令和2年に市制80周年を迎えた吹田市。コロナ禍による逆風が続く中、これまでとは異なる発想でまちづくりを進める後藤市長に、同市が目指す将来像や、今や欠かせなくなった窓口業務のデジタル化における考え方を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.14(2021年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]富士フイルムシステムサービス株式会社
経済成長に頼るばかりのまちづくりはもはや限界点。
大阪北部に位置し、令和2年4月に中核市へ移行した同市。平成31年より実行に移された「第4次総合計画」においては、“安心安全で豊かな生活を実感できる社会”の必要性が示されている。
豊かな生活というと、収入や貯蓄といった経済活動の面に注目が集まりがちだが、「もちろん、それも大切な要素ですよね。ただ、それだけでは、本質を見失いかねません。全国の自治体が一丸となって、急速に進む少子高齢化対策を進めてはいますが、残念ながら今後、日本の人口減少は避けられないといっていいでしょう。また、それに伴い、以前のような経済成長も考えにくくなっています。つまり、日本は成長期を終え、すでに成熟期に入っているのです。まちづくりという面においても、時代に合わせて変化が必要です。私たちが目指しているのは“成熟中核都市”。成長を追い求めるのではなく、人として本質的な豊かさを実感できるまちにすることが目標です」と後藤さんは語る。
目先の税収にとらわれない長期的な視点での都市開発。
では、“成熟したまち”とは一体どのようなものなのだろうか。それは、同市の都市開発の手法から垣間見ることができる。「開発で多いのは、大規模商業施設や住宅を誘致することです。一時的に税収や人口は増えるため、開発の目的を“まちの成長”にしている自治体にとっては、とても魅力的に映ります。しかし、私たちは、これらを一切目指さないことを明確にしています。大切なのは、このまちに住むに当たり本当に必要なものの整備であり、都市としての価値を上げるまちづくりです」。実際、同市には、大学や病院、公園といった施設が多い。これらは大きな税収には結びつかないが、住民の満足度に直接つながるものだ。同市への転入者が年3万人にのぼる理由も、このあたりにあるのだろう。
窓口業務のデジタル化は、温かい空間をつくるため。
“心が満たされた暮らし”もまた、本質的な豊かさに含まれる。これらの実現を図るため、同市が取り組んでいる一例が窓口業務のデジタル化だ。一見、これらは結び付かないように思えるが、「実現したい窓口をレストランで例えるなら、厨房の効率化はクールに進めつつ、スタッフはなるべくホールに出て、笑顔でおもてなしをするイメージ」だという。そんな発想に至ったのは、窓口で発生したある課題だったという。
同市は、転入者が多いこともあり、以前から窓口が混雑し、住民を待たせてしまっていた。その対策として、住民が操作するタッチパネル端末などをホールに設置し、自動で担当課に割り振りするような仕組みを入れてはどうかという意見が多く上がっていた。「でも、それはちょっと違うんじゃないかと。効率だけを求めるなら、全てオンラインやバーチャルにすればいい。でも今は、人生100年時代。歳をとれば誰でも、この手のものを使いこなすのが困難になります。また、コミュニケーションを求め、おしゃべりしに来る方の気持ちも大切にしたい。これらを非効率だから“人に頼らず自分でやってくれ”では、もはや自治体ではなくなってしまいます」。
そこで、様々な検討を重ね導き出した答えが、窓口での裏方業務を、徹底したデジタル活用で効率を上げ、それで得た時間を対面業務に注力するといった考え方だ。その方針をもとに、業務支援システムの導入やSNSによる混雑状況の発信、ワンストップで住民を案内するコンシェルジュの設置など、様々な混雑対策を実施した結果、待ち時間は徐々に減少していった。同時に、人と人との会話が弾む、温もりのある空間の維持にも成功しているという。
吹田市が進めているデジタル化施策
第4期情報化推進計画
基本理念「分野を超えたICTの利活用」
市民のためのサービスデザイン
市民視点で検討し、利用者のニーズの多様化に対応。一連のサービス全体が、すぐ使え、簡単で、便利なデジタル行政サービスの実現を目指す。
市民を守るICT
ICTの側面からも防災・防犯対策を実施。“災害に強く安心して暮らせるまちづくり”および、“犯罪を許さないまちづくり”を目指す。
業務改善を支えるICT
ICTを利活用して行政の各種運用を効率化。より付加価値の高い新たなサービスの提供を、計画的かつ効率的に行うことを目指す。
後藤市長から学ぶ2つのポイント
■変化に合わせたまちづくりを
目の前の成長を追う時代は終わった。遠まわりに思えても、まちの価値を上げることが、結果的に人を呼び、次の世代へつなぐことになる。
■デジタル化の目的を誤らない
業務の効率化だけを目的にデジタル化を進めてしまうと、本来、自治体が果たすべき役割を見失う。ICTは人々を豊かにするための手段。
OCR受付サービスの導入で書かずに済む窓口を実現。
さらに、新たな取り組みとしてスタートしたのが、煩雑な各種手続きの簡略化だ。同市が、令和3年2月に導入した「富士フイルムシステムサービス」の「異動受付支援システム」が、その解決策に当たる。「これは、住民の方が手書きすることなく、申請書作成を可能にしたサービスです。どの自治体でもそうですが、転入する際に必要な書類はかなりの数になります。それら全てを手書きするのは大変な労力になっていたはずです。導入により、住民の負担を一気に軽減することができるのではないかと思います」と期待を込める。
これら業務のデジタル化をはじめとする様々な施策で、果敢にまちづくりを進める同市。「今があるのは、歴代の市長がバトンを引き継いできた結果。まちは急激に変わるものではありません。私の使命はこの車輪を減速しないようにまわし続けること。そして、車輪の方向を間違わないようにすることです」。
吹田市 市長
後藤 圭二(ごとう けいじ)さん
「異動受付支援システム」の導入により、転入者の手続き作業を大幅に軽減。
転入者の負担が大きかった受付窓口での手続き作業。
全国で少子高齢化が進む中、年間3万人以上の転入者を受け入れている同市。地理的な利便性もさることながら、これまで進めてきたまちづくりの成果が、結果となってあらわれている形だ。日々、人口減少との戦いを続けている自治体としては、何より喜ばしいことだろう。
しかし、窓口業務を担当している市民課の小西さんは、転入者が増加するに伴って、心苦しく感じることが増えていったという。窓口の混雑問題だ。「これまで様々な対策を講じた結果、平成29年度には最長5時間もあった待ち時間を、1.5時間まで短縮することができました。しかし、住民が転入するとなった場合、膨大ともいえる書類の手続きが必要となります。たとえ、待ち時間が短くなったとしても、これらの負担は、転入者にとってかなり大きいものだと感じていました」。
確かに慣れないまちの市役所で、多岐に渡る書類を用意するのはつらい。「特に、子どもがいる方などは、最大10枚ほどの書類への記入が必要です。基本的に必要な情報は同じでありながら、これら全てを“手書き”でお願いしなくてはならないことが、とても心苦しかったです」と当時を振り返る。
デジタル技術の導入で、住民の手続き負担を軽減。
そんなとき、勉強のために訪れた業務のデジタル化を軸とした展示会で、課題解決への突破口が見つかった。「スキャンに通すだけで、書類の文字をデータ化し、それを、ほかの書類にも自動転載できるOCRシステムの存在を知りました。自治体の窓口業務に特化したものも数多く出展されており、これはまさにうちにぴったりじゃないかと」。また、これらのシステム導入により期待できる成果が、同市が進める「第4期情報化推進計画」での基本方針“市民のためのサービスデザイン“に直結するものでもあったことから、その後の動きは迅速だった。
書類をスキャンで読み取りデータ化する。
早速、同様のシステムを開発する数社からプレゼンを受け、導入を検討。結果、住民記録や戸籍システムの分野などで、自治体への導入実績が多数あったことが決め手となり、富士フイルムシステムサービスの異動受付支援システムの導入を決定した。「住民サービスに関わるものなので、信頼性と実績は重要な指標でした」。また、同社は、システムベンダーとしての強みに加え、窓口業務の民間委託を受託した実績もあり、現場を熟知していることも決定の後押しになったという。
システムの習熟を深めて、さらなる待ち時間の短縮へ。
同システムは、令和3年2月から本格稼働したばかりだが、評判は上々だという。「転入の場合、ほかの自治体が発行した“転出証明書”さえあれば、異動届の手書き作業はなくなりました。転入者の負担がぐっと減った印象です。まだ導入して間もないので何ともいえない状況ですが、これらの手続きが簡略化されることで、今でも1.5時間ほどかかっている待ち時間の短縮にもつながるのではないかと思います」と期待を込める。
同市は今後も、質の高い行政サービスの実現を目指し、転入に伴う書類だけでなく、窓口で取り扱う書類全般に対して、幅広くデジタル化を導入していきたいとのこと。また、デジタル化によって得られた利便性についての情報発信も、強化していくという。「例えば、書類交付時の手数料の支払いに二次元コード決済が使えるようになったことなど、まだ周知しきれていないことをしっかり伝えていくことで、住民にとってより便利な暮らしを提供できればと思っています」。
住民本位のサービスを提供するという概念が、庁内の隅々にまで行き渡っている印象を受ける同市。これらが今後、どのような形で発展していくのか、注目を続けていきたい。
吹田市 市民課
左:小西 啓介(こにし けいすけ)さん
右:笹岡 佑也(ささおか ゆうや)さん
OCRを活用した作成支援で書かせない窓口を実現する。
全てを電子上で完結
転入者は、直前に住んでいた自治体から発行される転出証明書を窓口に提出。窓口の担当者は、その証明書をOCRで読み取りデータ化し、住民異動届に反映。その後、転入者本人に、内容をタブレットで確認してもらうことで手続きが完了する。なお、データはそのほかの必要書類にも自動転記されるので、一連の転入手続きにおいて、手書き作業の手間が大幅に軽減される。
システムの導入効果
1.行政サービスの質向上
書類への記入などの手間を減らし、待ち時間を短縮。事務の正確性も向上することから、より質の高い行政サービスを提供することが可能となる。
2.職員の事務効率向上
手書き文字の判読や書き間違いの補正は、時間のかかる作業。これらの作業をシステム導入により省略。電子上で完結するため、事務効率が向上する。
3.窓口の3密を回避
コロナ禍ということもあり、窓口の混雑は避けたい。窓口でかかる手間と時間を減らすことで3密を回避する。感染リスクの軽減につながる。
自治体の環境やご要望に応じて提案します。
異動受付支援システムをはじめ、業務の効率化や住民負担の軽減を実現する各種ソリューションを展開しております。自治体が抱える課題に応じた最適な製品を提案させていただきますので、気軽にお問い合わせください。