長引くコロナ禍の中、感染拡大防止と経済活性化は目下の最重要課題だ。先が読めない状況で自治体もこれら課題の板挟みになることがあるが、様々な局面で判断をする際の根拠となるデータがあれば心強い。そうした数値データを民間から集め、インターネット上で広く発信している「V-RESAS」について、開発の経緯や活用法を内閣官房の宇野さんに聞いた。
interview
内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部事務局
参事官補佐 宇野 雄哉(うの ゆうや)さん
「V-RESAS(ブイリーサス)」は、地域経済にフォーカスし、様々な民間企業から提供いただいたデータを可視化するシステムです。コロナ禍におけるデータの有効活用をめざし、主に地方自治体、金融機関、商工団体に利用していただけることを目的として、2020年の6月30日に運用を開始しました。
様々なデータをグラフィカルに確認できる
2021年3月時点では、人流、消費、飲食、宿泊、イベント、興味・関心、雇用、企業財務の8カテゴリーを持ち、それぞれ都道府県ごとや時間帯ごとのデータをコロナ前の2019年比でグラフ化しています(消費のみ前年比)。
WEB上で一般公開しているので誰でも利用でき、前述のターゲットに属さない方でも、メディア関係者、エコノミスト、その他地域おこしに関わる人などに有益なデータを提供しています。工夫を重ねてビジュアライズしているので直感的に操作でき、データの推移などが容易に確認できます。
V-RESAS誕生の背景
V-RESASは、地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」から派生したシステムです。
RESASは2015年から運用しており、政府の統計や、民間企業からいただいたデータをグラフや地図上に落とし込んで可視化しています。これは地方創生を目的とするもので、地方版の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をはじめ、地域の現状認識や将来展望を考えるための材料としてお使いいただいています。基本を成す部分はV-RESASと同じです。
RESASのトップ画面
ただ、RESASの掲載情報は更新頻度が年に1回程度となっており、足元の情報を確認したい際にはデータの鮮度に課題があることは否めません。5年後、10年後といったスパンでの地方創生を考えるという使い方であれば問題ないのですが、コロナ禍で経済が激しく変動する現状を分析するような場合は、できるだけ直近のデータが必要になります。また、「『GoToトラベル』で飲食と宿泊は早い回復を見せたが、イベントの回復は遅い」など、業界によってスピードや動きが異なるため、グラフ上で時間を示す“X軸”をより早く細かく表示する必要があります。
そこで、RESASの利便性を活かしつつ、“今”に近いデータを見ることができるシステムが必要だという発想のもと、V-RESASを立ち上げました。
V-RESASでは、カテゴリーによって違いはありますが、多くのデータが2~3週間前のもので、その日のデータが確認できるものもあります。
具体的な活用方法 ~人と経済の動きから地域の未来を予測する!~
V-RESASは見やすさにこだわった作りになっており、初めての人でもすぐに使えます。もし、どこから見ればいいのか迷うような場合は、まず都道府県を選び、コロナ対策を考える上で共通して必要とされる「人流」の確認から始めるのがおすすめです。
データ活用の例1:人流
コロナ禍で、顕著に影響が出ているのが人の流れです。その変化は様々な産業に波及しています。旅行や宿泊、イベントなどが最たるものです。
V-RESASでは、都道府県を跨いで移動している人数の推移が見られるようになっており、トップ10も表示されます。その上位にある地域の人びとが、自分たちの地域経済にとってどの程度重要なのかを検証し、動きを回復させるのか、させないのかという判断をする材料にすることができます。
「人流」の画面
また、都道府県全体の状況のみならず、特定の駅を指定できます。その駅周辺の滞在人口がわかり、時間帯を朝に設定すると通勤客の数がどのように変化しているか把握でき、夜に設定すれば駅前の飲み会需要がどう推移しているか、といった推測をする際に役立ちます。
データ活用の例2:消費
V-RESASでは、消費の動きもグラフ化しています。クレジットカード会社からの決済に関するデータで、どのような業種で消費が盛んなのかがわかります。また、スーパーなどのPOSレジからのデータで、どのような品目が売れているのかがわかります。クレジットは月に2回、POSは週に1回の更新です。
「消費」の画面
この推移を見ることで、たとえばスポーツ飲料の消費が減ったのは、巣ごもり生活で運動する機会が減ったことが影響していると紐付けることができ、生クリームがホットケーキミックスと連動して上昇しているのは、お菓子づくりに使う人が増えたという推測もできます。
気になるのは、スピリッツの数値が上昇している時期があることです。スピリッツはウォッカやジンなどのアルコール度数が高い酒類ですが、平時にこれらの消費量が急に増えることはあまりないので、消毒液が入手しづらいため代替品として使われている可能性が考えられます。それに対し、「消毒液などの物流を支援する」、「地域住民への啓発をする」などの対策を考えるきっかけにもなります。
データ活用の例3:雇用
求人状況については、ハローワークが持っているデータだけでなく、民間企業の協力のもと様々な求人サイトのデータも集めているので、世の中の求人に関する指標の大部分がカバーできています。
コロナ禍においては、飲食や宿泊、イベントなどの業種が大打撃を受けていますが、おのずとそれらの仕事に従事する人々にも影響があります。雇用状況を見ることは、そうした実情を知ることに繋がります。
「雇用」の画面
また、求人のデータは、消費者向けの産業だけでなく、エネルギーや建設などBtoBのデータも含めて検証できるという利点があります。例えば、IT業界の求人が一定数をキープできているのはテレワークやDXが注目されていることに起因するのではという仮説の裏付けになります。また、飲食/フードの求人が減っているという事実に対し、飲食店情報の閲覧数グラフでは、ジャンルを問わず軒並みダウンしている中でファミレス・ファストフードはある程度の水準を保っている、ということが分かり、テイクアウトのサービス展開が業界の命綱になっているのでは、という推測ができます。つまり、「飲食」と一括りにして考えることはできない、という見方ができるのです。
自治体での活用事例
これらのデータを活用した事例があります。
ある自治体では、独自の給付金制度を策定する際に、給付を行う業種を絞り込むことを検討していましたが、V-RESASのデータから全ての業種が落ち込んでいることが分かり、全業種を対象とするように舵を切りました。また、地方創生交付金を申請する際に、現在の状況を説明するためのエビデンスとして使ったという例もあります。
こうした用途をはじめ、地域のイベントをどうするか、広報でどのような内容を発信するか、といったシーンで、より地域に寄り添った結論を出す一助にもなるでしょう。さらに、商工団体や金融機関と話をする際にも、根拠のある議論を組み立てるためにV-RESASのグラフを提示し「現状はこうです」と説明することが可能です。
政策は根拠に基づいて行うべきものです。もちろん「勘」や「経験」は大事ですし、メディアの報道も一つの指標になるでしょう。そこにV-RESASのデータを加味することで、数字というファクトを直視しながら、より説得力のある政策を実行できるようになると考えています。
今後の展望について
V-RESASは、コロナ禍でのデータ活用を目指すシステムですが、まだ十分に利用されているとは言えません。この記事を読んでくださっている方々も含め、より多くの人に使っていただければと望んでいます。初めてV-RESASに触れる方や、データ分析が得意ではないといった方にも身近に感じていただけるよう、今後はセミナーの展開や動画の配信なども行い、普及に努めて行きます。
また、機能の改善も進めています。例えば、問い合わせで多く寄せられる「データのダウンロードをしたい」という声への対応です。V-RESASは立ち上げのスピードを重視したため、データの取扱いに慎重を期してきましたが、令和3年2月2日に一部データがcsv形式でダウンロード可能になりました。他にも、登録したグラフを並べて表示できる機能を付加して、比較による検証をしやすくする「お気に入り」機能や、新型コロナの新規陽性者数のグラフと重ね合わせる機能も実装しました。
こうした進化も重ねながら、先の見えないコロナ禍において、感染拡大防止と経済活性化のバランスをとる一つの指標になればと願っています。下記サイト、Facebookなどで最新情報を発信していますので、ぜひご利用ください。
■V-RESAS
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