生駒市では、世代を超えた住民交流を促し、つながりが増えた地域の力によって、環境問題をはじめとする様々な課題の解決を目指す事業を展開している。その背景には、住民同士による互助・共助の仕組みを何とか維持したいという思いがあるという。今回は、住民同士が交流を図りながら、循環型まちづくりにも貢献するというユニークな事業について、同市の白川さんに聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.16(2021年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
高齢者中心のコミュニティを軸に新たな交流の場づくりを模索していた。
長らく大阪のベッドタウンとして発展してきた同市だが、少子高齢化や子育て世代の都心回帰などの影響もあり、現在においては、子育てを終え、定年を過ぎた高齢者夫婦の比率が高くなっているという。
同市では、この状況を以前から注視しており、介護予防という観点で他自治体で考案された「いきいき百歳体操」を積極的に採用。現在も80を超える自治会館などの拠点で実施するなど、市と住民が一体となって誰もが健康に暮らせるまちづくりを進めてきた。
しかし、高齢者のコミュニティが発達した一方で、その他の世代との交流はあまりなかったという。「この既存の力強いコミュニティを軸に、多世代の住民同士が関わりを持てる拠点をつくりたいと考えました」と白川さん。多世代かつ、多様な人々が日常的に集える交流の場を創出することで、様々な住民サービスが自発的に生まれる環境をつくりたい、そんな思いから同市の「複合型コミュニティづくり事業」が始まった。
世代間コミュニケーションを促進しつつ生ごみの資源循環を住民自身が体感できる。
その1つとしてスタートした事業が、萩の台住宅地自治会で実施されている「こみすて」だ。“ごみ捨て”と“コミュニティステーション”をかけて名づけられており、各種資源の有効活用やコミュニティの活性化を図ることが目的になっている。モデルとなっているのは、持続可能なまちづくりを支援している民間企業の「アミタ」が、宮城県南三陸町で行った“資源循環”を核とした事業「MEGURU STATION」。同事業を参考に令和元年度、2つの自治会を対象とした実証実験を実施。それを経て現在は、住民主体の運営が行われている。
こみすての軸となるのは、生ごみから液体肥料とメタンガスをつくる「生ごみ資源化装置(通称、メタン君)」。自治会館横の緑道に設置されており、住民が日々排出される野菜くずなどを持ち寄ることで、メタン君を介して多世代が交流する拠点が生まれている。さらには、地域住民が主体となって、ミニイベントなどを実施することで、世代間の交流促進に取り組んでいるそうだ。
同事業の運営には、同市と市内の民間企業や市民団体が共同で設立した「いこま市民パワー」が伴走支援をしている。また、ノウハウを持つアミタ社から出向しているスタッフがその活動の支援を担当しているという。
ほぼ全ての住民が日常的に行っている“ごみ出し”に着目。無理のない形で交流できる仕組みをつくることで高齢者と若い世代のつながりが生まれ、身近な環境問題を一緒に考えるきっかけにもなったという。
多世代の住民同士が交流し地域の助け合いが増える。
「住民の中には“ごみ置き場がくる”というマイナスイメージを持つ人もいましたが、多世代が交流することの楽しさを再確認するにつれ、今では地域住民が主体となってイベントなどが開かれるようになりました」。
メタン君の1日の生ごみの処理能力は最大35kgで、液体肥料は70L、バイオガスは3,200L生産できるという。このガスは3.2時間利用できる計算で、実際に料理をすることも可能とのこと。また、生ごみ資源化装置に名前をつけ、生ごみの投入を“餌やり”と称するなど、日々の運営も含めて住民に任せることで、生き物を世話するような当事者意識や、環境問題への改善意識なども育まれていったという。
既存の住民同士の交流に加え、新たな住民を受け入れる際の窓口的な存在になることも同事業の目的となっており、「縁もゆかりもない世帯が引っ越してきたときに、地域の人たちと最初に知り合うきっかけになってくれれば」と思いを語る。
「今後は循環型まちづくりという観点も含め、住民や民間企業など多様な主体と一緒に地域を盛り上げていきたいと思います」。
生駒市
市民活動推進課
白川 徹(しらかわ とおる)さん
拠点の存在が多世代のコミュニケーションのきっかけになり、相手を知ることで助け合いが生まれています。また、拠点が機能することが、将来的に良いまちづくりにつながることを期待しています。
課題解決のヒントとアイデア
1.誰もが当事者となるごみ出しを行う場所なら世代を問わずコミュニティの拠点にしやすい
ほぼ全ての住民が行うごみ出しに着目することで、コミュニティへの参加のハードルを下げる。高齢者、子育て世代などの属性にとらわれず、多世代の交流があるので地域住民同士のつながりをつくりやすい。
2.一時的な取り組みにならぬよう継続できる仕組みを考えて用意する
生ごみ資源化装置の管理を住民に任せたことで当事者意識が芽生え、継続的に運営に住民が関わる仕組みをつくった。また、来訪した住民が楽しめるよう、自治会が主体となってコーヒーを販売するなど様々な取り組みを行った。
3.民間サービスのノウハウをうまく活用し地域のコミュニティづくりを進める
拠点にごみ出しに来た人が滞留し交流しやすい仕掛けや、人をつなぐための設定がポイントとなる。自治体単独の動きではなく、成功事例を持っている民間サービスのノウハウや人材を活用すれば、地域のコミュニティをつくりやすい。
生ごみ資源化装置に生ごみを持ち寄り、その場に集まった住民たちが談笑している様子。