ジチタイワークス

木下 斉さんに聞く、コロナ禍だからこそ「自治体がやるべきこと」とは。

全国各地で経営とまちづくりに取り組み、そこで見えてきた地方創生のリアルを発信し続けている木下さん。コロナ禍の今だからこそ明らかになったことや、目指すべき自治体のあり方などについて話を聞いた。

※下記はジチタイワークスVol.12(2020年11月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。

まちビジネス事業家
一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事
木下 斉 さん

早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。一橋大学大学院商学研究科修士課程修了、修士(経営学)。一般社団法人エリア・イノベーション・アライアンス代表理事、一般社団法人公民連携事業機構理事。熊本城東マネジメント株式会社代表取締役、サッポロ・ピン・ポイント株式会社代表取締役、勝川エリア・アセット・マネジメント取締役なども務める。事業開発だけでなく地方政策に関する提言も活発に続けている。著書に『地方創生大全』(東洋経済新報社)など。

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自治体の強みである広報力を活かしつつ民間をサポートする。

Q.新型コロナの発生前後で、地域のあり方はどう変化しましたか?

まず自治体の対応としては、東京軸で情報を出すメディアに反応し、過剰に閉鎖的・排他的になった地域と、誹謗中傷を止めるなどの冷静な対応をした地域という差が出ました。事業者では、私が関わっている中でも飲食業はダメージが大きい。人々が繁華街を避けるのは、感染はもちろん社会的に叩かれることをおそれているから。病理的リスクというより社会的リスクが高いという印象を持っています。

一方、熊本県の上天草市など都市部から少し離れたところは人手が戻り、9月の段階でほぼV字回復。北海道の余市町でも9月からワイナリーでのグランピング事業を始めたりして、近郊は経済が回復しているところがあります。

Q.回復の早さの違いは何から生まれるのでしょう?

民間主導か行政主導かの違いは大きい。民間は生活がかかっているので、宿泊や観光関連施設、商業系でも工夫しながら先立って動かそうとしてきました。いち早くアクションを起こしたところは成果を得ていて、この秋から人が動き始めたら、経験値をもとに対応できて、さらなる経済回復を見込めます。

他方で、行政関連施設が完全に止まったのは、訴訟リスクや議会対応を考えれば仕方のないことです。民間が先に動き、行政が後押しできている自治体は強い。反対に何もやらない自治体と、民間の行政依存が強い地域は、今回のコロナでさらに厳しい状況に。官民それぞれの役割と連携が試されました。

Q.コロナで都市から地方へ人が動くという見方がありますがいかがでしょうか?

総合的に考えて、地方に引っ越す人が山ほど増えるとは思えず、東京都の住民基本台帳を見ても例年とさほど変化はありません。自治体が移住者を呼び込む場合、移住経験者が窓口になっているとか、すでに受け入れ態勢や制度が整っているところが選ばれやすい。ありがちなこととして、空き家問題や若者不足といった地域の問題を、移住施策によって一気に解決しようとしても、おそらくうまくいきません。地元の人すら住まない古い空き家に移住検討者が住みたがるでしょうか。どんな人に来てほしいかを考えて、その人たちが望むような住宅を案内し対応するという合理性が必要です。移住者は、自分の描く生活を実現するために行動するのですから。

そもそも人口が減っていく日本において、人口を増やすという方向性にも無理があります。50年後の総人口は約8,500万人になり、高齢化は30年後には落ち着くと予測されています。しばらくは医療や介護関連費が上がり、税収が落ち込むというダブルパンチですが、それを乗り越え、その先を見据えて複数の自治体で施設を共有するなど、知恵を出して地に足がついた社会運営をしていくことが大事です。

Q.地方創生臨時交付金の使い方がうまい自治体は?

今年は地域クーポン券の発行、事業者や生活困難者への支援に活用する自治体が多く、あまり違いはありません。先日、ふるさと納税の「ふるさとチョイスアワード」で審査員を務め、集まったお金を最も効果的に活用したベストインベストメント賞に鹿児島県錦江町を選びました。小児科専門医が不在の町で、都市部の医師に遠隔で相談できる小児科オンラインを導入した事例です。また、お金の使い道を検討するために市民を入れた活用協議会をつくっている自治体もあり、素晴らしいと思いました。

Q.Withコロナの中で、自治体が地域を活性化するためにできることは?

自治体の大きな強みは広報力。「うちは1カ月にわたって感染者がゼロだから、ぜひ来てください」というような話は率先して発表してほしい。行政がポジティブな情報を出すことで、前向きな空気感を醸成できます。ほかにも、例えば香川県三木町では、観光いちご農園が客の受け入れをストップしていちごの行き先に困っていたところ、町の職員が冷凍してふるさと納税のお礼の品に出してはどうかと提案し、とても売れたそう。

また、共通クーポンの登録手続きが分からない事業者がいる地域では、自治体が「クーポン制度が始まるので、皆でやりましょう」と音頭を取るとか、予算をかけなくてもできることはたくさんあるはずです。先を行く民間をどんどん応援しつつ、追いついていないところは底上げするようなサポートをしていくことが重要だと思います。

 

木下さんから学ぶ3つのポイント

POINT01:役所の外に出て地域の人たちに会おう。

仕事のやりがいを見つける上で、役所の外に出ることは非常に有効。地元でいろいろな事業や生活をしている人に出会えば刺激を受けて、まちづくりへのやりがいも感じられるでしょう。職員ではなく一個人として役所外の人と付き合い、築いた信頼関係は、きっと財産になります。まずは家から職場への道や時間をちょっと変えてみませんか。

POINT02:人材に投資して適切な人事を行う。

私たちは都市経営プロフェッショナルスクールをやっていて、これまで自治体や民間から300人以上が参加し、各分野で先行事例をつくっています。学びはもちろん、意欲のある人たちとつながる意義も大きい。外部コンサルに委託するのではなく、研修などで職員に適切な投資をし、それを活かせる人事をすることで行政業務は大いに変わると思います。

POINT03:頑張る人たちをしっかりサポートする。

地域の主役は住民や事業者。利己的な要望ばかりする人の声に自治体が応えていても、地方創生は難しい。壁を突破するカギは、まちづくりに意欲的な民間。周りを巻き込んで動く住民や事業者があらわれたら、自治体がそれに寄り添って成果を出す事例をいくつも見てきました。規制緩和など行政にしかない努力をすれば、地域は活性化すると思います。

 

 

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