東日本大震災による津波で、庁舎が全損した宮城県女川町。その後、“パッチワーク”状態のシステムで業務を再開したが、新庁舎への移転を機にシステムの再構築を始めた。仮想デスクトップ導入により業務効率の大幅改善が実現したという。
※下記はジチタイワークスVol.14(2021年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]アセンテック株式会社
庁内全課が担当者を選出し「庁内ICT推進検討会」を発足。
太平洋沿岸部に位置する女川町。東日本大震災では町内全域が甚大な被害を受け、庁舎でもハードウェア類やサーバーに保存していた各種データが消失したのだという。
震災後、直ちに仮庁舎を建て、重要性の高いシステムから順次復旧を進めたのだが、各種サーバーは、PCを転用したものや保守期間切れのものがほとんどだった。そんな折、総務省が全国の自治体に向け“自治体情報セキュリティ対策の抜本的強化”を要請。とりあえずの対応を取らざるを得なかった。そのため、故障が発生すると、回復が不可能になるなど、非常に危うい“パッチワーク”状態での業務継続だったという。平成30年秋の新庁舎竣工をきっかけに、松井さんと佐藤さんを中心とした、庁内情報システムの再構築プロジェクトがスタートした。
庁内ネットワークの無線LAN化と現行システム移設までは、新庁舎への移転に合わせてなんとか完了したのだが、平成31年度の予算組みの際、新たな問題が浮上する。パッチワーク状態で構築を進めたため、業務全体を俯瞰したシステムデザインの構築に想像以上の作業負荷がかかる状態だったのだ。
「例えば、複数課にまたがる業務のファイル統廃合や、共有ファイルの取り扱いなどが各課バラバラでした。使う側の視点、運用やセキュリティの課題から設計を深掘りし、ライフサイクルやTCO(総保有コスト)を考慮した仕様書を時間をかけて作成する必要がありました」。プロジェクトチームからエンドユーザーへの方針展開やニーズの吸い上げを図るため、庁内12課から各1~2名の担当者を選出してもらい、松井さんをリーダーとする「庁内ICT推進検討会」を発足させることになったという。
リソースの奪い合いにならないVDIソリューションの検討へ。
全課から担当者を集めたことで、職員の使い勝手を考慮したシステムのあり方を細やかに検討することができた。中でも要望が大きかったのが、ネット接続PCとのファイル交換サービス導入と、VDI(仮想デスクトップ)環境の刷新だったそう。
それまで、LGWAN系PCと物理分離するため、ネット専用サーバーを4基設置していたのだが、「およそ230人の職員が4基のリソースを奪い合うのですから、とにかくレスポンスが悪い。ネット上の資料が最後までプリントアウトできない、プリンターのオプション機能が利用できないなどのトラブルが、頻繁に発生していました」と佐藤さん。
そうした職員ニーズを、ベンダーと繰り返し協議。佐藤さんが専用PCを利用したプロトタイプ環境を作成したことがきっかけとなり、「アセンテック」が提供するVDIソリューション「リモートPCアレイ」採用に向けた検討が始まった。
女川町が導入した仮想デスクトップ化の新システム
“新VDI”環境でファイル交換もスムーズになり、業務が効率化。
同製品は、1ユニットに20~30台分の極小PCカートリッジを搭載することで、PCを1人1台ずつ使用するのと同じ作業効率が実現できるという。「複雑すぎるシステムは、導入コストや操作性、保守性も不安でした。ですが、この製品は設計がシンプルなので、レスポンスの想像がつきやすかったのです。また、国内最大手の警備会社の導入実績も、不安感を払拭してくれました」と松井さん。
導入に当たっては、他社製品との比較・検証も行ったが、リモートPCアレイの“1人1台”の利用環境と、個別設計要素が少ないこと、比較的安価な導入コストなどが決め手になったという。「導入直前は半期で計31件のプリンター障害が発生したのに対し、導入後の半期は7件に激減しました。当たり前のことが当たり前にできるようになったことで、職員たちも喜んでいます」。
以前はネット上の資料を活用する際、チェック済みUSBメモリにダウンロードした後、LGWAN系PCに移行……といった面倒な手間が必要だったため、ネット環境での各種調査が非常にやりづらく、セキュリティ的にもリスクがあったという。それが、同製品導入に合わせてファイル交換可能となったため、職員はセキュアな環境での各種調査を積極的に行えるようになった。
同町は現在、いわゆる“三層の構え”の見直しに向けたロードマップ作成に取り組んでいる。特にネット利活用については、宮城県内の自治体が共同利用する情報セキュリティクラウド経由で接続し、LGWAN系、住基データ系の安全担保を図る仕組みだ。「将来的には、東北6県+新潟県のクラウドにも接続できるようにして、職員が自分の席から、広域ウェブ会議に参加できる体制を整えるつもりです」。
[課題解決のヒントとアイデア]
1.復旧支援派遣の期限後も柔軟に対応できるシステム構成
復旧支援職員の帰還後、業務分担が大幅に変わることを見越し、“1人1台”体制ができるシステム構成にこだわった。
2.システムの再構築前に改善すべきポイントを明確化
検討委員会を発足させたことで、新システムに対する課ごとのニーズを深掘り。改善ポイントを絞り込み、的確な導入時検討を実現。
女川町企画課
左:課長補佐 松井 良男(まつい よしお)さん
右:システム運用支援リーダー 佐藤 義明(さとう よしあき)さん
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