ジチタイワークス

離島経済新聞社「リトケイ」

“まちを彩る”PR誌をピックアップ。魅力を取材し研究発表していきます。

※下記はジチタイワークスVol.15(2021年8月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]離島経済新聞社

”伝える・つなぐ・育む”の3本柱で、島で生きる人の持続可能な未来を応援。

”この島は宝島なんだ”。「離島経済新聞社」(以下、リトケイ)の代表理事・統括編集長を務める鯨本さんが、広島のとある離島を訪ねた平成22年、その島の住人が口にしたこの言葉がきっかけとなり、島メディア「リトケイ」は生まれた。「当時はまだ、有名な島以外の情報を得る方法が、ほとんどありませんでした。でも実際に訪れてみると、手つかずの自然や、穏やかに暮らす人たちの営みがとても眩しくて、まさに宝島だと。だったら、宝探しをするように、島の価値や課題を伝える媒体をつくってはどうかと考え、立ち上げたのです」と振り返る。現在では、ウェブサイト「ritokei」とフリーペーパー「季刊ritokei」を展開。国内416の有人離島にスポットを当て、島々をつなぐ活動を行っている。

立ち上げ当初は4人のメンバーで、ウェブサイトでの情報発信からスタート。当初は、活動費や人手が潤沢ではなかったため、SNSを徹底的に活用。宿の経営者やブロガーといった島で暮らす人々から情報を集めて、発信していくことで、徐々にネットワークを広げていった。さらに、「情報発信の目的として、幅広い層の方に、”島”という共通の話題で、交流や議論をしてもらいたいという思いがあって、インターネットを利用しない人にも読んでもらえるよう、紙媒体の季刊紙ritokeiもスタートさせました」。

この季刊紙は、タブロイド判で、フルカラー全20〜32ページで構成。特集タイトルに目がいくように配慮された表紙など、秀逸なデザインとポップな色使いが特徴だ。過去の記事を見ると、島の方言やものづくりなどライトなテーマがあれば、海ごみ、空き家、オーバーツーリズムなど、社会的なテーマもあるなど変化に富んでいる。

「当初は、島自体の魅力や面白さに気づいてもらえるようなキャッチーな企画が多かったです。そこから徐々に、”離島地域をどう持続可能にしていくか”といった島の課題なども取り扱うようにしていきました。ただ、難しそうな企画であっても、なるべく堅いイメージを避け、見た目で気軽に手に取ってもらえるように工夫しています」と話す。5月末に発行された第35号は「魚食図鑑」がテーマ。「日本財団」などが推進する「海と日本プロジェクト」とのタイアップ企画となっており、漁業、水産業の振興をコンセプトに展開している。

活動が軌道に乗ってきた平成26年、リトケイは株式会社からNPO法人へ移行。「過疎化や後継者不在など、情報発信だけでは解決できない課題が多くあることを実感しました。そのため、島の課題解決を志す個人や団体と連携して、必要な活動を展開していきたい、と考えたのが移行の理由です」。それを機に、”伝える”に加え、”つなぐ”、”育む”という柱を法人のミッションとして掲げ、活動はより広がりを見せていく。

約120人が暮らす鹿児島の離島“宝島”を訪れたときの風景。

島と自治体と企業の思いをコーディネートする。

NPO法人移行後も、2つの媒体を軸に、島人と島のファンをつなぐイベントなどを開催。それらを通じ、”共感”からさらに島のファンを増やし、認知度を上げてきたのだという。また、サポーターの募集による寄付の流れをつくり、1つの島だけでは解決しづらい課題解決のための活動も実施。島と企業とをつなぐ中間コーディネート事業もその一環となっており、現在、両者からのオファーが増えているという。多和田さんは「私たちが取材を通して知り得る範囲で、島のニーズや持続可能性に貢献するかどうかを判断基準とし、サポートを行っています」と話す。

しかし、外部から島へのラブコールが増える一方、島が抱える課題は依然として多く存在しているという。鯨本さんは「私は30代で子どもが2人いますが、小規模な島に暮らす子育て世代がどう生きていくかについて、よく考えるんです。例えば、大分県の南東部にある佐伯市には、深島という人口16人ほどの小島があって、そこには同世代のご夫妻が住んでいます。その奥様と仕事をご一緒した際に、『私はこの島を無人島にしないために頑張る』と話されていました。このご家族がいるか否かで、その島の未来が左右されると私は思ったのです。そういった方々を、手助けできるような組織でありたい、それこそがリトケイの存在意義だと思っていま
す」。

立ち上げから10年余り。島々の多様な宝を発掘し続けながら、島を守り、持続可能にする〝人〞の存在ほど、かけがえのない宝はないと実感する鯨本さんと多和田さん。島と島、島の内と外をつなぐ役割を担うリトケイの存在もまた、島を愛する人にとっての宝ものになっているにちがいない。


制作秘話 01

創刊時は有料だった媒体は20号目にフリーペーパー化。読者層は子どもから90代まで幅広い世代にわたっている。

制作秘話 02

媒体から展開する様々なイベントの企画・運営のほか、外部のクリエイターによる勉強会を島で開くなど、人材育成のアドバイザーとしても活躍。“島
の宝を未来につなぐ”ミッションが活動の源になっている。

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