知を育み交流を生む官民連携書店
北陸新幹線の金沢・敦賀間の延伸に向け、敦賀市は“本の集客力”に着目し、令和4年に官民連携書店「ちえなみき」を駅前の複合施設の一角にオープン。それからわずか2年で68万人の利用者を達成した、その歩みについて話を聞いた。
※下記はジチタイワークスVol.35(2024年12月発行)から抜粋し、記事は取材時のものです。
[PR]丸善雄松堂株式会社
左から
敦賀市
まちづくり観光部
部長 小川 明(おがわ あきら)さん
まちづくり推進課
係長 西村 勇人(にしむら はやと)さん
市民の居場所とにぎわいづくりのため本を活かした官民連携書店を目指す。
平成18年から敦賀駅周辺の土地活用について議論を重ね、整備を進めてきた同市。駅西口エリアの活用方法がほとんど決まっていた段階で、東日本大震災が発生。計画が白紙に戻ったことに加え、新幹線の開業が3年前倒しになったため、計画を急ぎ練り直す必要があった。「市長が代わったばかりだったこともあり、市民のニーズを直接聞くためのワークショップを開催しました。すると“雨の日に子どもを連れて行く場所がない”“知育に関する施設がない”という意見が出ました。そこで、市民の居場所であり、来訪者の玄関口となる、知育・啓発施設をつくることになったのです」と小川さん。
先進地域を視察していく中で、“本には集客力があり、にぎわいを生み出す”という点に注目。さらに、行政サービスとして、良質な“知”にアクセスできる“知的情報インフラ”が必要だと感じていたという。そこで、図書館法に縛られない自由な選書と配架が可能な、書店形式を採用。また同時に、公設公営での運営は難しいため、公設民営にチャレンジ。ちえなみきを含めた土地活用については、内閣府の「PPP/PFI専門家派遣制度」を利用して官民連携を進めていった。
▲本と出合い、人と出会い、知を育む施設には、多くの親子連れの姿が見られる。
豊富な実績と選書への熱量に加え人も場もつなげる力が決め手に。
専門家派遣制度を通じたコンサルタントの支援もあり、公募型プロポーザル方式で民間企業を選定した同市。募集要項には、施設の運営・本の選書・内装設計などを盛り込んだという。様々な企業が応募する中、建築部門をもち、自社で全て対応するプランを提案した「丸善雄松堂」と「編集工学研究所」の共同企業体を採用。「同社は大学図書館の業務受託実績が多く、1級建築士事務所でもあります。さらに、“この本を市民に届けたい”というエネルギーを強く感じました」と西村さん。
特にコミュニティづくりの点では、その力が大いに発揮されたという。同社の社員たちはオープン3年前から月に数回ほど市へ出向き、そこでまちづくりを行う地域住民や企業、学校関係者と関わり合いながら、ネットワークを拡大・構築していった。こうして「つるが未来会議」が設立され、ちえなみきの活用を考えるコミュニティが立ち上がり、自走できる体制に。その結果、書店のオープンを皮切りに様々なプロジェクトが走り出し、わずか2年で延べ400回以上のイベント開催という実績につながった。「同社との関係から大学の教授によるセミナーが開催されたほか、大学生がフィールドワークの場として利用するなど、思わぬ実りもありました」。
売り上げにとらわれない選書が地域内外の本好きを引き寄せた。
ちえなみきは、市が想定した利用者数を上まわる成果を出している。利用者からは本の目利きによる独自の選書や、洋書・絶版本など入手困難な本も好評だという。また、図書館とは異なる知的体験を提供している点も見逃せない。「乳幼児から高齢者まで幅広く利用し、自由に活動しています。本を介した人々の会話が多く生まれているのが特徴的です。新幹線開業以降は、選書を気に入り県外から足を運ぶ人も増えています」と西村さん。
この成果の裏には、職員の地道な努力もあった。「これまでにない取り組みだからこそ、市議会への丁寧な説明が必要だと考えました。また地域の区長や商店街、ここで暮らす人々をより多く巻き込んで理解を得ることや、“一緒につくっている”という意識をもってもらえるよう動いたことが、官民連携書店の円滑なスタートに寄与したと考えています」と小川さん。今後は、ちえなみきが市の玄関口となり、利用者を市内へ呼び込むしかけを展開していきたいという。また、令和6年2月に締結した丸善雄松堂および大日本印刷と同市との包括連携協定を活かし、新たな知のネットワークづくりを進めていく予定だ。