【セミナーレポート】子どもたちを守るために、自治体にできること~「子ども理解」と「児童みまもり」の重要性~
子どもが巻き込まれた犯罪や事故の報道が後を絶ちません。地域の宝である子どもたちを守り、保護者に安心を届けるために、自治体には何ができるのでしょうか。児童福祉の最前線で活動する沖縄県の職員と、児童みまもり情報配信ソリューションを提供する企業の担当者、両者の視点からヒントを語っていただきました
概要
■タイトル:位置情報データ×SNSアプリで子どもたちの安全を見守る ~自治体・学校・保護者間での迅速な情報伝達を行うために~
■実施日:2021年6月28日(月)
■参加対象:自治体職員
■開催形式:オンライン(Zoom)
■登 録 者:16人
■プログラム:
第1部:基調講演 子ども達の本当の声、聞こえていますか
第2部:児童みまもり情報配信ソリューションの紹介
基調講演 子ども達の本当の声、聞こえていますか
子どもたちの明るい未来をつくるためには、まず“子ども理解”が必要。そのために大人が考えるべきこと・行動すべきこととは? 地方公務員アワード2020を受賞した森田さんが、現場目線でアドバイスする。
<講師>
森田 修平さん
沖縄県庁職員
「沖縄の子どもと家族・支援者の未来を明るくする会(OCFS)」代表
プロフィール
2009年沖縄県庁に入庁。児童自立支援施設、児童相談所などで様々な背景を持つ子どもたちと接してきた。2017年に「沖縄の子どもと家族・支援者の未来を明るくする会(OCFS)」を立ち上げ、児童虐待を本気でゼロにするという思いで日々奮闘中。「地方公務員が本当にすごい!と思う地方公務員アワード2020」受賞。
施設の活動の中で気付いた“大人の間違い”とは?
まずは児童相談所と児童自立支援施設について、少し紹介したいと思います。「児童相談所は虐待対応をしているところ」と思われている節もありますが、正しくは、障害、非行、育児全般、養護、虐待など子どもに関する様々な相談ができる場所です。幅広い分野を網羅して、子育てをする家族のために存在しています。
一方、児童自立支援施設は、一言でいうと少年院に行く一歩手前のような場所。家庭的な愛情を注ぎながら、子どもたちの自立に向けた訓練をしている施設です。保護者や学校、警察などから相談を受けて、児童相談所や家庭裁判所などが関わって、児童自立支援施設に入所します。
これらの施設で勤務した中で、学んだことがあります。それは「大人が変われば子どもも変わる!」ということです。かつての私は、子どもを自立させるために「大人が教えなければならない」という考え方をしていました。施設には、障害を持った子、非行歴のある子、虐待を受けた子など様々な子どもたちがいます。その全員を集団生活に適応させ、生活を成り立たせていかなくてはならないので、まずは大人の経験や知識を教えなくては、と思い込んでいたのです。しかし、それでは子どもたちは変わらず、逆に反発したり無気力になったりと、悪循環に陥ることすらありました。
「何が間違っているのだろう」と考え、分析を重ねた末、大人が子ども一人ひとりのニーズにあった接し方をしていけば、子どもたちも正しく変わっていけるという結論に至りました。子どもたちから教えてもらったのです。
子ども理解で気を付けたい3つの“大人の常識”
“子ども理解”のポイントは、氷山をイメージすると分かりやすいでしょう。氷山は水面下にその大部分を隠しています。子どもの心も同様で、私たち大人は多くの場合、表に出ている部分しか見ていません。しかし、そこだけを支援しても、水面下の部分が解消されていないと、うまくいかないのです。
氷山の下の部分にあたる、子どもたちがどんな背景で育って、何を思い、今後どういう未来を想像しているのかということを含めて理解しないといけない。それが本当の子ども理解につながると思います。
しかし、大人の心には、子ども理解を邪魔するエゴというものがあります。以下の3つです。
A:あたりまえ
T:ちゃんと
F:ふつう
この「A・T・F」が子ども理解の障壁なのです。実例を挙げてみましょう。私が児童自立支援施設で働いていた時の出来事です。
施設には、野球が好きな中3の男の子がいました。午後のスポーツ活動で、私も一緒に野球をやっていて、ある日彼に新品のグローブを渡しました。活動を一生懸命頑張ったので、グローブも初日で泥だらけです。そこで、「グローブをキレイにしておいてね」とお願いしました。私は、この言葉だけで、雑巾で泥を落としたり、オイルを塗ったりするだろうと思い込んでいました。それが「あたりまえ」だと考えていたからです。しかしこの子は、グローブを洗濯機で洗ってしまったのです。グローブは傷みましたが、私は何も言えませんでした。自分の「あたりまえ」が邪魔をして、伝わらなかったのです。
「ちゃんと」という言葉も同様。大人はこの言葉を意外と多く使っています。例えばスーパーなどで「今日はお菓子買わないよ、ちゃんとしててね」と言ったりするケースが分かりやすいでしょう。
これでは、子どもは理解できず失敗します。でも大人は「ちゃんとしてって言ったじゃない!」と怒りを覚え、悪循環に陥るのです。これが幼児ならまだいいのですが、小中学生になると反抗心が芽生え、暴言・暴力につながる可能性もあります。
もう一つ、「ふつう」という言葉や感覚です。子どもたちの支援をしている中で、「○○さんはどういう子ですか」と聞くと、教育現場の先生や保護者から「特に問題なく、ふつうです」と返ってくることがあります。しかし注意深く聞いていくと、朝登校するのが遅いとか、特定の行動に対して渋りがあるなど、重要な情報が出てきます。この「ふつう」という言葉が子どもたちを一括りにして、その子が抱えている問題やニーズ、つまり氷山の下の部分が出にくくなってしまうのです。
この「A・T・F」を使ってはならない、というわけではありません。十分に注意を払って発信しなければならないということです。同時に、大人自身が持っている感覚も、これって「あたりまえ」なのか、本当に「ふつう」なのか、と違う角度から見る視点も持っておく必要があります。
ここまでお伝えしたことに注意しつつ子どもたちと接していくのですが、子どもを理解するにはスキルも必要になります。それは「洞察力」と「観察力」です。
洞察力~目に見えるものを手掛かりに、その奥底にあるものを推測する力。
子どもの言葉や表情、行動や姿勢などから大人が推測をして、氷山の一部を見てその下を考える、その力が洞察力です。どのように育った背景があるのか、誰と過ごしているのか、そういったところまで思いを巡らせる必要があります。
私が児童自立支援施設で働いていた頃、女子寮にも勤務していたのですが、ある日の食事中、女の子が箸でバナナを切って食べている姿を見ました。その行動が気になって、児童相談所の資料を読み直したりしながらたどっていくと、この子には性的虐待を受けた背景があったのです。こうした気付きは、その子に合ったより良い支援を考えていくことにつながります。
観察力~周りを見る力、気付く力、分析する力
これは私が一時保護所にいる時に、意識するようになった力です。一時保護所は、あくまでも一時的に保護するための場所です。虐待から守るため、非行の現場から離れるため、あるいは児童自立支援施設に行く前の行動観察のためなど、様々な目的があり、子どもたちには個々のニーズがあります。それでも施設内では集団生活をしなくてはなりません。そのため、私は一人ひとりをじっくり観察しました。
その結果、自分が思っていること、感じていることと、現実の子どもたちが違うことに気付きました。観察が大事だということが分かってきたのです。
これは保護者も同様です。例えば、「この子の悪いところは」と聞くと、あふれるように出てきます。逆に「良いところは」と聞くと、2つ3つで止まってしまうのです。そこで、「お子さんを観察して、良いところを見てきてください」と伝えると、次の面談では「こんな一面がありました」という話をしてくれる。そんなことがよくあります。
支援者、保護者、先生も含め、観察不足でポジティブ面が見えていない人が多くいます。子ども理解のためにも、ぜひ「洞察力」「観察力」を大事にしていただきたいと思います。
そして最後は、「実践」を繰り返すことです。研修や講習などで知識は得られますが、頭でっかちになるのはいけません。「分かっています」という言葉を良く聞きますが、頭で理解していても、現場で実際にやってみるとうまく行かないことも多いのです。アウトプットをたくさんして、子ども理解、家庭の理解、支援者同士の理解につなげることが大事です。
子どもたちなくして社会は成立しません。子どもを守り、健やかに育てて行けば、明るい未来が待っているはず。今、目の前にいる子どもたちをたくさんキャッチして、明るい未来に向けて一緒に取り組んでいきましょう。合言葉は「大人が変われば子どもも変わる!」です。
第2部:児童みまもり情報配信ソリューションの紹介
安心・安全な環境をつくるには地域の連携が欠かせないが、そこにICTを持ち込めば、まちの安全性はより高められるはずだ。ここからはNTT西日本の担当者が、子どもたちを地域ぐるみで見守るシステムの仕組みについて解説する。
<講師>
廣瀬 伸悟さん
NTT西日本 ビジネス営業本部
クラウドソリューション部
プロフィール
2017年にNTT西日本に入社。自治体の基幹系システムの導入提案・構築・運用保守業務などを経て、2019年より安心安全なまちづくりに関わるプロジェクトにてクラウド系新規サービスの企画業務に従事。
地域における「児童みまもり」の必要性
近年、子どもが巻き込まれる事件・事故が相次いでいます。中でも略奪誘拐事件は年間100件を超えており、声かけ事案で見ると、14~17時の下校時間帯にかなりの数が発生しています。こうした背景を含め、2018年6月に政府は「登下校防犯プラン」を策定。自治体、学校、各家庭で地域の連携を強化し、登下校時の防犯対策を講じることが求められています。
また、みまもりが必要とされている背景には、子どもや保護者をとりまく環境の変化も一因として挙げられます。例えば、共働き世帯の増加によって子どもが一人で過ごす時間が長くなっている、あるいは少子化に伴って児童数が減少し、学校の統廃合が増加しているという現実です。統廃合が進むと一部の子どもは通学距離が伸び、場合によっては通学バスを運用せざるを得なくなります。
このような状況から、保護者は子どもの登下校に不安を感じていますし、自治体や学校でも児童の安全のために防犯・防災情報をいかに日頃から伝達し、各家庭で対策を講じてもらうか、という点に頭を悩ませています。
当社では、このような不安や課題に応えるため「児童みまもり情報配信ソリューション」を開発しました。その内容を分かりやすく伝えるために、3つの大きな特長を紹介します。
1.児童の動きをいつでも確認できる
上図右上にあるのが「みまもり端末」で、GPSとビーコンが一体型となっています。サイズは一般的な名刺より一回り小さいくらいです。端末は3分に1回通信をして位置情報を取得。そのデータをもとにリアルタイムで位置情報を確認することができ、移動履歴を確認することも可能です。また、「特定エリア通知」の機能も備えています。これは保護者が地図上に事件事故多発箇所など任意のエリアを設定して、そこに端末を持った子どもが入った、あるいは出たタイミングで保護者に通知をするものです。
さらに、学校や通学バスなどに電波を発信する機器を設置することで、みまもり端末を持った児童がそこに近づくと電波を受信して、「学校に到着した」「通学バスに乗車した」という情報が保護者に通知されます。これらの機能で、子どものみまもりを実現しています。
2.安心・安全に関する情報を提供
災害や事件発生など有事の際は、自治体からSNSアプリを通じて利用者(保護者)向けにメッセージを送ることが可能です。さらにメッセージ配信だけでなく、利用者であればいつでも確認できるマップがあり、そのマップ上に地域ごとの避難所や工事中エリアなどを表示し、ハザードマップとして活用できます。管理画面からは利用している全てのみまもり対象者の位置情報が確認でき、児童がどこにいるのかが分かるので、災害時の集団避難中に逃げ遅れている子どもがいないか、といったことも確認できます。
3.SNSアプリ連携による簡単な操作
「児童みまもり情報配信ソリューション」は、メールでの通知受信や、Webブラウザを使ってのサービス利用ができますが、それに加えてSNSアプリを通じての機能提供も可能です。使用可能なSNSアプリは、NTT西日本グループの「elgana」と、「LINE」の2つです。いずれかを既に使っているのであれば新たなインストールも不要なので、利用者の手間も解消され、使い慣れたアプリで操作に迷うことなくご利用いただけます。
「児童みまもり情報配信ソリューション」で子どもたちの未来を守る!
このソリューションの使い方は非常にシンプルで、端末をランドセルに入れておくだけです。位置情報は3分に1回取得するのですが、学校内でランドセルを置いている時などはGPSの通信を止める省電力設計になっており、登下校時の利用のみであれば、月曜から金曜までの1週間を充電することなく利用し続けることができます。
また、端末を通じて取得したデータは、地図などと組み合わせることが可能です。例えば地域マップ上に児童の移動履歴を落とし込み、学校の位置や危険区域などをあわせて可視化すれば都市計画の検討などに役立ち、通学路やバス路線の最適化、児童のよく通る道でのパトロールの強化など、安全対策の優先度決定などにおけるエビデンスとして使うこともできます。
私自身、安心・安全なまちづくりに関わるプロジェクトに従事していることもあり、子どもの未来をどう守っていくか、それをどうつないでいくかが非常に重要だと思っています。当社としてもそうした部分に貢献できるよう、ICTなどを活用して取り組んでいく考えです。本日紹介したソリューションについて、興味がある場合は気軽にお声かけください。一緒に課題解決に向けて考えていきましょう。
[質疑応答]
Q:子どもとのコミュニケーションで、曖昧な表現を使わないというポイントのほかに気を付けるべきことはありますか?
A:(森田さん)大人は、熱く語りたい時に正面から聞かせたがりますが、時に圧迫感があります。メッセージが届くのであれば聞く位置にこだわらなくていいはず。私の場合は常に横に座り、同じ目線で違うところを見て話しています。
Q:自治体に関係する民生委員や地域ボランティアの見回りなどで、気を付ける点があれば教えてください。
A:(森田さん)民生委員や地域ボランティアの方々は、子どもたちと年齢差が大きい場合が多いと思います。そこで感覚にギャップがあるケースも見られ、夕方や夜に子どもが外にいると「早く帰りなさい」と声掛けをする。しかし、安心できる場所がないから外に出て、誰かと一緒になったりしている可能性もあるのです。このような事例もきちんと伝えないといけないし、まとめ役の方々がインプットしていくことも大事です。
Q:ソリューションで自治体が負担する費用の予算感はどの程度でしょうか? できればランニング費用は抑えたいと思っています。
A:(廣瀬さん)費用は導入する学校の数に依存します。ランニング費用については個別見積もりとなっていますが、数万~数十万円程度で収まる金額感で提供しております。そこまで大きな金額は想定されなくても大丈夫です。
Q:ソリューションの使用方法が分からない場合や、端末故障があった場合、利用者はどうすればいいでしょうか?
A:(廣瀬さん)保護者が問い合わせできるコールセンターを準備しています。操作が分からない場合はコールセンターに電話いただければOKですし、端末の故障があった場合も同様です。そこで故障なのか別の事案なのか切り分けますので、ご安心ください。
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