷がない分、約1万枚以上のペーパーレスを実現。職員からは「決まったところに入力するだけなのでラク」「ほかの答弁も見られて参考になる」といった声も寄せられているという。

こうしたペーパーレス化は、市議会議員側でも進み、令和3年6月からは、双方とも端末を議場に持ち込み、議会が行われている。

■業務時間の削減効果

答弁書の収集から市長検討会までの業務

 

■ペーパーレス化の効果

答弁書は、議員1人当たり平均17枚にのぼり、仮に質問する議員が15人いた場合、計255枚の印刷用紙が必要となる。さらに、これらを各部局用に計43部(約1万1,000枚)印刷していたが、全てをペーパーレス化できた。

どの自治体にも必ずいるスキルを持つ職員を活かす。

「当市では、まず変革に取り組み、そこにデジタルをどう組み込むかという順番でDXを進めています。部を越え業務を変えていくには、“部と部の人と人”“仕事と仕事”をつなぐという考えが大事です。今回、業務効率化できたこともそうですが、部局を越えたデータ連携の利便性を職員に実感してもらい、変えていこうという機運が高まったことが最大の効果です」。同市は、最先端のシステムを導入せずとも、すでに庁内にあるスキルやツールを活用することで、課題解決につなげている。

これを機に、特別定額給付金を担当する課では、若手の職員が自ら手を挙げシステムを開発し、運用まで成功させた事例もある。その後、彼はその能力を見込まれて保健所に異動し、現在は新型コロナウイルス感染症対策に関する業務のシステム化を進めているという。

「どの自治体にもシステムに強い職員が隠れているはずです。そういった方々をうまく巻き込み、ぜひそのスキルを活かして、どんどん活躍してほしいですね」。

福島市
政策調整部 情報政策監
DX推進プロジェクトチームリーダー
信太 秀昭(しだ ひであき)さん

Accessは少し専門的ですが、取り組みやすいノーコード・ローコードの開発ツールも出てきました。業務の省力化や住民の利便性向上のために、できることを考えてみませんか。

課題解決のヒントとアイデア

1.最先端のシステムにこだわらず庁内のリソースを活用する

改革のアイデアが浮かんでも“システム導入にはお金がかかるし大変そう”とためらうことが多いかもしれない。外注ありきではなく、身近にできそうな人がいないか、使えるツールがないかをまず考えてみる。

2.試作段階から周囲を巻き込み新しいことへの抵抗感をなくす

試作が完成したタイミングで、まずは関係する職員にヒアリング。早い段階から試してもらうことで、現場担当者にその良さを実感してもらう。「試作品への反応が良かったので開発に勢いがつきました」。

3.小さくスタートすることで導入後の方針転換も容易に

職員に受け入れられるか分からないため、予算をかけない内製システムでスタート。「スモールスタートにしたことで、職員の声を反映させた改修を何度も重ねることができました」。

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