社会のデジタル化が進むにつれ、これまでとは全く異なる視点で、様々な課題の解決を目指す自治体が増えてきている。子どもの目線を通じて地域の魅力を伝える“社会体験アプリ”を自治体で初めて導入した神戸市もその1つだ。詳細を同市のチーフ・エバンジェリスト、栗山さんに聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.14(2021年6月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]株式会社キッズスター
まちのファンを生み出す新たな切り口のDX施策。
“地域や地域住民と多様に関わる人々”を意味する「関係人口」。同市は、まずこの層を拡大させることを、地域の活性化に取り組む際の糸口としている。そのため、特に重視しているのが、様々な人に“関心を持ってもらう”ことだ。オン・オフラインを問わず、まちとの接点を数多く創出することで、親近感や愛着を持ってもらい、将来的には定住人口の維持や転入増加へとつなげたい考えだ。
「神戸市には、おしゃれで都会的な港まちというイメージを持つ方が多いです。実際、人口150万人を抱える政令指定都市ですので間違いではないのですが、中心部の三宮から車で30分も行けば豊かな自然が広がります。そこにはきれいな砂浜や緑豊かな山、さらには田んぼや畑が連なる里山の田園風景があり、休日には温泉や酒蔵めぐりが楽しめます。こうしたあまり知られていない魅力こそ発信していきたいと考えています」と栗山さん。
市営バスの運転手としてまちの観光スポットを巡る。
そこで、まちの魅力を発信するツールとして活用したのが、親子で楽しく様々な職業体験が楽しめる「キッズスター」のアプリ「ごっこランド」だ。すでに多くのファミリー層が利用しており、ダウンロード数は400万を超える。「利用者の約8割が親子で一緒に利用していることや、総体的なコストパフォーマンスの良さなどを、具体的なデータを用いて庁内で説明した結果、スムーズに導入が決まりました」という。
バスの運転手として、神戸市内のファミリースポットへ。
現在、市の仕事を体験できる「バスのうんてんしゅさんごっこ」や「しょうぼうしさんごっこ」などがコンテンツ化されており、誰でも無料で利用ができる。楽しみながら観光スポットを巡ることで、まちへの関心を高めていく仕組みだ。運用開始は令和2年5月から。コロナ禍による緊急事態宣言が出されている時期だったが、“おうち時間”が増えた人も多く、すぐに目標利用回数をクリアした。家の中でも観光気分が味わえ、楽しめると、利用者の反応は上々だったという。
子どもたちから情報収集してつくるジモトガイド。
子どもたちがピックアップしたまちの魅力満載の「ジモトガイド」。
ごっこランド内の新コンテンツとして令和3年4月に登場。デジタルブックを通じて動画を再生するように楽しめる。
親子で一緒に楽しめるエリアガイドにも掲載。
さらに、これらのコンテンツの評判が良かったことから、同アプリ内でリリースが予定されていた新コンテンツ「ジモトガイド」にも、即座に参加することを決定。
こちらは、電子版のエリアガイドとなっており、既存のものとは全く異なる視点で編集されているのが特徴だ。「コンテンツが、全て子ども目線でつくられています。“大人が考えた子どもが喜びそうな場所”ではなく、あくまで“子どもが興味を持った場所”を紹介しているのが新しい」と、その内容を評価している。
取材や情報収集は、同社が地元の子どもたちとオンラインによるワークショップ形式で実施した。独自のノウハウを持つファシリテイター(司会役)が、情報と本音をうまく引き出しながら進行。子どもたち自らが撮影してきた写真をもとに、同社がガイドとしてつくりあげる流れだ。今回の掲載では、一般的な媒体では取り上げないであろう、おもしろ自動販売機に注目。ワッフル、スイーツトマト、餃子サイダーなどの珍しい販売機を巡るとともに、その近所にある穴場的なスポットを紹介することで、結果的にまちの見所をバランスよく紹介することに成功している。
また、同アプリを導入したことで直接的に大きな効果を感じたのは、アプリ内の広告バナーを自由に使えることだという。同市は「ふるさと納税」やイベントPRに活用。毎月1,500万回、170万時間以上の利用がある人気アプリなだけに、その効果は抜群だった。この辺りがコストパフォーマンスへの評価にもつながっているようだ。
今後はリアルイベントと連動させた効果測定なども予定しているとのことで、その結果が楽しみだ。
神戸市 チーフ・エバンジェリスト
栗山 麗子(くりやま れいこ)さん
ごっこランドに関する利用者アンケート
1.ユーザー全般の調査
2.神戸市の効果検証
[アプリ活用のポイント]
反響が期待できるバナーリンク
コンテンツの最後に表示される広告バナーは自由に掲載することができる。
次に、教育的なアプローチから同ガイドへの掲載を決めた教育委員会を紹介する。
ガイド制作のワークショップを教育プログラムの一環に。
教育委員会がジモトガイドを採用した理由とは。
ジモトガイドに掲載をした厚真町。この話は当初、シティプロモーション担当へ向けられたが、実際に導入したのは教育委員会だった。その経緯について同町の斉藤さんは、「当町では、地元の魅力について学ぶことを目的の1つにした“ふるさと教育”を実施しています。子どもたちと地元のガイドブックを制作すること自体に、大きな教育的価値があると感じました」と語る。
また、ワークショップをオンラインで行うことにも注目したという。「地方は都市部と比べ、活きたデジタル環境に触れる機会が少ないのが現状です。遠い場所にいる大人たちとネットワークを通じて1つのものをつくりあげるという体験もまた、子どもたちの未来につながるものだと思っています」と語る。同町が新しい取り組みに対して前向きだったこともあり、導入の話はとんとん拍子に進んだという。
ICT化に向けた教育的価値に注目!オンラインによるワークショップ
ジモトガイドは、オンラインによるワークショップで子どもたちの意見を吸い上げ、コンテンツを制作していく。
[ワークショップ実施方法]
●オンライン方式(Zoom など)
●1 回当たりの参加は8~9名
一緒につくりあげることがかけがえのない経験に。
オンラインでガイドを制作するに当たり、当初はワークショップの参加者を集めることに苦戦したとのこと。
ICTを活用した経験が、各家庭でまだ少なかったことが原因だ。「そこで、私たちが町内の公共施設で接続できるよう設定し、少人数で集まってもらうことで乗り越えました」。参加者からは「面白い経験になった」「できあがりを見て感動」「まちのPRの役に立ててうれしい」などの感想が寄せられたという。
厚真町の”ジモトガイド”トップ画像。 インパクト大!
地元の大人と子どもたちがつながる文化をつくる。
「地元の方は自分たちのまちには『何もない』と言います。一方で、このまちに魅力を感じて移住してくる人もいます。この差は何だろうと思っていました」。ジモトガイドはこのギャップの解消にも、一役買ってくれそうだ。
「完成されたガイドには、スケートやサーフィンを行う授業風景や、特産品のフルーツ『ハスカップ』を使ったスイーツ、キツネやフクロウの様子など、まちの魅力が溢れていました。子どもたち目線で描写されたこれらコンテンツを見て、地元の方も改めて、このまちの良さや素敵さを実感したのではないでしょうか」と語る。
大人と子どもたちの交流を垣間見ることができるのも興味深い。ガイドの制作を通じて、各世代の交流が深まり、新たな文化を形成していく。まちを持続的に発展させていくための手法として、このようなアプローチもまた、その1つだといえるだろう。
厚真町教育委員会 生涯学習課
社会教育グループ主任(社会教育主事) 斉藤 烈(さいとう れつ)さん
実は自分たちのまちに、子どもを夢中にさせる魅力的なコンテンツがすでにあるんです。
私どもは、“子どもの夢中を育てます”を基本理念に、子どもに寄り添ったプロダクトを徹底してつくり続けている企業です。
日々の業務に取り組む中で、ふと、「子どもが心から楽しめるガイドブック」がないことに気づきました。もちろん、家族向けの観光ガイドはありますが、いずれも大人目線のものばかり。
大型の遊園地はもちろん楽しい。でも実は、子どもたちにとって自分たちが住むまちこそが、まだ見ぬ新鮮な驚きが詰まったワンダーランドなのではないか。これらの魅力を何とか可視化し、共有することができないか。そんな思いがジモトガイド構想のきっかけです。
実際、地元の子どもたちとのワークショップでは、大人たちが気づけなかった、まちの魅力が山ほど出てきます。アプリはどなたでもご利用いただけますので、その雰囲気をぜひ一度感じてみてください!
ジモトガイドを導入した自治体から寄せられた声
大阪府八尾市
子どもたちとのワークショップを通じて、魅力を再発見できました。八尾の面白さを多くの子どもたちに届けたいと思います。
鳥取市
子どもの目線で改めて地元・鳥取市の魅力に気づく良い機会になりました。コロナ禍でも子どもたちの視点はキラキラ輝いています!
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