コロナ禍の外出制限で精神面の不安が大きいのは、介護を要する高齢者や障害者にとっても同様である。堺市では、こうした人たちに“しゃべる機会”を確保するための施策に取り組む。一つはタブレット端末の貸与による「デジタル面会」、もう一つが「電話による見守り活動」だ。そこで同市の各担当課と長寿支援課の鷲見さんに話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.11(2020年9月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[提供]大阪府堺市
タブレット端末による「デジタル面会」なら離れた家族とも画面を通して対面できる。
介護事業者課と障害者支援課が連携して導入を進めた「デジタル面会」は、入所型の介護等施設や障害者支援施設等を対象に、希望する施設にタブレット端末を無料で貸し出し、利用者が画面を通して家族と面会できるサービスだ。利用者にとって“しゃべる機会”はとても重要。施設の多くで家族との面会が制限・中止されている中で“しゃべる”ことがなくなると、行動意欲が低下し、身体機能の虚弱化につながってしまう。
「たとえ画面越しでも、顔を見て話すことで寂しさやストレスを軽減し、高齢者の衰弱予防につながれば」との思いで取り組んだ介護事業者課には、「リアルタイムで表情が分かって安心する」という家族からの声が寄せられた。また当初、障害者支援課では「利用者が混乱して不安定になるのでは」という懸念があった。しかし実際に利用してもらうと、家族の姿が見えることに喜びの表情や安堵する様子を見せていたという。
今回の取り組みでは、希望する施設に上限2台のタブレット端末を貸与。募集開始後、91施設中47施設が手を挙げた。接続環境は施設側で整える必要があるが、当該施設ではいずれもWi-Fi環境が整備されており、支障はなかったという。「導入がスムーズだったのは、庁内を横断し複数課での連携が取れていたからです。機器の選定や運用方法など、ITに関する部分は、ICTイノベーション推進室がバックアップしてくれました」と長寿支援課の鷲見さんは話す。
また障害者支援課では、「対面、電話、手紙など従来のコミュニケーションに加えて『デジタル面会』という方法ができたことによって、つながり方が広がりました。コロナ禍の取り組みで終わらせるのではなく、障害福祉分野におけるICT活用のさらなる推進につなげていきたい」と今後の展開にも前向きだ。
約1万9,000人を電話で見守り、会話しながら安否をキャッチする。
一方、「電話による見守り活動」は、社会福祉協議会と長寿支援課が連携した取り組みで、その目的は「デジタル面会」同様“しゃべる機会”の確保。一人暮らしの高齢者をはじめ、災害時の避難に支援を要する方々(堺市避難行動要支援者一覧表の登載者)1万9,541人を対象に、地域の民生委員児童委員が電話でコミュニケーションを図る内容だ。民生委員児童委員からは「人と会えない状況のため、どの方も電話を喜んでくれた」「最初は皆さんためらうが、話し始めると声にハリが出て、笑い声も生まれる。会話の大切さを改めて感じた」などの報告があった。支援が必要なケースが発覚すると、病院へ相談するようアドバイスを行ったり、専門職につないだりなどの対応を行ったという。
社会福祉協議会では「平常時から民生委員児童委員も参画する校区福祉委員会で訪問活動を行っていましたが、今回、これまで把握できていなかった方々とも接触できたことが最大の収穫。また、緊急事態宣言中の短期間に約1,100人の民生委員児童委員が、多数の支援を必要とする方の安否確認をできたことは、各委員の使命感の高さとともに、日頃からの社協との連携の賜物です」と取り組みを振り返る。また、これを機に、気がかりな人を平常時の訪問対象に加えることに。さらに、同期間中に虚弱化が進行したと思われる人とは、宣言解除後にケアマネージャーを交えて話し合うことになった。これにより、本来の民生委員児童委員活動にも効果的につなげることができたという。
課題は事前周知だろう。電話する前に対象者へ通知が郵送されていたものの、今回は非常に短期間での取り組みだったため、周知が十分ではなかった。そのため、本人や家族から「不審な電話かもしれない」と警戒されることがあったという。
コロナ禍だけではなく、この先も活用していく。
二つの施策は、コロナ禍での限定的な取り組みであるが、利用者や家族には非常に喜ばれ、“しゃべる機会”を確保することの重要性を改めて確認できた。新型コロナウイルスの収束は未だに見えてこず、今後も継続的な支援が必要となるだろう。今回の取り組みで得た気づきが、新たな展開に活かされるに違いない。
堺市健康福祉局 長寿社会部 長寿支援課 鷲見 佳宏(わしみ よしひろ)さん
事業に取り組む各課の皆さま
左:介護事業者課 赤松さん
中央:障害者支援課 佐野さん
右:社会福祉協議会 所さん
課題解決のヒントとアイデア
複数課で連携!ICTを福祉部門でも積極的活用へ
デジタル面会でのタブレット端末の貸し出しに当たっては、技術面でのサポートに配慮。希望した施設や事業所に対し、設定などに関する説明文書を作成して渡し、口頭でも説明を加えた。ソフトは市から指定せず、各自で使いやすいものを利用してもらった。市長が選挙公約にも盛り込むなど、堺市ではICTの活用に力を入れている。