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神奈川県川崎市

【事例深堀】コロナワクチン集団接種訓練、川崎市が全国に先駆けて実施

いまだ収束の兆しが見えないコロナ禍の中、状況打破の決め手として期待が高まる新型コロナ感染症ワクチン。ただ、16歳以上・約1億人の国民に対し、超低温下で保管しなければならないワクチンを安全かつ確実、そして可能な限り速やかに接種するためには、相応の準備と計画策定が必要だ。そこで厚生労働省と川崎市は1月27日、全国に先駆けて新型コロナワクチンの集団接種訓練を実施した。訓練会場の運営を担当した同市健康福祉局感染症対策課の神庭功担当課長に、訓練の様子や実際の集団接種会場で予想される課題を尋ねた。

どこの自治体でも応用できるよう
小ぶりな体育館を会場として選択


どこの自治体でも参考にできる広さとするため、市立看護短期大学の体育館を会場に選んだ。

──どのような経緯で、国内初の集団接種訓練を行うことになったのですか

神庭さん(以下、敬称略):当市では2017年に、新型インフルエンザ等の発生に備えたワクチンの集団接種シミュレーションを、国との共催により実施した経過があります。また、当市健康安全研究所の岡部 信彦所長が新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバー、当局の坂元昇医務監が厚生科学審議会の予防接種・ワクチン分科会委員を務めていることなどから、今回の訓練について国からの打診があったものです。

もちろん当市としても、新型コロナワクチンの集団接種という、これまで経験したことのない事業に対するシミュレーションが必要だと考えていたことも、実施理由の1つとなります。

──先行事例が無い中で、訓練実施前に苦労したことは

神庭:過去の訓練と異なり、「密」を避ける対策についても検討が必要となりました。大会場を使えば十分に余裕のあるレイアウトで会場設営ができるかもしれませんが、今回の訓練は、標準的な会場運営ノウハウを全国の自治体と共有することも目的の1つであったため、どこの自治体でも参考にできるレベルの会場で訓練を実施しました。

そこで、市立看護短期大学の体育館を会場に選び、バスケットボールコートほどの広さの中で、換気の状況や椅子の間隔などに配慮しながらブースのレイアウトを検討しました。
受付から予診、接種といった一連の流れの中で滞留が生じると、そこで密な状況が発生しやすくなりますから、レイアウトについては何度も変更しながら動線の修正を行いました。

──訓練は、どのような形態で実施されたのですか


待ち合い用の椅子はもちろん、受付、予診、接種、経過観察などの各ブースも、密状態が発生しないよう少しずつ離してレイアウトした。
 

神庭:体育館内に受付、予診票記入確認、医師による予診、接種、接種済証交付、経過観察、救護などの各ブースを配置。

医師3人、看護師5人、事務スタッフ16人の体制で、1時間あたり30人程度にワクチン接種を行うという想定で実施しました。ファイザー社の協力により、エキストラの市民役を用意し、本番さながらの訓練が行えました。

市民を滞留させないために
さらに細部の見直しが必要

──訓練を通じて感じた「成果」や「課題」はありますか

神庭:まず、良かったと思えるのは、各ブースを少しずつ離れた場所にレイアウトしたことで、懸念していた密状態があまり発生せず、比較的良好な人の流れが作れた点だと思います。
通常の集団接種ならば、接種が終わった順に待ち合い椅子を1席ずつ詰めていく…といった人の流し方もあるかもしれませんが、なるべく接触を減らさなければならない環境下ですので。
むしろ、ワクチン接種を受ける人たちにブース間を移動してもらうことで、人が一ヵ所に滞留しにくい状態が保たれたと思います。

また、前述の医師・看護師・事務スタッフの人数で、想定していた1時間あたり30人の接種が実施できるという手応えをつかむことができました。

一方で、予診票記入から医師による予診までの行程に関する課題も見えてきました。今回の訓練は、4月から開始予定の高齢者接種を想定して実施しましたが、高齢者ならば複数の持病があっても不思議ではありませんし、1つひとつの質問や相談に医師が丁寧に答えていると、予診の待ち時間が長くなり、そこに人が滞留しやすくなります。

実際に集団接種が始まると、想定以上の質問や相談を受ける可能性もあります。予診の効率化に向けて、相談に対応する担当の配置や、医学的観点からの予診票事前確認などの工夫が必要と感じました。

ファイザー社の協力で市民役のエキストラが準備され、本番さながらの接種訓練が実施できた。

──承認見込みのワクチンは、温度管理の難しさなどが報道されていますが、会場でのワクチン取り扱いに関する課題は

神庭:ファイザー社製ワクチンは、ディープフリーザーでマイナス75℃前後に保てば2ヵ月間の保存が可能とされていますが、ワクチンをいったん取り出すとフリーザーには戻せません。
195バイアル(注射剤用の容器)が最小の流通単位で、これをドライアイス充填式の保冷ボックスに入れて運ぶわけですが、約30kgの重量になるので、会場での受取体制にはやや注意を要します。

保冷ボックスの場合、ドライアイスによる保管は最長10日~14日間、その後、2~8℃の冷蔵庫に移して最長5日程度の保管となるので、ワクチンの保管・管理には細心の注意が必要です。また、ワクチンを無駄にしないためには、予約数の設定など、厳密な計画が必要だと思われます。

──そうした訓練の成果や注意点の情報を、どのように他自治体と共有しますか

神庭:集団接種の手順を全国の自治体に公開できるよう、事前に1つずつの行程をビデオ撮影し、現在、厚労省が動画編集を行っていますから(※取材時)、近く何らかの方法で全国に提供されるとうかがっています。

他の自治体ばかりでなく、当市内でも複数会場の運営を検討していますので、訓練の成果を活かせればと考えています。
また、場所によって会場の大きさや形が異なるため、全ての集団接種会場が今回の訓練で用いたようなレイアウトになるとは思いませんが、訓練で得られた留意点などをもとに、それぞれの会場に応じた工夫を行っていきたいと考えています。

今後始まるワクチン接種では、接種率などのスピードばかりが注目されやすいのではと、懸念される部分がありますが、何よりも重要なのは「安全・確実」な接種だと思っています。当市では、安全かつ確実、可能な限り速やかに、希望する市民にワクチンを接種できる体制の構築を目指して準備を進めていきたいと考えています。


【訓練を通じて見えてきたPOINT】

1.会場の形状に合わせてレイアウトを工夫

訓練で用いた体育館はスクエアな形状だったが、他の会場で集団接種を行う場合は、広さや室内形状に応じてレイアウトを変更し、人の流れを滞留しにくくする工夫が必要。

2.状況を見て予診ブース回りを調整

実際に住民向け接種がスタートすれば、予診ブース回りで待機時間が生じやすいので、予診時間を短縮するための策を事前に考慮していた方が良い。

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