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パズル型公務員から『伝わる』ブロック型公務員の時代へ

コロナウイルスの感染拡大により、これまでの「当たり前」は通用しなくなった。自治体や公務員も例外ではなく、従来の様式や働き方を変えていかざるを得なくなっている。そんな時代に活躍できる「ニューノーマル公務員」になるために、考え方と行動をどうチェンジしていけばいいのか。元・三芳町の職員で、現在は自治体の広報アドバイザーを始め、新たなチャレンジを続けている佐久間 智之(さくま ともゆき)さんに寄稿いただいた。

失敗しないことが美徳の事なかれ主義

前例踏襲――。公務員の代名詞と言えばこの言葉でしたが、今変わろうとしています。新型コロナウイルスにより誰も経験のしたことのない未曾有の事態が起こり、これまで当たり前だったことが通用しない、そんな世の中になっています。例えば、満席のコンサート会場で大きな声で声援をおくることは当たり前でしたが、感染防止対策を講じるために入場制限や発声の制限が行われています。

緊急事態宣言下の外出自粛のとき私たちの暮らしは一変しました。各企業はリモートワーク、テレワークに切り替え在宅ワークを可能としました。平時のときからIT環境が整備されていたり、普段からテレワークを推奨していたことで速やかに時代の変化に順応できたと言えます。では自治体、公務員はどうだったでしょうか。

残念なことにテレワークどころかほとんどの自治体はLGWAN回線のためインターネットに繋げられない環境が多く、さらにZOOMなどのオンラインミーティングツールがセキュリティ的に使用できないなど様々な課題が浮き彫りになったのです。

なぜ改善してこなかったのでしょうか。それは職員のITに関しての知識が乏しく、また新しいことを行うことに二の足を踏み前に進まず変化を好まない風潮、失敗しないことが美徳とされる気質、つまり前例踏襲主義が自治体内に蔓延しているからに他なりません。交通事故を起こさないために「車を世の中からなくす」という考えではいつまでたっても進歩がありません。そして今回のコロナ禍でも波風を立てないため、IT活用について必要性を感じていてもアクションを起こさないのです。

答えのないブロック型公務員の時代

「公務員は安定している」、「公務員は仕事が楽だ」などと評する人もいますが、職員の数は年々減少しているにも関わらず、事業は増える一方です。結果一人当たりの業務量が増え残業せざるを得なくなるのです。さらに、「頑張っても給与が上がらない」、「上司の感情に振り回されてしまう」など、身分は安定していても精神的に不安定になっているのが現状です。このままだと、意欲のある有望な公務員ほど次々に辞めてしまい、全体的に職員の質は下がり事なかれ主義の上司が増え、能力のない職員でも年功序列で上司となりモチベーションが上がらず、悲観してまた一人立ち去っていく負の連鎖が起こってしまうことは目に見えています。

指をくわえて甘んじて受け入れる。本当にこれで良いのでしょうか。

これからの公務員は「パズル型」ではなく「ブロック型」が求められていきます。

パズルは答えが決まっています。ピースを型にはめていって完成に導くプロセスは、「これは決まっているから去年と同じで」と言われて作業をこなすことと同じです。一方、ブロックは様々なパーツを組み合わせることで建物をつくったり、船をつくったり、車をつくったり無限に形をつくることができます。これを公務員に当てはめてみると、未来を創造し職員の英知を一つのブロックとして組み合わせることで、無限の可能性を広げられると考えることはできないでしょうか。
何かがあってから腰を上げるのではなく、起こる前に現状と課題を見出し、改善策は何かを考え、それが住民のためにどのように繋がるのかを考える思考が必要なのです。つまり「編集力」「創造力」「行動力」が問われる時代になっているのです。

コロナにより未曾有の事態が起こったとき、誰も何が正解か分かりませんでした。そのため、パズル型公務員は何をしてよいか分からず、他の自治体がアクションを起こすのを待って、それを金太郎あめのように真似をしていくことしかできません。一方、ブロック型公務員は、問題を分析し内部を調整する創造力と編集力に優れているためスムーズに事を運び、すぐに行動しデジタル化を推進したりリモートワーク、テレワークができる環境を整備したりしました。

この大きな違いは、自分の保身のみを考え失敗しないことを美徳とするパズル型公務員に対し、ブロック型公務員は常に「住民に目を向けている」ことに起因していると考えます。リモートワーク、テレワークが住民に目を向けている?と疑問に思うかもしれませんが、職員が効率的に業務を遂行できるように環境を整備することは、結果として住民サービス向上に繋がることをブロック型公務員は知っているのです。
パズル型公務員は「LGWAN回線しかないからZOOMが出来なくても仕方がない」とすぐに諦めてしまいますが、ブロック型公務員は「ZOOMを使えるようにするためにはどうすればよいのか。そしてそれがどのような業務改善と住民サービス向上に繋がるのか。課題となる部署、人、コトはないか。今起案を出したら合議をもらってどのくらいから使用できるか」などまで一瞬にして創造力、編集力を駆使して考えることができるのです。

「伝える」と「伝わる」の違い

一方、少し視点を変えると「伝える」と「伝わる」の違いも見えてきます。パズル型の公務員は自分の想いを一方的に「伝えている」だけですが、ブロック型の公務員は相手にどのようにして「伝わる」を意識しているのです。

例えば誰かに好きな気持ちを伝えたいとき、夜な夜な想いをギュッと詰め込んだラブレターを書いたとしても、それを相手に渡さなければ意味がありません。そしてただ一方的に渡すのではなく、「部活が終わった後に体育館の裏で渡そう」などシチュエーションも考える必要があります。これを行政に置き換えて、ラブレターが制度や事業だとします。「うちは良い事業をやっている」「こんな良い制度があるのになぜ活用しないのだろう」と行政が思っていても、それが住民に届かなければ、「やることが目的になっている」と言えないでしょうか。

一方で「自分はこんなに頑張っているのに評価してくれない」など歯がゆく感じることがあっても、その自分の「想い」が相手に伝わっていなければ意味がないのです。「広報やチラシで周知をしている」「一生懸命やっている」と思われるかもしれません。しかしそれは「伝える」だけで「伝わる」を意識していないのです。

公務員に求められるコミュニケーションデザイン

情報を相手にどのようにしたら届けることができるのかを考えることを「コミュニケーションデザイン」と言います。難解な情報も住民目線で分かりやすく置き換えて届ける努力や、内部決裁を得るために、上司に分かりやすく説明したり資料を作る努力を設計(デザイン)するのです。伝えるのは「自分」であり、伝わるのは「相手」です。どれだけ自分本位でなく相手のことを考えることができるのかが、これからの公務員に求められるのではないでしょうか。

前例踏襲のパズル型公務員の時代は終わりました。ブロック型公務員が増えれば日本は変わるはずです。現状打破、業務改善を改革しながら伝えるではなく「伝わる」ことを意識でき、かつ変化に順応できるブロック型公務員、つまり「ニューノーマル公務員」の時代が幕を開けました。


佐久間 智之(さくま ともゆき)

1976年生まれ。東京都板橋区出身。埼玉県三芳町で公務員を18年務め税務・介護保険・広報担当を歴任。在職中に独学で広報やデザイン・写真・映像などを学び全国広報コンクールで内閣総理大臣賞受賞、自治体広報日本一に導く。2020年に退職し独立。現在は早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員のほか中野区、四万十町、北本市の広報アドバイザー、特別区協議会のSNSアドバイザー、神奈川県コロナ対策技術顧問(元)などを務める。著書に「Officeで簡単!公務員の一枚デザイン術」「公務員1年目の仕事術」など多数。写真家としてJuice=Juice 金澤朋子セカンド写真集「いいね三芳町」。PRDESIGN JAPAN株式会社代表取締役。
 

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