新型コロナウイルス感染症の流行を受け、困窮する住民生活。暮らしと命を守るため、各自治体は知恵を出し合い、独自の支援策を行っている。中でも燕市は、市内事業者を支援するため、毎月発行・全戸配布している「広報つばめ」に、クーポン券を掲載するという施策に打って出た。
本取り組みが実現に至り、過去4回の実績を経て大きな経済効果を生み出した成功のカギを、同市の髙橋さんに聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.16(2021年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
スピード感を最優先にし、回を重ねるごとに改善を図る。
令和2年4月7日から5月6日まで、全国7都府県に緊急事態宣言が発令。先行きが見えない中、日本はもとより世界中が不安に包まれた。そのわずか2カ月後、同市が行った独自の取り組みが、広報紙に掲載する形で発行した「がんばろう燕!応援クーポン券」だった。購入金額500円ごとに200円割引(市が全額負担)するクーポンを8枚掲載。商工振興課の髙橋さんによると、“大きな影響を受けている市内飲食業などに対し、なるべくお金をかけず、スピーディーに支援するにはどうすればいいか?”を試行錯誤する中で、“比較的自由度が高い広報紙にクーポンを掲載し、市が主体となって事業を実施する”という発想に行きついたそう。
「通常、市の事業は市民からの理解を広く得ながら着実に進める必要がありますが、今回はそんな猶予はありませんでした。市議会の賛同を得つつ、半ば強行したのが実情です。市民からは『告知が十分じゃないからクーポンに気づかず捨ててしまった』というお叱りの言葉、『景気刺激策として分かりやすい!』というお褒めの言葉、それぞれいただきましたが、反省点は次回掲載号にしっかり活かし、少しずつブラッシュアップしてきました」と振り返る。
実際にクーポンが掲載された広報紙
部署の垣根や世代を越え全員野球でコロナ禍に挑む。
第1弾は感染症の拡大を抑えつつ、外出自粛の影響を最も受けている飲食店の支援につなげることを優先。そのため、クーポン券使用登録店舗(以下、登録店舗)を急募し、テイクアウト・デリバリーに対応可能な飲食業116店舗に限定。使用枚数6万2,364枚(利用率25.99%)、経済効果約3,120万円という実績を残した。第2~4弾は業種を広げるとともに、クーポンの内容を、購入金額1,000円ごとに500円割引に拡大。回を重ねるごとに登録店舗数、使用枚数ともに右肩上がりで増えたという。(下図表参照)
「課員それぞれの経験値や能力を総動員し、“やれる人、得意な人が率先して動く”という全員野球を徹底。業務効率や使いやすさを追及したことが成功の理由だと思います」。例えば、クーポンのデザインは広報が担当。登録店舗への案内状送付や各組合への説明、伝票切りなどの内部事務は、商工振興課を中心に他部署からの協力を得て人海戦術で行ったという。若手のアイデアも積極的に採用し、申請用紙の記入方法や間違えやすいポイントは動画で丁寧に説明し、ホームページで公開。登録店舗から「分かりやすい」と好評を得たとともに、記入漏れによる再処理の手間が激減し、スムーズな事務処理につながった。
今後も長引く不景気を見越し長期的な支援へシフト。
ホームページを有効活用したクーポン事業の告知・案内は、市政紹介ページのアクセス数まで増加させるという嬉しい副産物を生んだそう。また、クーポン掲載によって広報紙本体も“読まずに捨てられる”リスクが減少。情報伝達力が向上することで、市民参加型のまちづくりが加速することも期待できるという。
「とはいえ、広報紙にクーポンが掲載されていることが常態化し、それなしでは暮らせない状態は避けたいと考えています」。そこで同市では、市内事業者が将来にわたり持続可能な経営をするための支援策を策定し、徐々にそちらにシフト予定だ。具体案は模索中とのことだが、市が誇る“全員野球”の精神で、きっと痛快な答えを出してくれることだろう。
燕市 産業振興部 商工振興課
髙橋 裕貴(たかはし ひろき)さん
今回、いち早く支援策を打ち出せた背景の1つとして、金属加工業を主産業とする本市のものづくりに携わる企業の有志から、飲食店支援のためにと2,840万円もの寄付金を託されたことがあります。受け取った熱い思いを糧に、これからも“日本一輝いているまち・つばめ”を目指していきます。
課題解決のヒント&アイデア
1.スピード感と実行力の両輪が早期支援には不可欠
「何を、いつまでにするか」を明確化し、達成するために部署の垣根を越えて全員で一丸となって臨む。非常時は見切り発車もやむを得ないが、市民の代表である市議会の賛同はしっかり得る。
2.「分かりやすさ」を市民目線で追及し工夫する
申請書の記入は分かりづらく、問い合わせの電話対応と不備書類の再提出依頼で膨大な労力を割いてしまう。動画案内など分かりやすいツールを活用し、市民も職員もWin-Winな状態をつくる。
3.“ものづくりのまち”PRで全国の応援人口を増やす
包丁や鍋などの金属加工製品をふるさと納税の返礼品にすることで、職人の技術を全国へPR。この戦略が功を奏し、令和2年度の納税額は49億円と年々増加傾向。クーポン事業においても貴重な財源となった。