ジチタイワークス

横割り組織で応援、移住・起業の誘致策“ローカルベンチャー”の成果とは。

岡山県の東北端部、山間に位置する西粟倉村。森林率が93%を占める小さな村の人口は約1,440人。そのうちの1割、約140人が移住者であり、地域のコミュニティ維持を担う20~30代が中心だ。豊かな森林資源をベースに、村を活性化させ再生の道へと導いたカギは、自治体の大胆な方針転換と、地域に拠点を置くベンチャー企業“ローカルベンチャー”の誘致策にあった。

12年間で45のベンチャー事業を支援・創出してきた村役場の挑戦を紹介する。

※下記はジチタイワークスVol.12(2020年11月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]岡山県西粟倉村

「百年の森林構想」が生んだ“上質な田舎”づくりビジョン。

平成16年、大規模な市町村合併が全国で生じる中、同村は合併を拒否し、自立の道を進むことを決める。村の再生のためには、独自のビジョンが必要と見直したのが、森林をベースにした地域資本の価値向上だった。地域再生マネージャーなど外部の見識を積極的に取り入れ、平成20年に打ち出したのが、森林管理プロジェクト「百年の森林構想」。これは市場中心の木材販売から村自身による直接販売へ、村独自の木材の活用システムを導入する画期的な転換だった。同時に「村を“上質な田舎”に」というビジョンを掲げ、“ローカルベンチャーなど多様性にあふれた社会をつくる”指針を立てていく。

まず、用材のベンチャー企業を支援し基盤を固めた後、平成27年には行政と地域で起業を目指す若者の間に立つ中間支援組織と協働し「ローカルベンチャースクール」を始動。地域で起業したい人に学びの場を提供、新規事業を創出し最大3年間で事業の自立を目指す仕組みが高い関心を集めている。

「事業は主に3タイプあります。やりたいことを実現する“ 起業型”、役場のプロジェクトを実現する“行政連携型”、地域で生まれたベンチャーや既存の事業をスケールアップさせる“右腕人材型”というもの。同時に『ローカルベンチャー推進協議会』を立ち上げ、同じ志を抱く自治体同士でつながり、全国のネットワークを強化していきました」。ジビエ猟師、出張日本酒バー、モンテッソーリ教育など多様でユニークな起業型移住者の輩出が続き、村の事業は森林産業から多業種事業へと拡大中だ。

自治体をプロデューサーに「地方創生推進班」が発足。

さらに村役場の組織改革で、ローカルベンチャーの躍進は続く。「多様な事業に対応するため、各課から12名を選出し、併任辞令を出して『地方創生推進班』という横串を刺した組織化を行いました。自分基点で村の課題を捉えたとき、どうあったら村民の“生きるを楽しむ”につながるかの意見やアイデアを出し合い、“マイプロジェクト”を企画。

ビジョンを明確にすることで、事業を自分ごととして進めていけます。職員はプロデューサー役として財源や人手、資源を確保し、事業全体を管理する。役割分担すれば、ビジョンとそれを具体化させるプロジェクトを同時進行していけます。それが事業成功のポイントではないかと思います」。自治体の柔軟な姿勢と教育・福祉といった内需型ベンチャーの参入、関係人口の拡大により、住民理解と賛同も徐々に進み、ローカルベンチャーは村全体の資本向上に大きく寄与している。

村の資源を最大限に活用し新たな事業の創造は続く。

ローカルベンチャーがモデル化した今、企業とのR&D(研究開発)、ESG投資など新しい事業分野への進出も始まった。「村役場のマイプロジェクトである『西粟倉むらまるごと研究所』では、公共データを集約しオープンデータを準備中です。また、課題としてあった用材以外の森林価値を活かす“目に見えない地域資源”について専門企業と協働で研究を進めています」。

森林食材の開発やヘルスツーリズムなど、ローカルベンチャーとの共創を追求する同村のポテンシャルは尽きない。「コロナは確かに地域に目を向ける要因になっていますが、現在の当村の姿は、50年先の豊かな森と村を見据えながら、12年間ビジョンとプロジェクトを実行し継続させてきた成果だと思います」。
 

■“上質な田舎”づくりを目指した西粟倉村の歩み

 

課題解決のヒント&アイデア

1. ビジョンとプロジェクトの“同時進行”が事業成功のカギ

ビジョンだけで終わらせず、具体的なプロジェクトをセットで考え、実行に移していった結果、起業型移住者や多拠点生活者の誘致につながった。

2. 「地方創生推進班」という横串を刺す行政の仕組みづくり

勉強会のような任意の集まりではなく併任辞令を出して組織を改変。業務として腰を据えて取り組めるので、スピーディーな意思決定や対応が可能に。

3. 自治体職員はプロデューサー役となる

職員は事業の総括を担当、人材や資源、資金をつくることで、業務が効率化し事業成功率が向上した。

 

SDGs未来都市のモデル事業都市として、地域の土壌を豊かにするためのESD教育やスギ・ヒノキの人工林だけでない豊かな生態系を持つ森林をデザインする中で、新しいビジネスモデルの展開といった取り組みがますます重要だと考えています。

西粟倉村
地方創生推進室 参事 上山 隆浩さん

 

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