ジチタイワークス

福岡県北九州市

人流をつくりながらコロナ禍にも強い事業を。地域の答えは“釣り”だった!

北九州市が地元企業と一体となって取り組む事業「北九州釣りいこか倶楽部」が、今、注目を集めている。釣りや釣魚料理を“オールインワンパッケージ”で体験できる内容で、コロナ禍で前年比120%の利用率を達成。令和2年、緊急事態宣言以降は、近郊からの利用を促す企画を打ち出し新たな集客に成功。

コロナ禍において、いかに地域振興を図るのか。同市の取り組みを通して、そのヒントを探る。

※下記はジチタイワークスVol.16(2021年10月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

アウトドア需要の高まりを受け“釣り”が課題解決の起爆剤に。

九州の玄関口に位置する同市は、都会的な生活を送りつつ、豊かな海や緑あふれる山々などの大自然を身近に感じられる地域だ。しかし、この40年、人口は減少傾向。地域の経済振興や活性化対策として、人を呼び込む施策を実施してきたが、同市の立地上、どうしても近郊の福岡市などへの通過点となる場合が多かった。さらなる消費が見込める滞在(宿泊)型にシフトすることが難しかったという。“魅力を知ってもらい、より長く滞在してほしい”。そこで浮上したのが、地の利を生かした“海釣り”だ。

事業のきっかけは、市制55周年記念事業の一環で制作した、釣りや水産資源を紹介する動画。「ユーチューバーである“釣りよかでしょう。”を起用し、PR動画を3本作成して配信。公開後1週間で40万回以上再生され、予想以上の反響を得ました。そこで、この流れを活かし、本市の魅力をもっとPRしようと、釣りをテーマにした事業の実現に動き出しました」と、山倉さんは振り返る。

地元企業とともにつくった気軽な海釣りを促す仕組み。

平成30年、釣具小売店を全国展開する地元企業「タカミヤ」と協働し、同社を主体とした「北九州釣りいこか倶楽部」が発足。「今までは、海釣りをする場合、利用者が各自で空いている船を探す必要があり、初心者には敷居が高かった。そこで、同倶楽部では遊漁船の空き状況を一括管理。ホームページから簡単に予約でき、釣り具もレンタルできるので手ぶらでも参加OKと、初心者でも気軽に海釣りができるシステムができあがりました」と、中島さん。さらに、釣りのサポート、魚の下処理、調理、入浴、宿泊までを提供するオールインワンパッケージプランにより、単なる通過点ではなく、長時間滞在してもらうための仕組みがつくられた。

当初は、東京や大阪などの関東・関西圏の旅行者や、中国からのインバウンドが多かったという。しかし、令和2年4月、新型コロナウイルス感染症による緊急事態宣言が出てからは、キャンセルが相次ぎ、関東・関西圏からの流入が激減。インバウンドはゼロに。以前とは別の商圏を考える必要性が高まったという。

コロナ禍でファミリー層の利用が増加。

■コロナ禍の影響で発生した事象とニーズの変化

コロナ禍だからできたプランで新たな利用者層の獲得を継続。

県内、近県からの利用を促すため、子ども料金を設定したファミリープランの新設や、SUP(スタンドアップパドルボード)など水辺のアクティビティとのコラボ企画を実施。テレビや雑誌などに取り上げてもらうことで、福岡市や近県の利用者を増やすことに成功した。コロナ禍にもかかわらず、令和2年8月以降の利用者数は、前年対比120%を達成。アウトドアブームもあり、ファミリー層やリピーターを獲得し、現在も利用者を増やしている。

アフターコロナに首都圏などからの利用が回復すれば、さらなる利用者増に加え、長期滞在に伴う宿泊や食事などの利用も期待できる。現在、同倶楽部ではパッケージに付随する料理店の開拓などを進めているという。また、インバウンド向けプランも準備中で、在留中国人対象のモニターツアーなど、仕組みづくりが進行中。「都心近接型アウトドアといった余暇の過ごし方を提案することで、新たな人流を生み出したい」。今後の事業展開に、地域の期待は大きい。

北九州市
企画調整局 地方創出推進室 都市ブランド担当
左:係長 山倉 史子(やまくら ふみこ)さん
右:主任 中島 博章(なかしま ひろあき)さん

今後も積極的に“都心近接型のアウトドア”を発信し、様々な事業を展開する予定です。本市の魅力を感じてもらい、将来的な定住・移住につなげていきたいです。

課題解決のヒント&アイデア

1.民間企業と協働して、釣り初心者を取り込む仕組みを構築

地元企業のタカミヤを中心に、遊漁船やホテル、飲食店、広告代理店、旅行代理店などで倶楽部を構成。初心者が安心して様々なサービスが受けられるシステムとなった。

2.海洋資源を利用するには、地域との連携が不可欠

事業の立ち上げにあたって、地域の事業者などの関係者や市の関係部局などに趣旨を説明。同市を盛り上げるための事業であることを理解してもらい、協力を要請した。

3.サービス向上のために、フィードバックを定期的に実施

遊漁船運営者を集め、ミーティングを定期的に開催。最近の釣りのトレンドや利用者アンケートなどの内容をフィードバックすることで、サービス向上に努めている。

遊漁船運営者とのミーティングの様子。ファミリー層の利用が増えたことで、船内の整備を手がけた遊漁船もあるという。

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